賃金体系維持と一時金4カ月以上を確保して決着/電機連合

(2010年3月19日 調査・解析部)

[労使]

電機メーカー労使の2010春闘は、経営側が定期昇給制度のあり方に言及するなど、先行きの不透明感や国際競争のさらなる激化を背景に賃金抑制の姿勢を回答日直前まで崩さなかったが、「現行の賃金水準の維持・確保を至上命題とする」(電機連合・中村正武委員長)ことを統一要求に掲げた電機連合加盟大手13組合はストを背景に最終盤の交渉に臨み、いずれも「賃金体系維持」を確保した。一時金は交渉組合が産別ミニマム基準の年間4カ月に相応する水準を確保。業績連動算定方式を採用する組合でも、産別ミニマム基準をクリアすることを確認して決着した。

定昇や昇格昇給制度の完全実施を求める

電機連合は、2010春闘での賃金改定について、「取り巻く経済・雇用環境が厳しい情勢のなかで、賃金水準の改善(引き上げ)要求を行う状況にはない」と判断。その一方で、「生活の安定と組合員のモラールの維持・向上の観点から、賃金体系の維持をはかる」こととした。定期昇給や昇格昇給制度が明確に確立されている組合は、その制度運営の完全実施を求めてきた。

09春闘では、電機連合はいわゆるホワイトカラー層の賃金水準を4,500円以上引き上げることを統一要求に掲げたが、大手13組合が受けた回答は、いずれも「賃金体系維持」にとどまった。そのうえ、電機大手の一部などで定期昇給の凍結・先送りが実施された経緯もあった。このため、今春闘ではそういった経営側の動きを認めない姿勢を強く打ち出して交渉に臨んだ。

定期昇給のあるべき姿に言及

これに対し、経営側は、「今年度の業績見通しは、確かに回復基調にあるが、先行きが見通せない現状では、賃金体系維持の要求に対しても極めて慎重に対応しなければならない」「より一層のコスト競争力をつけるためには、総額人件費を抑制することが必要不可欠であり、これ以上のコスト上昇につながる要求には応じられない」などの姿勢に終始したため、労組側は極めて厳しい交渉を余儀なくさることとなった。

交渉が終盤になっても、こうした経営側の姿勢は変わらず、産別労使交渉では「低成長時代、企業競争の激化という環境下での定期昇給のあるべき姿については、冷静に検討していく必要がある」などと、定昇制度そのもののあり方や、その見直しの必要性についても言及。実際、沖電気工業(OKI)では経営側が定昇凍結の協議を提案するなど、制度運営の完全実施できるか否かが焦点になった。

ストライキを背景に賃金体系維持を確保

こうした状況の下、電機連合は、15日の中央闘争委員会で「賃金体系の維持(現行個別賃金水準の確保)」と「制度運営の完全実施」を闘争行動(24時間ストライキ)の回避基準に設定して最終盤の交渉を展開。その結果、17日の回答指定日には、不安視されていた沖電気工業も含む大手13組合が「賃金体系の維持」の回答を受けて決着した。

一時金は回復基調を反映するも、満額には届かず

一方、年間一時金をめぐっては、業績の回復傾向を反映し、業績連動算定方式以外の組合では、満額回答にはとどかなかったものの、日立製作所が前年実績比0.35カ月増の4.55カ月、シャープが同0.4カ月増の4.5カ月、富士電機も同0.1カ月増の4.1カ月となるなど前年実績を上回る回答が相次いで示された。電機連合が目標に掲げる5カ月を上回ったのは三菱電機の5.02カ月(前年実績5.06カ月)のみだったが、産別ミニマムの「年間4.0カ月」については、業績連動算定方式の組合も含めて、13組合全てで確保できる見通しがついた。

産別最賃の引き上げや労災・通災付加保証の増額も

また、スト回避基準には含めなかったものの、組合側が最後までこだわった18歳見合いの産業別最低賃金については、現行水準から1,000円の引き上げ要求に対し、2年連続となる500円の引き上げ回答を受けて15万3,000円としたほか、労働災害・通勤途上災害補償に対する企業付加分(遺族補償)についても、 (1)労災付加補償:従来水準から200万円増の3,400万円 (2)通災付加補償:同100万円増の1,700万円――等の回答を得た。

ギリギリ最低限の水準を確保

中村委員長は17日の金属労協の会見で、「賃金体系の維持を図れたことは、生活防衛、従業員のモチベーションと働きがいの維持という観点からギリギリ最低限の水準を確保できた。一時金は、業績が回復・改善した企業では、これまでの従業員の協力・努力に報いる適正な成果配分としての水準が確保できた。産業別最低賃金は昨年に引き続き500円を引き上げられた。この水準引き上げは、今後の産業別最低賃金につながるものであり、広く言えば地域別最低賃金にも結びつくもの。全労働者を対象に処遇の底上げを図る取り組みを、労組の社会的責務として推進してきた観点からも一定の評価ができる。労災・通災補償に対する企業付加については、労災認定件数が年々増加している現実を踏まえ、要求通りの回答を引き出せたことは評価できる」などと述べた。