賃金構造維持の確保と中小は賃金改善を――金属労協が2011年闘争方針を決定

(2010年12月8日 調査・解析部)

[労使]

春闘の交渉リード役である金属労協(IMF・JC、西原浩一郎議長、202万人)は7日、東京・新橋で第53回協議委員会を開き、2011春闘の闘争方針を決めた。賃上げ要求では、定昇など賃金構造維持分の確保を前提に、中堅・中小については金属産業にふさわしい水準の確立に向けて賃金改善に取り組むこと、さらに加盟組織の5割超で年間一時金が4カ月を割り込んでいることから、最低獲得水準として4カ月以上を打ち出した。

「付加価値の適正かつ公正な配分を」(西原議長)

冒頭のあいさつで西原議長(自動車総連会長)は、2011年闘争を巡る情勢について、「金属産業の2010年度の企業収益は政府のエコカー補助金やエコポイント等の政策効果や輸出の拡大等により、大手企業を中心に総じて増収増益の見通しとなっているが、下期に入り慎重な見通しが広がりつつある」と分析。そのうえで、「交渉環境の厳しさは受け止めた上で、日本経済を自律的な内外需バランスのとれた成長軌道に乗せる」ことが必要だとし、「生み出した付加価値を働く者の雇用の維持・安定と雇用の質の改善に向け、適正かつ公正に配分することでこれ以上のデフレの進行を食い止めていかなければならない」などと訴えた。

一方、政府が関係国との協議開始を表明した環太平洋経済連携協定(TPP)に触れ、「自由貿易協定(FTA)、経済連携協定(EPA)の締結において立ち遅れて、金属産業をはじめ輸出型産業の国際競争力は大きく阻害されつつあり、このままでは日本の金属産業は、国内生産拠点の海外移転、ひいては雇用喪失を加速しかねない状況にある」との危機感を表明。「政治のリーダーシップで早期参加の道を切り開いてもらいたい」と政府の対応を促した。

一時金は最低獲得水準として4カ月以上の確保

この日決めた闘争方針では、基本的な考え方として、日本経済を早期にデフレから脱却させ、着実な成長軌道に乗せるためには、「日本の基幹産業である金属産業の一層の発展が不可欠である」と主張したうえで、その発展を支える「人」への投資を拡充する必要があり、勤労者への公正な配分を追求するとしている。

賃上げの要求項目としては、「賃金水準の維持」と「賃金改善」を設定。賃金水準の維持に向けて、すべての組合で賃金構造維持分を確保するとしている。また、「賃金改善」については、中堅・中小企業を含め基幹産業にふさわしい賃金水準に向けた適正な成果配分や産業間・産業内の賃金格差の解消をめざす組合は、賃金改善に取り組むとしている。

一時金については、業績が全体的に回復していることを踏まえ、年間5カ月分以上の要求を基本とする一方、家計の安定に向けて最低獲得水準として年間4カ月以上の確保を掲げた。

連合の2011闘争方針では、賃金の復元に向けて、「マクロ的観点から、すべての労働組合が1%を目安に賃金を含め適正な配分を求める」との方針を決めている。ただし1%には月例賃金だけでなく一時金、手当などを含めることを確認しており、金属の大手組合の多くは、一時金の増額による復元をめざすものとみられる。

非正規の処遇改善では企業内最賃協定に力点

この他の要求事項としては、非正規労働者の賃金底上げのため、企業内最低賃金協定の締結拡大(締結数1,465組合、全体の44%)と水準の引き上げ(15万4,000円以上もしくは月額1,000 円以上の引き上げ)に取り組む。また、非正規労働者の採用・受け入れに当たって、仕事内容、期間、人員、社会保障への加入を労使間で確認・協議するなど、法令遵守の徹底を呼びかけている。

また、時間外労働割増率は法を上回る制度、労災付加補償の水準を死亡・障害等級1~3級を3,400万円とするなど、先行する組合の水準へのキャッチアップをめざす。さらに、65歳までの公的年金の支給が段階的にゼロとなることを踏まえ、希望者全員の安定雇用を確保するため、就労制度の一層の改善を図る一方、「労働の価値にふさわしく、かつ生活を維持することのできる賃金の確保」を新たに盛り込んだ。

要求提出は、集計登録組合を中心に2月23日までとし、闘争の山場については、3月第3週を中心に連合と調整中だ。

IMF、ICEM、ITGLWFの製造3GUF(国際産別)の統合についても報告

なお、協議委員会では、金属労協が加盟する国際産別組織(GUF)のIMF(国際金属労連、2,500万人)とICEM(国際化学エネルギー鉱山一般労連、2,000万人)、ITGLWF(国際繊維皮革労働組合同盟1,000万人)の組織統合の検討に関する報告があった。IMFサイドは来年12月上旬にインドネシアで開く中央委員会での統合決定を予定しており、3組織解散と新組織の結成は、いまのところ2012年5~6月が予定されている。