資料シリーズ No.153
諸外国における外国人受け入れ制度の概要と影響をめぐる各種議論に関する調査
概要
研究の目的
諸外国における外国人労働者の受け入れに関して、受入れ施策の概要、受け入れに伴う財政コスト及びマクロ経済への影響に関する政府・シンクタンク等による推計、また公共サービス等への影響についての議論等を調査する。
研究の方法
文献調査
主な事実発見
- 外国人労働者は、各国のその時々の経済情勢や雇用・労働環境に応じて受け入れられてきた。各国とも、当初は受け入れを推進する確固たる理由があり、結果として短期的には経済的な利益をもたらしたともみられるが、その後の経済情勢の変化等によってこの状況は急速に転換している。また、滞在が長期に及ぶ場合、むしろ受け入れ国の社会保障や公共サービスにとってコストとなり得るほか、国内労働者にも直接・間接の影響が及び、さらにはその影響は簡単には解決できない、といった可能性が各国の状況からは示唆される。
- イギリスでは、外国人労働者の受け入れによる財政への影響に関して、欧州域内・域外の別や入国時期(滞在期間)による差異を踏まえた議論が主流になっている。とりわけ、域内他国から近年流入した労働者については、年齢が若く就業率も高い傾向にあることなどから、相対的に財政への貢献度が高いとみられている。一方、長期にわたり国内に居住している外国人については、マイナスの影響が報告されている。例えばDustmann and Frattini (2013) は、2001~2011年における国内の外国人の財政への影響について推計を行っている(図表1参照)。これによれば、域外からの外国人については868億ポンドの財政へのコスト、域内からの外国人では90億ポンドの貢献があった(全体ではおよそ780億ポンドのコスト)。
- ドイツでは、外国人労働者の受け入れの費用便益分析については、経費をどの範囲まで考慮するのかによって結果が大きく異なる。総じて、民間等の調査結果からは、「低資格・無資格者よりも、高資格・専門技能を有する外国人労働者の方がドイツ社会に貢献する」、「社会的に統合していない外国人の方が、社会的に統合している外国人よりも社会的費用がかかる」という点が共通して浮かび上がってくる。なお、図表2は、外国人やEU出身者の地域別の労働市場の状況を示している。これによると、外国人は失業率が高く、社会法典第2編に基づく給付金の受給者割合も高い。特にEU-2の同受給者割合が直近ではかなり上昇している。
- フランスでは、人口拡大や高度人材の増加、季節労働需要の充足の可能性などの観点から、外国人労働者の受け入れが経済成長に貢献するとの議論が複数みられる。また、財政への影響については、多額のコストが生じるとの分析がある一方で、長期的な視点ではプラスとマイナスの双方の効果が考えられ、差し引きした結果としての影響はどちらとも言えない。
- アメリカでは、期間を定めた就労に関する外国人労働者の受け入れについてマイナスの経済効果が指摘されることはない。外国人労働者の受け入れにおいてコストが問題となるのは、アメリカで生まれたかどうかを問わず、主として不法滞在の状態にある外国人である。特別措置による就労もしくは市民権取得に反対の立場からコストを指摘する側も、賛成の立場から経済効果を指摘する側もそれぞれ存在する。
図表1 出身別、入国時期別の財政への影響に関する推計結果(イギリス、2001~2011年)
出所:Migration Advisory Committee (2014) "Migrants in low-skilled work: The growth of EU and non-EU labour in low-skilled jobs and its impact on the UK"(Dustmann,C. and T.Frattini (2013) 典he Fiscal Effects of Immigration to the UK・銧推計に基づく)
図表2 ドイツの労働市場に関する統計(出身地域別)
※1 社会法典第2編に基づく給付は、主に長期失業者とそのパートナー等の生活保障を目的としている。
求職者本人に「失業手当Ⅱ」を、同一世帯の就労能力のない家族に「社会手当」を給付する。同手当は、生活するために最低限必要とされる衣食住等の費用のうち、収入などで賄えない分が給付される。単身者(成人)1人当たりの標準月額は2015年1月1日時点で月額399ユーロとなっている。「失業手当」の一種ではあるが、失業者の生活を保障しながら就労を支援するため、手当を受けながら仕事をすることができる。
※2 各人口群の雇用労働者全体のうち、社会法典第2編に基づく給付金を受給している雇用労働者、いわゆる上乗せ(最低限度の生活に必要な基準を満たない収入を、国が手当の形で補う)受給者の比率。
出所:IAB(2014).
政策的インプリケーション
各国における外国人労働者の受け入れに伴う経済・財政、労働市場、公共サービス等への影響は、個々の労働者の年齢やスキルといった属性のほか、その時々の景気動向や社会状況、あるいは政治情勢によっても左右され、その評価は一意に定まるものではない。各国では、様々な角度からの分析が試みられ、これに基づく議論が継続的に行われている状況にある。
政策への貢献
外国人労働者の受け入れ政策をめぐる今後の議論の基礎資料となることが想定される。
本文
本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。
- 表紙・まえがき・執筆者・目次(PDF:244KB)
- 序章 調査の概要
第1章 イギリス(PDF:1.2MB) - 第2章 ドイツ(PDF:1.0MB)
- 第3章 フランス(PDF:572KB)
- 第4章 アメリカ (PDF:493KB)
研究の区分
プロジェクト研究「我が国を取り巻く経済・社会環境の変化に応じた雇用・労働のあり方についての調査研究」
研究期間
平成26年度
執筆者※平成27年5月時点
- 中村 慎一
- 国際研究部主任調査員(序章)
- 樋口 英夫
- 国際研究部主任調査員補佐(第1章 イギリス)
- 飯田 恵子
- 国際研究部主任調査員補佐(第2章 ドイツ)
- 北澤 謙
- 国際研究部主任調査員補佐(第3章 フランス)
- 山崎 憲
- 国際研究部主任調査員(第4章 アメリカ)
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