60歳以降の雇用確保について協議求める/基幹労連の春闘方針

(2010年2月5日 調査・解析部)

[労使]

鉄鋼、造船重機、非鉄金属の労働組合でつくる基幹労連(内藤純朗委員長、25万1,000人)は3日、都内で中央委員会を開き、2010春闘の方針を決めた。雇用と生活の安心・安定を最重要課題に掲げた今春闘の要求の柱は、「60歳以降の安定雇用の確保」や「年間一時金4カ月程度の確保」など。産別一体となっての賃金改善の統一要求は見送る。

産別一体の賃金改善要求は見送り――条件整う組合は要求も

基幹労連中央委員会-1

基幹労連の春闘は、働く人への投資で魅力ある労働条件をつくり上げることで、産業・企業の競争力強化との好循環を生み出すとの考え方を基本に、2年サイクルで統一要求を掲げる形をとっている。2年前の08春闘では、「2年間で月額3,000円を基準とする」賃金改善を要求。総合大手は2年単位で概ね1,500~2,000円の賃金改善で妥結した。

今春闘は、「深刻の度を増す雇用問題やデフレ傾向で推移する物価動向、さらには急激な回復は望めない経済情勢の見通し等を考慮すると、産別が一体となって賃金改善を求めることは困難」と判断。賃金については、定期昇給の実施を求めることとした。その際、定期昇給制度のない組合は、「制度化ないし整備に取り組む」とし、 (1)標準労働者(35歳・勤続17年)を基準とする場合は、3,700円(年功要素のみ) (2)平均方式の場合は、平均基準内賃金の2%相当――を目安としている。前者は鉄鋼、後者は造船と非鉄金属の定昇制度未整備組合向けの参考指標として示したものだ。

また、取り組み方針は、「これまでの交渉経緯との関わりや格差改善・賃金制度改定等の観点も含め、条件が整う業種別部会・組合は積極的に賃金改善に取り組む」との考えを打ち出した。造船の中堅・中小で構成する造船部会が賃金改善要求を検討している。

一時金は年間4カ月程度の確保を

年間一時金は、5カ月を基本に「生活を考慮した要素」である「4カ月分程度(金額で要求する組合は120万円ないし130万円)」を確保する。さらに、それに上積みする成果反映分をめざせる組合は40万円を基本に設定し、増額に取り組む。ちなみに、昨年は業績悪化の影響などで、全体の4分の1強の組合が年間4カ月を割り込んだ。

60歳以降の雇用確保の協議の場の設置を

厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられる2013年問題への対応として、支給開始年齢にリンクした60歳以降の雇用確保も要求に盛り込んだ。基幹労連は昨年5~6月、「総合意識実態調査」を実施。その結果、3人に2人が60歳以降の就労を希望しており、その理由は「働かなければ家計が成り立たないから」が一番多い。また、老後必要だと考える月額生活費は、平均27万4,000円だった。しかし、現在の再雇用制度は年金とのリンク等で設計しており、「初任給に近い水準しかでていない。これが無年金状態になった場合、本当に生活できるのか」(基幹労連)との懸念がある。そこで、今春闘では、60歳以降の雇用を支える新しい制度の必要性を労使確認するとともに、その実現に向けた検討の場の設置を求めていく。

このほか、労働時間縮減による雇用確保・創出や、直接雇用の非正規労働者の雇用確保なども要求の柱に据える。

60歳以降の雇用確保について意見や要望が

基幹労連中央委員会-2

討論では60歳以降の雇用確保に向けた取り組みについて、意見や要望が相次いだ。川重労連は、「議論を開始することは賛成だが、年金支給開始年齢が引き上げられることは以前から既に分かっていた内容。『雇用制度が65歳まで雇用されている』『支給開始年齢にはまだ時間がある』といった意見を踏まえ、まだ産別のなかでも議論がし尽くされていないのではないか。春季要求としてこの議題が唐突に出てきた感がある」と要求前段での議論不足を指摘。IHI労連も、「単組では個別のいろいろなケースがある。まずはきちんとそれぞれの単組の再雇用の運用状況や課題についてしっかり把握すべきではないか」と疑問を投げかけるとともに、「単組だけでなく産別本部としても業界調整や行政への働きかけを行うことで60歳以降の安定雇用に向けた積極的な取り組みを」と述べた。国への要請については三菱製鋼労組からも「60歳以降の雇用確保に向けた取り組みの労使確認は、簡単には結論が出ないことも想定される。産別として国全体が速やかに段階的定年延長や雇用確保ができ、無年金にならないような法律等の整備に向け、連合、JCとも連携を取り、民主党や政府に対し強く要請して欲しい」との発言があった。

造船部会が賃金改善要求を決定

一方、賃金改善に関しては、名村造船労組が「造船部会は(今春闘で)賃金改善要求を行うことを総意で確認した。新造船が1隻も受注できない状況が長く続くなか、産業・企業の将来に不安を感じるなかで要求するか否かが争点だったが、現在の好操業の下、要求の可否以前に組合員の期待に応えることが課せられた課題として要求を決めた」と報告。「要求した以上、なんとしても納得できる回答を引き出したい。産別本部の強力な指導と交渉支援をお願いしたい」と要望した。

今春闘から制度設計取り組みのスタートを

答弁した神津里季生事務局長は、「60歳以降の雇用確保は、2012年段階では遅い。2年サイクルだからこそ、今回取り組む。今の日本の財政状況のなかで、高齢者の雇用継続給付金等、国がいつまで出してくれるか?65歳まで働くことが当たり前の状況になるなかでは、アテにすることができない時が遅かれ早かれくる。そういう状況になってから制度設計を考えても遅きに失する」などと説明。「我々の運動は、法律が定めていることがあれば、それに従って会社の制度をつくればいいのではなく、むしろ自らが考え方をつくって制度を構築して世の中をリードしてきた。2010年から取り組みのスタートを切っていかねばならない」と呼びかけた。

基幹労連は鉄鋼大手などを中心に5日に集中して経営側に要求書を提出する予定。