LGBTの就労に関する企業等の取組事例
概要
研究の目的
国内の企業におけるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルおよびトランスジェンダー)への対応・配慮・支援に関する取組事例を収集する。
研究の方法
ヒアリング調査
主な事実発見
- 事例の中には、経営トップの後押しを受けて、従業員がカミングアウトしたと思われるケースや、当事者がLGBT関連施策の提案を行ったケースも見られた。経営者がLGBTを支援していこうとする姿勢やメッセージは、当事者が安心して働く上での重要な拠りどころとなり、とりわけ経営者と従業員との距離が近い(直接対話の場があるような)企業ではより有効だと考えられる。
- LGBTに対する職場の理解を深めるためには、研修等を通じて従業員全員の意識の底上げを図ることが有効である。研修後にアンケートをとり、施策に反映した企業もあった。また、対人サービスを行っている企業では、社内向けの研修のほかに、顧客対応の実践的な研修も行い、必要に応じて内容を工夫している企業もある。研修は、どの企業でも取り入れやすい手法の一つだと言えよう。
- 同性パートナーを配偶者と同等に扱う社内制度については、既に導入している企業が10社中5社、導入を予定している企業が1社、検討中が4社であった。導入している企業の中には、配偶者として認める条件として公的書類を必要とする企業、当事者の申請のみで認められる企業、また事実婚を含めて認めている企業などがあり、社員のパートナーに対する会社の捉え方には多少の差が見られた。
どのような手続きにせよ、同性パートナー制度の導入は、LGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル)従業員のモチベーション向上に寄与し、企業としても有能な人材を幅広く確保する手段になり得ると考えられる。ただし、留保すべきは、制度を整えてもカミングアウトしない人も少なからずいるということである。
- トランスジェンダーが求職時/就労時に直面する問題は、履歴書の性別欄の記載や、自認する性の服装や髪型での勤務、トイレ・更衣室の使用、健康診断の受診、ホルモン治療や性別適合手術のための休暇等、多岐にわたる。トランスジェンダーといっても、生まれた性の外見を残している人、ホルモン治療等で自認する性の外見に近づいている人、更に適合手術を受けて戸籍も性別変更した人など、様々である。それ故、企業がトランスジェンダーに対応・配慮することは、個々の置かれた状況や職場の環境によっても異なってくる。
ヒアリングした中でも、トランスジェンダー従業員から寄せられた相談に対しては、本人の意向を確認し、その都度、個別対応しているのが現状であった。特に困難だと思われた事例は、トランスジェンダーが派遣先やテナント(店舗)など自社の外で働く場合である。たとえ社内の環境を整備しても、そうした場所では派遣先企業や入居施設の規則に従わなければならず、自社の努力だけでは解決できない。LGBTがどこでも安心して働けるためには、個々の職場や企業の取組が広がり、ひいては社会全体の意識が変わっていくことが求められよう。
政策的インプリケーション
近年、LGBTに対する社会的関心が高まりつつあるが、LGBTの就労に関して取り組んでいる企業はまだまだ少ないのが現状である。インタビュー調査した10事例からは、LGBTへの差別禁止や理解促進に向けて、研修等を通じた職場の意識の底上げを図っている実態が把握できた。企業が広く啓発活動の推進に取り組めるような支援をすることが政策的に期待される。
政策への貢献
事業主向けリーフレットを作成し、ハローワーク等で活用される予定。
本文
研究の区分
緊急調査
調査期間
平成28年度
研究担当者
- 松沢 典子
- 労働政策研究・研修機構調査部主任調査員
- 新井 栄三
- 労働政策研究・研修機構調査部主任調査員