賃金より雇用を重視した交渉・協議が重要/日本経団連の経労委報告

(2010年1月20日 調査・解析部)

[労使]

 

日本経済団体連合会(御手洗冨士夫会長)は19日、今春の労使交渉・協議に向けた経営側の指針となる「2010年版経営労働政策委員会報告-危機を克服し、新たな成長を切り拓く」を発表した。「雇用の安定・創出」に一章割くなど、雇用重視の姿勢を前面に打ち出す一方、賃金などの労働条件面については、「賃金カーブを維持するかどうかについて実態に即した話し合いを行う必要がある」などとし、労働側の要求をけん制している。

報告は、第1章日本経済を取り巻く環境変化と経済成長に向けた課題、第2章雇用の安定・創出に向けた取り組み、第3章将来の成長に向けた取り組み、第4章今次労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢で構成。序文で御手洗会長は、「激動の時代の今こそ、企業倫理のあり方を徹底的に見つめ直すともに、勤労・勤勉の価値観、企業内労使協調による生産性向上運動など、わが国企業の強みに磨きをかけていきたい」と述べている。

第一章の経済環境の変化と経済成長に向けた課題では、個人消費の早期の回復は見込みにくく、企業の積極的な設備投資も期待しがたいことから、「当面わが国経済は厳しい状況が続く」と分析。持続的な成長に向けて、経済を再生させるためには「企業の活力を最大限発揮させる」との視点を基軸にすべきであるとしている。

そのための政府の対策として、第二次補正及び来年度予算を早期成立させるとともに、政府・日銀による為替安定、デフレ対策といった景気刺激策などを切れ目なく重点的に実施するよう求めている。

労働政策の決定プロセスは「審議会の結論」を最大限尊重すべき

第二章の雇用の安定・創出では、「当面の雇用安定策の前提となるのは、個別企業における雇用確保努力である」と指摘。昨年3月の「雇用安定・創出の実現に向けた政労使合意」で確認された、「日本型ワークシェアリング」(残業規制、配置転換・出向、雇用調整助成金を活用した一時休業、無給の休日など)を活用しながら、「職場の実態に合った形でのさまざまな雇用確保に向けた取り組みを一層推し進めていく必要がある」と強調している。

また、やむを得ず雇用調整に踏み切らなければならない場合は、「法令順守はもとより、就労先確保や社宅などの提供をはじめとした、離職者に対する最大限の配慮が求められる」と述べ、企業の適切な対応を要請している。あわせて、緊急的な課題として、就職内定率の低迷が懸念される若年者雇用の問題をあげ、各企業に対して「通年採用も含め、極力多くの新卒者の採用に努める」「中途採用や転換制度を積極的に活用しながら、人物本位で若年者に採用の門戸を開いていくことが大切」などと呼びかけている。

政府に対しては、雇用調整助成金制度の手続きの迅速化を図るため、申請書のさらなる簡素化のほか、「雇用保険を受給できない人に対して、公的職業訓練中に生活保障を行う、恒久的な第二のセーフティーネットの制度創設について早急に検討していくことが重要である」などと要望。加えて、労働政策の決定プロセスとして、「公労使三者で構成される審議会の結論を最大限尊重していく従来の政策決定システムを今後とも堅持することが重要である」と主張する一方、政策の具体化に当たっては、規制を強めるのではなく、労使が率先して取り組みを推進できるようなアプロ―チを取るべきだと要請している。

第3章の将来の成長に向けた取り組みとしては、「人材力の強化」をあげ、人的資源が企業発展の決め手になるとの主張を展開している。

第4章の今次交渉・協議に対する経営側の基本姿勢としては、中長期的視点に立った「総額人件費管理の徹底」を従来にも増して各企業に呼び掛けている。具体的には、「賃金カーブを維持するかどうかについても、実態に応じた話し合いを行う必要がある」とし、連合など労働側が今季交渉で求める、定昇、賃金カーブ・体系の維持といった方針をけん制。また、「需給の短期的変動による一時的な業績変動は、賞与・一時金に反映させることが基本」「ベースアップは困難と判断する企業が多い」との見解を示している。

4月の労働基準法改正により、月60時間超の時間外労働の割増率が引き上げられ、労働側もさらなる引き上げ要求を検討していることから、「割増率が引き上がったことによる総額人件費の影響について留意する必要がある」としている。こうした、主張を踏まえ報告は最後に、賃金より雇用を重視した交渉・協議の重要性を訴えている。