資料シリーズ No.93
高齢者の就業実態に関する研究
―高齢者の就業促進に向けた企業の取組み―
概要
研究の目的と方法
高年齢者雇用安定法の改正による雇用確保措置の義務化から5年がたち、雇用確保措置はほとんどの企業が実施するまでに普及した。ただ、2013年からは厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が上がることとなっており、定年延長も含め、60歳を境に処遇が大きく変わらないような人事労務管理の必要性が徐々に高まってくるものと思われる。また、労働力不足や社会保障制度の維持に対する懸念に対処していくため、現在の雇用確保措置の上限年齢である65歳を超えてさらに高年齢まで働くことを可能とするような人事管理上の取組みも、これからますます求められるようになるものと予想される。
本資料シリーズでは、2008年から2010年にかけて実施した、高年齢者の人事労務管理に関する企業関係者のインタビュー調査をとりまとめ、60歳を境に処遇が大きく変わらないような人事労務管理、あるいは65歳を超えて働くことを可能とする人事労務管理について、実現のための要件と、実現を促すために必要な政策的・社会的支援のあり方を検討するための素材を提供している。
主な事実発見
(1)60歳以降従業員の処遇を大きく変えない企業の人事労務管理
60歳以降継続して雇用されている従業員の賃金が、60歳時点と同等あるいはさほど下げられることのない(60歳時点の賃金の概ね8割以上は維持される)企業では、何らかの形で高齢従業員の担当する仕事と支払われる賃金との間のバランスがとられていると言える。バランスのとり方としては、まず仕事内容を賃金に合わせて付加価値の高いものにするという方法を挙げることができ、熟練技能が求められる仕事や、より若い従業員の教育訓練の効果があがるような配置すると言った取組みが該当する。
もう1つの方法は、現在担当している仕事を通じての企業への貢献が反映される賃金管理を実施するというもので、最もわかりやすい取組み事例としては、従業員を年齢に関係なく歩合制の対象とすることなどを挙げることができる。また、60歳になる前の従業員を対象とした昇進・昇格や賃金の管理において年功的な性格を極力抑え、その結果固まった60歳時点での賃金と仕事の関係を、60歳以降もそのまま継続するという企業もある。
(2)60歳以降より長く従業員を継続雇用する企業の人事労務管理
60歳以降より長く(時に雇用確保措置の上限年齢の目標である65歳も超えて)従業員を雇用する企業では、時間をかけながら徐々に体力的な負担のより小さい仕事や社外での活動が少ない仕事へ異動させていくなど、配置面での配慮が見られる。
また、70歳後半に至るまでの希望者全員の雇用を実現している企業(資料シリーズには「D社」として掲載)では、毎年従業員本人と所属する職場のリーダーにヒアリングを行うことで(聴き取り項目については図表1を参照)、従業員がやりたいことと企業・職場としてやってほしいことをすり合わせ、高年齢従業員が担当するべき仕事を積極的に生み出すようにしている。
図表 D社で毎年実施されるヒアリングにおける聴き取り項目
従業員本人からの聴き取り項目
- ひき続き働きたいと考えているか
- 今後ともやりたい仕事がはっきりしているか
- (今後は)現状の仕事の継続を基本に考えているか
- 違う職場に変わりたいと考えているか
- 生かしたい知識・経験・技能がはっきりしているか
- 現在の職場で自分の知識・経験・技能が役立っているか
- 新しく身につけたい知識・経験・技能があるか
- 仕事に関してバックアップして欲しいことがあるか
- グループの活動方針を理解しているか
- 自分に対して周囲が何を期待しているのか理解しているか
- 自分の意見や経験を周囲の人に伝えているか
- リーダーとのコミュニケーションはうまくいっているか
- 仕事(周囲と外部)上の人間関係はうまくいっているか
- 健康面で心配な点があるか
- 勤務時間、勤務日数に変更希望があるか
所属する職場のリーダーからの聴き取り項目
- 現在の仕事についての適否
- やってほしいこと、期待していること
- 職場の期待に対する能力、貢献の度合
- 対象となる従業員とのコミュニケーションがどの程度取れているか
- 各項目(能力、勤怠、周囲の人との協力関係、顧客、取引先等外部の人との関係、体力・気力など)に対する評価
- 今後の雇用継続についてのリーダーの意向
- 方向付けの確認(やってほしいことなどを具体的に記入)
政策的含意
60歳以降も従業員の賃金水準を変えない企業、あるいは60歳以降より長期にわたって従業員を雇用している企業では、事業運営にとってより有効な、高齢従業員の仕事と処遇の組み合わせが模索されている。こうした企業の取組みを踏まえると、高齢者のより安定した雇用機会の実現に向けた環境整備策として、企業内教育訓練における高齢者の活用に関する支援や、企業内の能力評価における企業と政府の有効な連携(実際上記D社では、高年齢従業員の能力評価にあたって、高齢・障害者雇用支援機構の能力評価のツールを活用している)などが検討に値すると考えられる。
政策への貢献
高年齢者雇用政策の今後の展開や、政策的支援について検討する上での基礎資料として活用される。
本文
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- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:739KB)
- 第Ⅰ部 本調査研究の背景と目的(PDF:491KB)
- 第Ⅱ部 企業における継続雇用の取組み−インタビュー調査記録−(PDF:907KB)
- 第Ⅲ部 参考資料(PDF:1.3MB)
研究期間
平成22年度
執筆担当者
- 藤本 真
- 労働政策研究・研修機構人材育成部門 副主任研究員
- 鹿生治行
- 独立行政法人 高齢・障害者雇用支援機構
- 大木栄一
- 独立行政法人 雇用能力開発機構
職業能力開発総合大学校・准教授
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