資料シリーズ No.96
契約社員の就業実態―個人ヒアリング調査から―

平成23年11月21日

概要

研究の目的と方法

  • 本研究の目的は、契約社員(直接雇用のフルタイム有期契約労働者から定年後再就職者を除いた者、と定義)の人事管理と就業実態について実証的に研究することで、かれらの処遇の向上および雇用の安定のために求められる対策について含意を得ることである。
  • 契約社員に注目する理由としては、「改正パートタイム労働法」と「労働者派遣法」の間隙に置かれ、その適切な活用と労働条件の整備について特別に定める法律が存在しないこと、にもかかわらず、その多くが現在の仕事に対して相対的に強い不満を持っていることがあげられる。
  • 本研究全体としては、(a)企業ヒアリング調査、(b)個人ヒアリング調査に基づき仮説を立てた上で、(c)アンケート調査の分析を行った。これら(a)(b)(c)を総合した最終報告書は、2011年3月に『契約社員の人事管理と就業実態に関する研究』(JILPT労働政策研究報告書No.130)として刊行されている。これに対し、本資料シリーズは、契約社員として働く人々が直面している具体的な課題を明らかにし、最終報告書において示された知見に肉付けを施すことを目的として、研究の一環として実施した(b)個人ヒアリング調査の記録18名分を取りまとめたものである(※図表参照)。
  • なお、(a)企業ヒアリング調査の記録については、2010年3月に『契約社員の人事管理―企業ヒアリング調査から―』(JILPT資料シリーズNo.65)として刊行されている。また、(a)企業ヒアリング調査に基づくディスカッション・ペーパーとして『契約社員の職域と正社員化の実態』(JILPT Discussion Paper 10-03)が公開されている。

主な事実発見

(契約社員の特徴に関連した分析から)
  • 契約社員には、正社員として働くことを希望していたが、転職・就職環境が厳しくやむを得ず契約社員として働くに至った者が多い。そして、職場では正社員の仕事に近い仕事をしている場合が多い。
  • 契約社員の多くは、(定義上)有期雇用であることにより、 契約更新にかかわる精神的負担、能力開発や長期的な仕事への取り組みの困難、生活不安・将来不安、といった問題に直面している。
  • 契約社員には、正社員の仕事に近い仕事をしている者が多いが、賃金をみると、大きなバラツキがあるものの、同じ仕事をしている正社員より高い者はほとんどいない。ここから、少なくない職場で、正社員と契約社員の賃金の差が、両者の仕事の差に見合っていない状況が発生していることが予想される。
  • 契約社員には、もともと正社員として働くことを希望しており、現に正社員と近い仕事をしていることもあってか、正社員に変わりたいと希望している者が多い。
(契約社員の類型に関連した分析から)
  • 若年の契約社員の多くは、現在の会社での正社員登用を希望している。また、正社員登用を希望する若年の契約社員のなかには、正社員になることによって仕事の拘束性が高まっても構わないと考えている者が多い。ちなみに、かれらが契約社員となるに至った原因を辿ると、多かれ少なかれ、在学中の就職活動が不調あるいは不十分であったという事実に行き着く。
  • 家計補助的に働く契約社員のなかには、同一の職場での勤続年数が非常に長く、仕事内容やスキルが高度化しているにもかかわらず、それ相応の賃金を貰っていない者が少なくない。また、かれらの多くは賃金に対して強い不満を表明している。ちなみに、かれらのなかには、結婚、出産、育児、介護、病気といった事情で正社員としての仕事を退職した経験がある者が多い。
  • 生計を維持するために働いている契約社員の多くは、雇用の安定を切望していると考えられる。にもかかわらず、かれらが契約社員として働いているのは、正社員として勤めていた会社を非自発的に離職した後、正社員として再就職することを希望していたものの、中高年者にとって厳しい再就職労働市場の現実に直面し、契約社員という働き方を選択せざるを得ない場合が多いからだと考えられる。

※下記図表に示すように、今回の個人ヒアリング調査が、サンプリング方法、ケース数の点で制約を負っている点は否めない。よって、上記の事実発見がどの程度一般性を有するかについては、最終報告書でのアンケート調査の分析と併せて判断されたい。

図表 調査概要と分析対象者のプロフィール

図表 調査概要と分析対象者のプロフィール/資料シリーズNo.96

政策的含意

  • 契約社員の類型を問わず、「労働契約法」第17条、「有期労働契約の締結、更新、雇止めに関する基準」(2003年10月2日厚生労働省告示第357号)の運用をより確実なものにすることが求められる。また、パートタイム労働者だけでなく、フルタイムの有期契約労働者についても、「均衡・均等待遇」の原則の適用、正社員転換のための措置義務の適用などが検討されてよい。
  • 若年の契約社員については、現在の会社での正社員登用を基本軸として対策を検討することが求められる。また、その際には、在学中の就職指導、新卒者の就職支援のあり方にも視野を広げる必要がある。
  • 家計補助的に働く契約社員については、とりわけ賃金に対する不満が強いことから、かれらの賃金が正社員の賃金と均衡のとれたものとなっているか入念に検証していく必要がある。また、そもそもかれらが契約社員となった原因をみるに、育児や介護、病気のための休職制度、短時間勤務制度の一層の普及と定着も望まれる。
  • 生計を維持するために働いている契約社員が置かれた状況を改善するためには、再就職時のいわゆる「年齢の壁」の問題に取り組むことも求められる。

本文

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研究期間

平成22年度~23年度

執筆担当者

高橋康二
労働政策研究・研修機構 研究員
開田奈穂美
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
東京大学大学院人文社会系研究科(社会学)博士課程

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