60歳以降の安定雇用の確保で議論/基幹労連定期大会

(2010年9月15日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄の労働組合でつくる基幹労連(内藤純朗委員長、25万1,000人)は9,10の両日、広島市で定期大会を開き、向こう2年間の運動方針を決定した。方針の柱は、2年サイクルの春季交渉の継続や60歳以降の雇用確保の本格的な検討、地球温暖化対策などの産業政策の推進・実現と政治活動の強化など。役員改選では、神津里季生委員長(新日鉄労連出身)、工藤智司事務局長(三菱重工労組)らを選出した。

2年サイクルの春季交渉の取り組みが定着

基幹労連定期大会:労使/メールマガジン労働情報第658号(2010/9/15)/JILPT

基幹労連の春闘は、初年度は大手が中心になって賃金などの主要労働条件を集中的に交渉し、2年目には一時金や企業・業種間の格差是正などの交渉を重点的に行う2年サイクルで労働条件の改善をはかっている。新運動方針は、この2年サイクルの取り組みを2006年春闘から継続してきたことを、 (1) デフレ経済下にあっても労働条件を改善していく姿を定着させた (2) 賃金改善という新たな概念を導き出し労働界全体の共有概念とした (3) 賃金だけではない数多くの項目において成果をあげるという姿を確立してきた――と評価。今後も「2年サイクル・好循環の取り組みを引き続き追求する」とのスタンスを明記した。

7割が前向きな回答を獲得

今春闘で基幹労連は、厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に引き上げられ、最終的には65歳まで無年金状態になる、いわゆる「2013年問題」への対応として、今春闘要求の柱に盛り込んだ。

基幹労連によると、春闘交渉を通じて構成組織の約7割が「労使検討の場の設置」などの前向きな回答を引き出したものの、経営側からは (1) 固定的・構造的コスト増につながる施策については慎重に対応せざるを得ない (2) 60歳到達時期によって処遇に違いを生じる可能性もあり、世代間で公平性が保てない (3) 期待感と能力の発揮度合いを鑑みれば、社員全体の公平感や納得感を担保していく必要がある (4) 人生設計、ローン返済状況等、個人を取り巻く環境が大きく異なり、就労ニーズも多様であり、一律の取り扱いが必ずしも望ましいとはいえない――などの課題提起があったという。

内藤委員長は冒頭のあいさつで、「60歳以降の雇用確保」について、「その重要性の確認と制度構築のための労使話し合いの場の設置という具体的な成果をあげた。2013年に向け、どの産別よりも優れた、安定した雇用システムの構築に向けて努力し、人への投資として獲得したこの成果を確実なものにしなければならない」と訴えた。

運動方針では、「60歳以降の雇用確保」の取り組みについて、「本格的な労使検討の段階を迎える。加盟組合の状況を把握し全体の足並みを揃えつつ、都度、産別全体としてベースの考え方を提示していく」とした。

今後、「まずは経営対策上の課題のクリアに努めるとともに、長期的視野でのあるべき姿と、そこへ持っていくための戦略、働く者のニーズの多様性といったポイントごとの正確を十分に踏まえて進めていく」方針だ。

産業政策・政治活動の取り組み強化を/政治センターの設置も確認

一方、産業政策の取り組みでは、地球温暖化問題に触れ「先の国会で廃案となった地球温暖化防止基本法は、CO2の25%削減の前提条件を撤廃しろと主張している野党と連携すれば、主要排出国に意欲的な削減を求めることなく、わが国だけが25%もの削減義務を負う法律ができあがり、わが国経済と国民生活に致命的な打撃を与える」と指摘。「現在、組織内議員と連携を図りながら、連合や私たちに理解を示す関係省庁・団体との調整を行いつつ、この防止に努めているが、国会運営に係わるものであり、私たちの手の届かないところで急転してしまう可能性も否定できない」などと警戒感を示したうえで、「これを防止するには私たちの政策の持つ意味を正しく民主党、特に復活した政調に理解してもらうことが大切。産業政策のどこが重要で、どこが譲れないのかをしっかりと説明していかねばならない」述べ、政策要求の取り組みを強化する考えを示した。

産業政策の推進については、新運動方針でも「好循環を支える産業の発展に向けた政策の推進・実現が基本的な使命であり、基幹労連が主体的・能動的・直接的に対応すべき取り組み課題」としている。「資源ナショナリズムの高揚、新興国における重工業育成策の強化、地球温暖化対策との関わり、わが国の深刻な財政状況など、放置しておけば組合員の雇用基盤に大きな影響を及ぼしかねない状況が目の前にある」として政策推進力・実現力の強化を明記。併せて、「インフラ整備基盤に関わりの強い産別として、公共事業への財源配分見直しについて是々非々で対応していく」ことも強調している。耐震対策や老朽化更新、下水道の生活基盤整備など「本当に必要なものがおろそかにされることのないよう求めていく」考えだ。

政策実現に向けた政治活動は、引き続き民主党基軸の取り組みを継続。「国会議員(組織内・準組織内議員を軸にした)との対応、県本部や議員団会議との連携、政局を含めた関連動向の把握、政策実現活動の日常的強化を目的として、政策推進グループ内に『政治センター』を設置し政治活動の強化を図る」との方針も打ち出している。「政治センター」では政治活動方針や議員候補者の推薦基準などについても検討、再整理する。

60歳以降の安定雇用確保に意見が集中

議論では、60歳以降の安定雇用確保の取り組みに関する意見が集中した。鉄鋼総合大手から「2012年までの経済環境が制度づくりを左右する面も否めず、個別企業がおかれた環境も制度づくりと無縁ではない。連合を通じて民主党政権に働きかける政策・制度面からの取り組みが重要だ」(JFEスチール労連)、「世代交代が進むなかで、60歳以降の雇用確保がどのような意義や必要性があるのかを十分整理し、労使で認識を共有させることが不可欠だ」(新日鉄労連)、「個別労使に委ねる項目と産別内で検討する項目など、メリハリをつけて取り組むことも必要」(日新製鋼労組)などの意見が出された。一方、中小からは、「この問題で議論の第一歩を踏み出すのは大変厳しい」(JFE条鋼労組)、「1企業労組として今後、具体的に何をどのように議論していくかは雲を掴む思い」(日本高周波鋼業労組)などの意見が出され、総合部門を中心とした議論や進捗内容、産別本部としての方向性や考え方を示して欲しいとの要望が相次いだ。

この他、「生涯獲得賃金の考え方もあり、働く期間を延長することで若手世代などへの給与水準の見直しといった不安が払拭できない」(JFEメカニカル労組)、「60歳以上のことをあまりにやり過ぎるのはどうか?若い人のことを考えて、有しているものを切り捨てながらパラダイムシフトをやらねばならない時期ではないか」(昭和KDE安芸津労組)などと、若年層への影響を懸念する声も上がった。

神津新体制がスタート

大会では役員の改選が行われ、2期・4年務めた内藤委員長が退任して、神津里季生事務局長(新日鉄労連出身)が後任の委員長に就任。後任の事務局長には工藤智司三菱重工労組委員長が就いた。また、瀧澤健二委員長代行・鉄鋼部門議長(JFEスチール労連出身)が退任、委員長代行には澤田和男副委員長(IHI労連出身)が回った。新たな副委員長・鉄鋼部門議長には、兼子昌一郎JFEスチール労連委員長が就任した。