資料シリーズ No.219
諸外国における家内労働制度
―ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ―
概要
研究の目的
雇用類似の働き方の保護に関する検討に関連して、家内労働法改正が議論される可能性があることから、諸外国(ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ)の家内労働制度とその運用の実態について調査を行う。併せて、各国における雇用類似の働き方に関する議論について紹介する。
研究の方法
文献サーベイ
主な事実発見
- わが国の家内労働制度に近い制度を実施している国はドイツのみ。他の3カ国のうち、フランスでは、労働法典の例外的な適用(特別規定)という位置づけで、家内労働を含む在宅就労に対する保護を規定している。一方、アメリカでは従来、家内労働は特定業種でのみ認められていたが、現在は原則として自由化されている。イギリスにも、家内労働者の保護に関する固有の法律や制度は存在しない。
- ドイツでは、特別法に基づく家内労働制度が実施されている。委託者と家内労働従事者(家内労働者、家内事業者、同等の者)の双方が規制対象となり、個別契約等による適用除外や、法的保護の放棄は認められない。また家内労働者が原料および補助材料を自ら調達する場合も、家内労働者としての資格には影響しない。委託者には、初回委託時の行政管区庁への届け出のほか、家内労働従事者や仲介人のリストの作成と委託場所での掲示、半年ごとの更新などが義務付けられている。なお、対象業務は従来、物品の製造加工とされていたが、情報・サービス業の発達に対応した1970年代の制度改正により、事務労働(データ入力等)に拡大されている。
- 一方、フランスでは、労働法典の立法趣旨が雇用契約を締結する被用者の保護を目的とするものであることを前提として、特別規定により「被用者と同等扱い」とする形で、在宅就労者の保護がはかられている。労働監督局への届け出のほか、業務委託に際して書面による委託内容(仕事内容や量、作業時間、報酬額等)の提示などが義務づけられている。ドイツと同様、かつては衣服製造や皮革製造などの家内労働が対象とされていたが、累次の裁判例などを受けて、非工業分野の知的労働への適用拡大が進んだ。
- イギリスでは、家内労働者の法的区分が曖昧で、委託者によって自営業者として扱われることも多いとされ、このため法的な権利が必ずしも保障されない傾向にある。例外的に、最低賃金制度においては出来高払いの労働者に対する公正な報酬支払が規定されている。このほか、裁判等で就労実態が自営業者に該当しないと判断される場合、被用者または労働者(雇用契約はないが、従属的な就労者)としての権利が認められる。
- アメリカでは従来、家内労働は婦人アパレル産業や織物外衣産業などの繊維加工、宝飾品製造など7業種に限り、かつ従事者に特別な事情(障害等)がある場合のみこれを認める許可制が設けられていたが、1980年代の規制緩和により、委託者の届け出に基づく認証制に移行、従事者に関する規制は廃止された。家内労働は法律上、雇用労働として扱われる。契約上は業務請負の形をとる場合であっても、経済的実態からみて請負先と従属的な関係があるとみなされれば、雇用労働として公正労働基準法及び安全衛生法が適用され得る。
- 各国では、家内労働従事者に対する保護の一環として、報酬に関する最低基準を設けている。水準等の設定に関する手法は、公的機関による決定や、労働協約による場合、あるいは最低賃金制度に盛り込まれるなど、国によっても異なる。このほか、安全衛生や社会保障制度の適用の有無など、家内労働従事者に対する法制度上の保護に関する各国の状況は、必ずしも一様ではない。
- 各国における家内労働の状況を統計等により把握することは難しいものの、従来型の物品の製造・加工の委託については減少傾向にあることが推測される。これには、情報技術の普及などによる在宅就労の内容の変化や、また女性の労働市場への参加拡大などの影響が指摘されている。従来型の在宅労働の担い手の減少と並行して、業務量の縮小や工場労働への移行、あるいは海外の生産者への委託による代替が進んだと考えられる。
一方、情報技術の進展は、ネットワークを介した新たな働き方を生み出しており、これに関連して、仕事としての不安定さや、報酬の低さなどが指摘され、就労者の権利保護の問題が各国で議論されている。提供されるサービスの内容自体は、必ずしも新しくはないものの、プラットフォーム等を介してサービス等の提供者と受容者の柔軟で効率的なマッチングが容易になったことにより、サービス提供者とその受容者、これを仲介する中間事業者の間の関係や、各主体の責任の所在が曖昧かつ複雑化していることが問題の背景となっているとみられる。形式上はサービス提供者と受容者の間での契約関係に基づく取引として扱いつつ、実質的には中間事業者がサービス提供者を使用しているとして、サービス提供者に労働者として一定の権利を認めるとする判断が、複数の裁判において示されている。
- このように、雇用労働者に近いいわゆる雇用類似の就労者の法的区分は、各国の労働法の枠組みによっても異なるものの、雇用契約に基づく労働と、自らの事業として行う労働の中間として位置付けて、一定の保護の対象とするという考え方が複数の国で実施あるいは検討されている。こうした働き方は、従事する業務などによっても多様であり、このため実態に即した保護の適用を可能とする柔軟さが必要と考えられる 。ただし同時に、法的保護の適用に関する柔軟性から、適用の可否自体が曖昧になる場合、制度の実効性が担保されない可能性がある。
政策的インプリケーション
雇用類似の働き方は多様であり、柔軟な保護の適用が必要と考えられる。
政策への貢献
雇用類似の働き方に関する保護について議論する際の資料として活用されることを期待する。
本文
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研究の区分
情報収集
研究期間
平成30年度
執筆担当者
- 山崎 憲
- 調査部主任調査員
- 飯田 恵子
- 調査部主任調査員補佐
- 北澤 謙
- 調査部主任調査員補佐
- 樋口 英夫
- 調査部主任調査員補佐