資料シリーズ No.88
仕事能力把握に向けた新たなアプローチ
―研究開発の動向、評価の現状、職務の共通性からの検討―
概要
研究の目的と方法
労働者がその能力や意欲を十分発揮できる仕事に就くためには、個人の特性と職業との適合性を把握することが求められる。個人の特性と職業との適合性の把握に関しては、知能、空間把握能力等の狭義の職業適性、さらに興味や性格も含めた広義の職業適性を把握するための検査が開発されてきた。一方、職業生涯が長期化する中で職業の移動を経験する者の増加が見込まれるところであり、これらの者については、それまでの職業経験で何をし、それが他のどのような職業に活かすことができるかという職務遂行レベルでの能力把握の観点が重要となる。
このため本研究では、仕事能力の把握について、新たな次元からのアプローチも含めて検討、分析することを通じて、労働者のキャリア形成支援のための内容及び方法の充実に資することを目的に、[1].内外の職業適性研究に関する文献レビュー、[2].公共職業安定所における各種職業適性検査の活用等に関する調査(アンケート調査(回収数262件、回収率88.2%)及びヒアリング調査(9所))、[3].職務遂行能力の把握に向けて、これまでの研究で蓄積した約500職業の課業情報(約1万行のテキスト)をテキストマイニングの手法を用いた分析を行った。
主な事実発見
- 職業適性研究をレビューすると、要素作業から職業生活に至る職業の階層構造のうち、課業とその集まりである職務のレベルではその能力を把握する一般化された方法がないことがわかった(図表1)。また内外の職業適性検査開発の動向をみると、厚生労働省編一般職業適性検査のような職業能力を直接的に測定するための新たな開発はみられなかった。
- 公共職業安定所においては、職業適性検査は、若年者や就職困難者等の相談において有効に活用されていた。また応募職種が決まらない求職者や応募職種に一貫性がない求職者については能力把握の必要性が高く、その場合は求職者の過去の職歴や仕事の内容、相談中の話しぶりや態度により能力を把握するという方法も多く採られていた(図表2)。今後新たに望まれる能力把握等のツールについては、厳密な検査でなくてもよいから、比較的簡単に行えるもので、職業選択に迷っている求職者の方法を探るための資料を提供できるものというイメージであった。
- 課業記述に用いられた単語を抽出した主成分分析により、店頭販売、研究活動、相談支援、製造工程、診断治療、貼る塗る、デザイン、授業生徒、点検保守、電話対応、料理調理、旅客輸送、測定加工、医療診療、切断組立、改善開発、運搬移動、写真画像、システム、測量工事と命名できる20の課業の塊(成分)が得られた。またこれらの主成分負荷の高い職業のまとまりと、主成分分析の成分を用いた潜在意味解析による職業のまとまりはほぼ同様の結果となったとともに、課業から見た塊として独自性があるものであった。今後は、この課業及び職業群の妥当性について、職業に関する他のデータとの比較検討等を行い、検討を深める必要がある。
政策的含意
職業適性検査については、今後とも必要な人に必要な検査が効果的に実施され、キャリア形成支援が効率的に行われることが望まれる。また公共職業安定所でよく行われている過去の職業経験や求職者の話しぶりから能力を把握することについては、職員の経験によるところが大きいと言わなければならないことから、客観的方法や指標を検討していくことが必要と考えられる。
政策への貢献
本研究は、課業及び課業の集まりである職務から人と職業の適合性を分析する出発点となるものであり、労働者のキャリア形成支援の推進のための仕事能力把握の検討に新たな観点を与えるものである。
本文
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- 表紙・まえがき・執筆担当者・目次(PDF:724KB)
- 第1章 本資料シリーズの目的
第2章 職業適性のとらえ方と研究開発の動向
第3章 職業適性検査活用の実際(PDF:1.3MB) - 第4章 課業のテキストマイニングからの検討
第5章 個人の特性と職業の調和に向けて(PDF:981KB)
研究期間
平成22年度