資料シリーズ No.158
中国進出日系企業の基礎的研究Ⅱ
概要
研究の目的
今後、よりいっそうアジア、とりわけ中国との関係が円滑に緊密化し、わが国の経済状況に寄与するものとなるよう、正確な情報収集が必要である。中国社会の全体的な変容の構図と、その中で進出日系企業が直面する問題を検討するため、中国でオペレーションを続行する企業に対してヒアリング調査を実施する。その結果と共に本社のグローバル戦略をはじめ、より広い視野から検討することを通じて、日系企業の現状と課題を整理する。
研究の方法
- 文献研究
- ヒアリング調査の実施
主な事実発見
(1)中国全体、大連地区での日系企業の動向は以下のとおりである。
- 中国を相対的にみれば、日系企業全体の事業展開は、未だ約半数が「拡大」を志向している。
ただ、大連地区を中心に「縮小・撤退」の比率が増加している。
- 「撤退」のシナリオが現実のものとなっているが、特に製造企業では、その際の「経済補償金」、「税務登録の抹消」手続きに、相当な手間とコストがかかっている。
- 人件費の高騰が続いている。過去5年間では、年間14~15%の増加となっている。
- 離職率は、ワーカーレベルで年間3割程度、ホワイト人材で1割程度である。景気の低迷もあり、移動はやや沈静化している。
- また、景気低迷の影響も関係し、地方政府がこれまで採ってきた優遇施策を撤廃しつつある。
(2)日系企業に対するヒアリング調査からは、以下のような知見が得られた。
- 日系企業の対応戦略は、明確にその方針が分かれつつある。一つには、従来型の「本社の指示どおり作って、日本に運ぶ」方針である。いま一つは、「基本的には、すべて現地で判断する。本社と連携はしつつも、中国市場で売り、そこで利益を出す」ことを目指す方針である。
- 具体的な対応策としては、これまで事業展開をしていたエリアから「移動するか否か」である。
移動するのは、より低い人件費を求めての移動である。中国国内であれば、より内陸部を目指し、国外であれば、ベトナムなど東南アジアへ向かうパターンがある。移動しない場合には、「いかに人件費コストを抑制するか」が喫緊の課題であり、それに取り組んでいる。
- コスト削減策の一つが、工会を通じた従業員との対話である。「なぜ、企業側の対応がそうなるのか」について、従業員とデータを共有し、自ら考えさせる。「競争に負けたら、企業そのものがなくなってしまう」ことを理解・自覚させる。効率化は必須であり、人員の縮小、「自動化の推進」が進んでいる。
- 「協調的な労使関係」へ?
給与が毎年上がるのは、従業員側が要求するのと同時に、地区工会からの指示があるためである。そうした状況への対応策の一つが「工会の組合化」であり、工会との連携を密にして、経営全体を考える機会を増やす試みが広がりつつある。
- 「なぜ中国なのか、これからも中国なのか」が、あらためて問われている。「チャイナ・プラス・ワン」、あるいは「オンリー・チャイナ」をめぐり、企業戦略がさらに分かれつつある。中国社会そのものもさらに急速に変化し多様化している。
- コストダウンと現地化・従業員の育成のジレンマ
日本からの派遣人員が削減され減少することにより、上級管理職の育成にまで、十分に手が回っていない。「指示待ち管理職」の増加も、一つには、これまでの仕事の与え方が原因である可能性もある。
- 徹底した現地化も一方で進んでいる
現地スタッフが総経理となる事例や、これまでとは異なる配置(部長:中方、副部長:日方)も増えつつある。いずれにせよ、「自分の会社だという意識がなければ、現地スタッフは一生懸命働かない」。
- 相対的な日系企業の給与水準が低下
「もっとも優秀な層は国家官僚に。次が、欧米系・地場企業。日系はその次の第三グループ」
(3)ストライキに関する文献研究により、以下のような点が明らかとなった。
日系企業や欧米系企業のストライキにおいて、労働者側に、法律顧問として専門家が加わるケースが現れている。そして、かつては、より経営側に近い立場にあった工会も、従業員の利益を代表しないことを非難され、戦略を転換する事例が出ている。
そうしたストライキの後には、賃金の集団交渉体制が確立し、民主選挙で選出された工会代表が交渉で力を増すという事例や、さらには、「スト参加者解雇は違法」という判例も出ている。
政策的インプリケーション
アジア地域、中でも中国の動向情報は、わが国の雇用・労働の状況を考える際不可欠の情報となっており、労働政策の企画・立案などのための基礎情報として活用されることが期待される。
本文
研究の区分
プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
サブテーマ「アジアにおける労働社会の実情把握などグローバル化対応に関する調査研究プロジェクト」
研究期間
平成26年4月~平成27年3月
執筆者
- 中村 良二
- 労働政策研究・研修機構 主任研究員
- 李 青雅
- 労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー