資料シリーズ No.224
パワーハラスメントに関連する主な裁判例の分析

2020年3月30日

概要

研究の目的

職場における「パワーハラスメント」に関する紛争は増加の一途を辿っており、パワーハラスメントそれ自体は、重要な政策課題の一つとして認識がなされている 。

そうした課題に対処するため、具体的にどのような紛争が存在し、また如何に判断がなされているのかについて、一定の収集と分析をなすことは有用と解される。当該課題に係る具体的な認識なくして、適切な対処を導くことはできないからである。網羅的な収集が可能な紛争類型は、法的紛争、とりわけ裁判所により終局的な解決が図られた紛争であると考えられるが、現在のところ、パワーハラスメントに関連する裁判例について一定の基準のもとそれらを収集し分析する研究はほとんど見られない。

そのため、労働政策研究・研修機構では、緊急調査として、パワーハラスメントに関連する主な裁判例について収集し、その判断傾向につき、一定の分析をなすこととした。

研究の方法

本研究における分析対象裁判例は、下記の基準1.および2.によって、選定したものである。

  1. 判例データベース(TKC)を用い、キーワードを「パワーハラスメント」・「パワハラ」・「嫌がらせ」・「いじめ」とし、裁判日を平成15年1月1日 から平成31年4月1日とし、掲載誌を労働判例・労働経済判例速報として、書誌検索した結果から、行為者の法的責任そしてその使用者の法的責任が問われるなどパワーハラスメントの存否ないしその評価が主な争点(ないし主な争点の一つ)となった事案であって、評釈がなされた事案もしくは主だった労働法の基本書・体系書において言及がなされた事案、またはパワーハラスメントについて一定の規範が示された事案を選定した。

    また、

  2. 上記1.によって拾われなかった(上記検索から漏れるなどした)事案であっても、パワーハラスメント事案などとして、主だった労働法の基本書・体系書の複数において言及がなされた事案で、上記裁判日の範囲内の事案については本研究の検討対象とした。

主な事実発見

  1. 分析対象裁判例においては、行為者の不法行為責任を問うもの、使用者の不法行為責任(一般不法行為責任もしくは使用者責任、またはその双方)を問うもの、使用者の債務不履行責任を問うもののほか、会社法350条責任を問うものが見られ、公務事案では国家賠償法1条1項責任が問われるなどしている。また、債務不履行が問われる場合、安全配慮義務や職場環境配慮義務といった付随義務違反が問われている。
  2. 分析対象裁判例の全てが、「精神的な攻撃」がなされたと解される(あるいは少なくとも原告がそのように主張している)事案である。
  3. 「精神的な攻撃」のみがなされたと解される事案であっても、認容事案が複数見られる。
  4. 認容事案において「身体的な攻撃」がなされたと解される事案が相当数見られる一方で、棄却事案において「身体的な攻撃」がなされたと解される事案は見当たらない。
  5. 棄却事案のうちの一定数は、いずれも被行為者(原告側)に一定の問題行動があったと解される事案である。とはいえ、認容事案においても被行為者(原告側)に問題行動があったと解される事案が相当数見られる。
  6. 分析対象裁判例においては、それぞれの事案に即し、様々な要素が考慮され(「考慮要素」)、その判断に、一定の影響を与えるなどしている。そうした考慮要素は、多岐にわたるが、一定数の事案に見られたものとして、「言動の内容・態様」、「被行為者の属性・心身の状況」、「被行為者の問題行動の有無とその内容・程度」などが挙げられる。

政策への貢献

第18回 労働政策審議会 雇用環境・均等分科会(2019年9月18日(令和元年9月18日))において、本研究の整理表(本研究成果物第3章)が資料として活用された。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

緊急調査

研究期間

平成31(令和元)年度

執筆担当者

滝原 啓允
労働政策研究・研修機構 労使関係部門研究員

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