調査シリーズNo.248
人手不足とその対応に係る調査(事業所調査)
―小売・サービス事業所を対象として―
- 記者発表『「人手不足とその対応に係る調査――小売・サービス事業所を対象として」(事業所調査)結果』(PDF:957KB) (2024年8月29日)
概要
研究の目的
新型コロナウイルス感染症の影響を受けた社会経済活動の正常化が進む中で、企業・事業所の人手不足は、全国的かつ構造的な問題となっている。こうした状況の中、特に生活に欠かせない小売・サービス業の各事業所の人手不足の実態を把握するとともに、人手不足解消に向けた雇用管理改善の取組等を明らかにするため、事業所調査を実施した。調査対象は、女性・高齢者・パート比率が高い、小売業、飲食業、宿泊業及び、一部サービス業の店舗・サービス施設とし、各事業所における人材確保のための工夫・取組と、その成果を定量的に評価することを目的としている。
なお、本調査は、厚生労働省政策統括官付政策統括室からの要請調査である。
研究の方法
- 調査方法:
- 郵送による調査票の配布・回収(オンライン回答を可能としている)
- 調査対象:
- 帝国データバンクが保有する事業所データベースから、厚生労働省政策統括官付政策統括室の指定業種である「小売業」「飲食業」「宿泊業」及び、「サービス業」の「生活関連サービス業、娯楽業」であり、かつ事業所分類コード「E 店舗・サービス施設」のみに限定し、全国の従業員規模10人以上の事業所の全数にあたる8,750件を調査対象としている。
- 調査期間:
- 2024年2月5日~2月29日(調査時点:2023年12月末日)
- 有効回収数:
- 2,652件(有効回収率:30.3%)
主な事実発見
1.事業所の人手不足の状況
回答事業所における正社員の過不足状況では、「不足・計」(「不足している」「やや不足している」の合計)が57.7%、「適正である」が40.7%、「過剰・計」(「過剰である」「やや過剰である」の合計)が1.6%となっている。「過剰・計」の割合は少数であり、「不足・計」の割合は、「過剰・計」の割合を大きく上回っている。パート・アルバイトの過不足状況では、「不足・計」が56.3%、「適正である」が39.8%、「過剰・計」が3.9%となっている。
「不足・計」(「不足している」「やや不足している」の合計)と回答した事業所を対象に、「不足状況の見通し」(不足が「一過性のもの(数年程度で解消する一時的な不足)」か、「構造的なもの(当面解消しない不足)」か)を尋ねたところ、正社員では、「構造的不足」(「構造的な不足である」「どちらかといえば構造的」の合計)の割合が69.3%、「一過性の不足」(「一過性の不足である」「どちらかといえば一過性」の合計)の割合が30.6%となっている。一方、パート・アルバイトでは、「構造的不足」の割合が47.9%、「一過性の不足」の割合が52.0%となっており、半々となっている。就業形態間で比較すると、「構造的不足」の割合は、パート・アルバイトに比べ正社員の方が21.4ポイント高くなっている。
現在の事業所における従業員の不足感の程度(現在の従業員数に比べてどれくらい足りないか) については、正社員、パート・アルバイトいずれも、「不足感はない」が4割前後ともっとも高く(正社員36.9%、パート・アルバイト42.1%)、次いで、「5~10%未満」が約2割、「5%未満」が2割弱などとなっている。就業形態間で比較すると、不足感が「5%以上・計」(「5~10%未満」「10~15%未満」「15~20%未満」「20~25%未満」「25%以上」の合計)の割合は、正社員が44.4%、パート・アルバイトが38.7%となっており、パート・アルバイトに比べ正社員の方が高い。
現在の事業所における従業員の離職の状況(過去6か月の状況)は、正社員では、「離職者はいない」が54.3%ともっとも高く、次いで、「5%未満」が24.6%、「5~10%未満」が11.2%、「10~15%未満」が4.5%などとなっている。一方、パート・アルバイトでは、「離職者はいない」が43.2%ともっとも高く、次いで、「5%未満」が27.6%、「5~10%未満」が16.2%などとなっている。
現在の事業所における従業員の入職の状況(過去6か月の状況)は、正社員では、「入職者はいない」が59.4%ともっとも高く、次いで、「5%未満」が23.4%、「5~10%未満」が10.9%などとなっている。一方、パート・アルバイトでは、「入職者はいない」が43.1%ともっとも高く、次いで、「5%未満」が25.9%、「5~10%未満」が18.6%などとなっている。
2.事業所の人手不足への対応
現在の事業所における情報通信技術(ICT)の設備投資の状況(複数回答)では、「社内用プログラムの導入・開発」は47.6%ともっとも高く、次いで、「受発注データの一元管理・自動発注システムの導入」(28.6%)、「注文時等のタブレットやアプリの導入」(28.5%)、「ネット販売・オンライン予約システム・チャットボット」(23.6%)、「会計等の自動化」(18.8%)などとなっている(図表1)。ICT設備投資があった事業所のICT設備投資の効果(① 業務効率の向上、② 人手不足の解消)については、「業務効率の向上」での「効果あり」(「そう思う」「ややそう思う」の合計)の割合は、69.6%と7割弱を占めている。一方で、「人手不足の解消」での「効果あり」の割合は、35.4%と3割台となっている(図表2)。
過去1年間の事業所における人材確保・採用に関する取組状況(複数回答)をみると、正社員では、「求人募集時の賃金の引上げ」が49.7%ともっとも高く、次いで「採用経路の多様化」(38.6%)、「柔軟な働き方に向けた制度の整備」(31.2%)、「採用対象の募集年齢の拡大」(23.3%)などとなっている。パート・アルバイトでは、「求人募集時の賃金の引上げ」(55.8%)がもっとも高く、次いで、「柔軟な働き方に向けた制度の整備」(37.8%)、「高年齢者の雇用の実施(65~69歳)」(32.9%)、「正社員登用制度の導入」(32.2%)、「採用経路の多様化」(32.1%)、「採用対象の募集年齢の拡大」(30.7%)などとなっている。
過去1年間の事業所の採用経路(複数回答)は、正社員では、「ハローワーク」(55.8%)と「広告(インターネット媒体)」(54.6%)が半数を超えて高く、次いで、「民間職業紹介」(33.9%)、「縁故・知人の紹介(リファラル採用)」(27.8%)、「広告(紙媒体)」(18.1%)、「出戻り(アルムナイ採用)」(14.6%)などとなっている。パート・アルバイトでは、「広告(インターネット媒体)」の割合が69.9%と7割近くを占めもっとも高く、次いで、「ハローワーク」(42.8%)、「広告(紙媒体)」(33.5%)、「民間職業紹介」(27.9%)、「縁故・知人の紹介(リファラル採用)」(25.7%)、「出戻り(アルムナイ採用)」(9.3%)などとなっている。
事業所における過去1年間の賃上げの状況として、正社員【月額】の平均的な賃上げ率をみると、「1~3%未満」が42.5%ともっとも高く、次いで、「3~5%未満」(29.0%)、「1%未満」(15.9%)、「5~10%未満」(10.5%)などとなっている。パート・アルバイト【時給】の平均的な賃上げ率は、「3~5%未満」が33.3%ともっとも高く、次いで、「1~3%未満」(25.3%)、「1%未満」(24.0%)、「5~10%未満」(13.7%)などとなっている。
政策への貢献
令和6年版 労働経済白書での基礎的データの提供。
本文
分割版
研究の区分
情報収集
研究期間
令和5~6年度
調査担当者
- 奥田 栄二
- 労働政策研究・研修機構 調査部長
- 奥村 澪
- 労働政策研究・研修機構 調査部調査員
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 リサーチフェロー
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