調査シリーズNo.261
働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上に向けた人材戦略に関する調査(企業調査・労働者調査)
概要
研究の目的
近年における労働者の働くことへの意識変化や、こうした変化に応じた企業の雇用管理の変化を踏まえ、「働く意識の変化や新たなテクノロジーに応じた労働の質の向上のための雇用管理」について企業・労働者調査を行った。具体的には、近年の若者・女性・高齢者における働く意識の変化や、どのような雇用管理が、人材不足への対応や、人材の獲得、さらには人材の能力発揮に有用であるか、その際のAI等の新たなテクノロジーの活用可能性について調査を行っている。 なお、本調査は、厚生労働省 政策統括官付 政策統括室の要請調査である。
研究の方法
- 調査方法:
- 郵送による調査票の配付・回収(オンライン回答を可能としている)
- 調査対象:
- 企業調査(※):
全国の30人以上の企業 10,000社。
労働者調査: 調査対象企業を通じて、そこで雇用されている正社員を対象に60,000人分(1社あたり各6部)の調査票配付を依頼。
※企業調査では、「令和3年経済センサス活動調査」の「産業」「規模」の分布に合わせて、信用調査機関の企業データベースより、産業・従業員規模別に層化無作為抽出(農林漁業、公務除く)している。
- 調査期間:
- 2025年2月7日~3月5日(調査時点:2025年1月末日時点)
- 有効回収数/有効回収率:
- 企業調査;有効回収数:2,004件/有効回収率:20.04%
労働者調査;有効回収数:7,291件/有効回収率:12.15%(以下、正社員調査という)
主な事実発見
- 人材獲得と就業継続
- 企業調査において、過去1年間で、人材獲得のために実施していること(複数回答)では、「求人募集時の賃金を引き上げる」(新卒74.8%、中途71.4%)が7割台と最も高く、次いで、「賃金以外の労働条件を改善する」(新卒53.7%、中途51.6%)、「採用チャネルの多様化:民間求人媒体の活用」(新卒47.0%、中途50.7%)、「ワーク・ライフ・バランス制度の整備・PR」(新卒37.7%、中途35.0%)、「定年の引上げなどの長期雇用制度の整備・PR」(新卒18.9%、中途22.0%)などが続く。
- 正社員調査において、①勤め先に就職した理由(入職時。「①入社の決め手」という)についてみると、「仕事内容に興味がある」が78.1%と最も高く、次いで、「雇用が安定していて解雇の恐れがない」(60.1%)、「残業が少ない、有休を取得しやすい等、働きやすい環境」(52.7%)、「会社の規模」(41.5%)、「賃金水準の高さ」(38.1%)、「65歳以上の定年制や再雇用により、長期的に働ける」(37.5%)などとなっている。一方、②現在まで就業継続している理由(「②就業継続の理由」という)も重視傾向はほとんど変わらず、「仕事内容に興味がある」が76.8%と最も高く、次いで、「残業が少ない、有休を取得しやすい等、働きやすい環境」(66.7%)、「雇用が安定していて解雇の恐れがない」(64.9%)、「会社の規模」(49.7%)、「65歳以上の定年制や再雇用により、長期的に働ける」(47.6%)、「賃金水準の高さ」(46.6%)などとなっている(図表1)。
- 「②就業継続の理由」について、年齢別にみると、おおむね年齢が低くなるほど、「残業が少ない、有休を取得しやすい等、働きやすい環境」「雇用が安定していて解雇の恐れがない」「会社の規模」「教育訓練・研修制度が充実し、スキル向上が可能」「自分が希望するポジションへの応募が可能であり、自律的なキャリア形成が可能」「ジョブローテーションがあり、多様な経験がつめる」「キャリアコンサルティングなど、キャリア形成へのサポートが充実」「在宅勤務・テレワークにより、柔軟に働ける」の割合が高くなる傾向にある。一方、年齢が高くなるほど、「65歳以上の定年制や再雇用により、長期的に働ける」の割合が高くなる。「仕事内容に興味がある」「賃金水準の高さ」では、年齢による違いがほとんど見られない。
図表1 勤め先に就職した理由(入職時:入社の決め手)と現在まで就業継続をしている理由(SA、単位=%)【正社員調査】

- 働く意識の変化
- 正社員調査において、[A:現在の企業で長く勤めることが望ましい]と[B:転職を通じたキャリア形成が望ましい]のどちらに近いかについては、「A:現在の企業で長く勤めることが望ましい」(「Aである」「どちらかというとA」の合計)が71.4%で、「B:転職を通じたキャリア形成が望ましい」(「Bである」「どちらかというとB」の合計)が28.5%であり、長期勤続志向の割合の方が高い。これを年齢別にみると、年齢が高くなるほど、長期勤続志向の割合が高くなる。逆に、年齢が低くなるほど、転職によるキャリア形成志向の割合が高くなっている。ただし、20代以下においても、6割強は長期勤続志向であり、転職によるキャリア形成志向の4割弱を上回っている(図表2)。
図表2 現在のキャリアに関する認識(A:長期勤続志向、B:転職によるキャリア形成志向)(SA、単位=%)[年齢別]【正社員調査】
![図表2画像:正社員調査において、[A:現在の企業で長く勤めることが望ましい]と[B:転職を通じたキャリア形成が望ましい]のどちらに近いかについては、「A:現在の企業で長く勤めることが望ましい」(「Aである」「どちらかというとA」の合計)が71.4%で、「B:転職を通じたキャリア形成が望ましい」(「Bである」「どちらかというとB」の合計)が28.5%であり、長期勤続志向の割合の方が高い。これを年齢別にみると、年齢が高くなるほど、長期勤続志向の割合が高くなる。逆に、年齢が低くなるほど、転職によるキャリア形成志向の割合が高くなっている。ただし、20代以下においても、6割強は長期勤続志向であり、転職によるキャリア形成志向の4割弱を上回っている](/institute/research/2025/images/261_02.png)
- 正社員調査において、[A:賃金水準よりも、仕事内容にこだわりたい]と[B:仕事内容よりも、賃金水準にこだわりたい]のどちらに近いかについては、それぞれ47.4%(「Aである」「どちらかというとA」の合計)、52.7%(「Bである」「どちらかというとB」の合計)となっており、両者はほぼ半々と拮抗している。これを年齢別にみると、おおむね年齢が低くなるほど、賃金水準重視の割合は高くなる傾向にある。
- 企業調査では、5年前と比較して、現在の正社員の働く意識の状況において、[A:昇進よりもワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えた]と[B:ワーク・ライフ・バランスよりも昇進を重視する人が増えた]のどちらに近いかについては、昇進よりもワーク・ライフ・バランスを重視する人が増えたとする企業割合(「Aである」「どちらかというとA」の合計)は6割以上と大勢を占め、この傾向は年齢が低くなるほど高くなる。
- 正社員調査において、[A:現在の企業で長く勤めることが望ましい]と[B:転職を通じたキャリア形成が望ましい]のどちらに近いかについては、「A:現在の企業で長く勤めることが望ましい」(「Aである」「どちらかというとA」の合計)が71.4%で、「B:転職を通じたキャリア形成が望ましい」(「Bである」「どちらかというとB」の合計)が28.5%であり、長期勤続志向の割合の方が高い。これを年齢別にみると、年齢が高くなるほど、長期勤続志向の割合が高くなる。逆に、年齢が低くなるほど、転職によるキャリア形成志向の割合が高くなっている。ただし、20代以下においても、6割強は長期勤続志向であり、転職によるキャリア形成志向の4割弱を上回っている(図表2)。
- AI等の新たなテクノロジーに対する認識
- 企業調査において、AI等の新たなテクノロジーの活用状況(複数回答)として、企業のテクノロジーの活用として実施割合が高いのは、「Webミーティングツール」(55.3%)、「クラウドを活用した社内の情報共有」(50.8%)で、いずれも5割台と高く、次いで、「テレワークの活用」が19.5%、「AI(人工知能)周辺技術(画像・言語認識技術、生成AI等)」(以下、「AI周辺技術」という)が14.2%、「RPA(定型業務の自動化ツール)」(以下、「RPA」という)が13.3%などとなっている。従業員規模別にみると、規模が大きくなるほど、いずれのテクノロジーの活用割合も高くなる傾向にある。
- 企業調査において、新たなテクノロジーが職場に導入された場合に期待することについて、「そう思う・計」(「そう思う」「ややそう思う」の合計)の割合でみると、「労働生産性が向上する」(68.1%)、「煩雑なタスクから解放される」(68.0%)、「人手不足が解消される」(60.5%)が6割台と高い(図表3)。
図表3 新たなテクノロジーが職場に導入された場合に期待すること(SA、単位=%)【企業調査】

- 正社員調査において、AI・ロボット・デジタル技術等の新たなテクノロジーが職場で活用された場合に不安・心配に思うことについては、「そう思う・計」(「そう思う」「ややそう思う」の合計)の割合は、「どのような影響があるか分からず不安」が48.3%と最も高く、次いで、「従業員の仕事内容が変わることに不安」が32.6%、「新たなテクノロジーの導入により、職場で取り残されることが心配」が30.4%、「従業員の仕事が奪われるのではないか」が29.5%、「新たなテクノロジーの導入により、仕事の進捗管理が強化される可能性があることが心配」が28.0%となっている。該当割合(「そう思う・計」の割合)を年齢別にみると、年齢が低くなるほど、「従業員の仕事が奪われるのではないか」「従業員の仕事内容が変わることに不安」の割合が高くなる傾向にある。
政策への貢献
令和7年版 労働経済白書での基礎的データの提供。
本文
分割版
研究の区分
情報収集
研究期間
令和6~7年度
執筆担当者
- 奥田 栄二
- 労働政策研究・研修機構 調査部部長
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 リサーチフェロー
お問合せ先
- 内容について
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