調査シリーズNo.246
「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」結果
―2021・2022年度の連続パネル調査を通じて―
概要
研究の目的
地域別最低賃金は、「経済財政運営と改革の基本方針 2016」(骨太方針)にて、「最低賃金については、年率3%程度を目途として、名目GDPの成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1,000円となることを目指す」ことが掲げられ、2016年度以降(コロナ禍中の2020年度を除き)、年率3%程度(全国加重平均)の引上げが続いてきた。
結果として、改定後の最低賃金額を下回ることとなる労働者の割合(影響率)は大きく上昇し、中小企業の経営状況に与える影響等が懸念され(「中央最低賃金審議会目安制度の在り方に関する全員協議会報告」)、最低賃金法第9条第2項の3要素の観点(毎年の中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告)からも、その検証が求められてきた。
こうした中、当機構では、厚生労働省労働基準局賃金課からの要請に基づき、地域別最低賃金の引上げが中小企業・小規模事業者に及ぼす影響や対応状況についての調査を2021年度・2022年度と連続で実施した。
研究の方法
- 調査方法:
- 郵送法
- 調査対象:
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全国の従業員規模1~299人の企業20,000社(官公営、非営利法人除く)。
※民間信用調査機関が保有する企業等データベースから、都道府県目安ランク(A~Dの4ランク各5,000社ずつの均等割付)毎に、業種(15区分)×従業員規模(7区分)別に、2016年経済センサス活動調査(当時最新)の企業数に比例するよう層化抽出を行った。
なお、2022年度調査は、2021年度調査の有効回答企業のうちパネル接続可能な企業(6,536社)を引き継ぎ、総計20,000社からの不足分を新たに層化抽出・補充した。
- 調査期間:
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2021年度調査 2021年11月8日~26日(12月上旬迄の到着分を集計)
2022年度調査 2023年1月12日~27日(2月末迄の到着分を集計)
- 有効回収数:
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2021年度調査 集計対象となる有効回答数6,554社(有効回答率32.8%)
2022年度調査 集計対象となる有効回答数7,634社(有効回答率38.2%)
2021年度、2022年度調査のいずれも回答し、パネル接続した集計が可能な有効回答数3,673社(有効回答率56.2%/6,536社)
主な事実発見
2022年度調査の全有効回答企業(n=7,634社)に、最低賃金の引上げに対処するために、2022年に経営面や雇用・賃金面で取り組んだことがあったか尋ねると、「取り組んだことがあった」割合は30.7%となった。
最低賃金の引上げに対処するために「取り組んだことがあった」企業(n= 2,576 社)に、具体的な取組内容について尋ねると(複数回答)、「賃金の引上げ(正社員)」が53.1%で最も高く、次いで「製品・サービスの価格・料金の引上げ」(45.3%)や「人件費以外の諸経費のコスト削減」(43.7%)、「人員配置や作業方法の改善による業務効率化」(36.1%)、「賃金の引上げ(非正社員)」(34.9%)、「給与体系の見直し」(28.1%)、「労働時間の短縮」(24.4%)などがあがった(図表1)。なお、「従業員の新規採用の抑制」(10.8%)や、「都道府県の最低賃金の格差を考慮した事業所の移転や展開」(1.2%)などは、一定程度にとどまった。
最低賃金の引上げに対処するために「取り組んだことがあった」企業(n=2,576社)に、取組の結果、労働者の1時間当たりの生産や売上がどのように変化したか尋ねると、「変わらない」と回答した割合が45.7%となったが、「はっきりと伸びた」(5.1%)と「はっきりしないが、伸びたと思う」(33.8%)を合わせて「伸びた」割合が計38.8%に対し、「はっきりしないが、低下したと思う」(3.8%)と「低下した」(2.3%)を合わせて「低下した」割合は計6.0%と、「伸びた」割合が大きく(32.8ポイント)上回った。
なお、労働者の1時間当たりの生産や売上について、パネル集計可能な企業(「取り組んだことがあった」企業でn=2021年度調査2,025社、2022年度調査1,274社)で比較すると、どちらの調査も「変わらない」が4 割以上となったものの、「はっきりしないが、伸びたと思う」割合は2021 年度調査が20.9%に対し、2022 年度調査では33.7%と、10ポイント以上高くなった(図表2)。
2022年度調査の全有効回答企業(n=7,634 社)に、地域別最低賃金の改定や賃金の引上げに対応していくために期待する政策的支援について尋ねると(複数回答)、「賃金を引き上げた場合の税制優遇(所得拡大税制等)の拡大」が46.2%で最も高く、次いで「企業の生産性(収益力)を向上するための設備投資その他の取組に対する助成金の拡充」(40.0%)、「製品価格、サービス料金の引上げ(価格転嫁)に対する支援(取引適正化)」(23.9%)などとなり、「期待する政策的支援はない」は15.1%となった。
なお、期待する政策支援について、パネル集計可能な企業(n= 3,673 社)で比較すると、「製品価格、サービス料金の引上げ(価格転嫁)に対する支援(取引適正化)」などでやや上昇したことが見て取れる(19.3%→22.9%)。また、最低賃金の引上げが続く中、引き続き、「賃金を引き上げた場合の税制優遇(所得拡大税制等)の拡大」(48.1%→47.2%)や「企業の生産力(収益力)を向上するための設備投資その他の取組に対する助成金の拡充」(38.1%→38.8%)などに対するニーズが高く、政策的支援の継続が求められている(図表3)。
政策への貢献
- 2021年度調査:令和4年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第1回)にて引用
令和4年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第1回)資料|厚生労働省
(参考資料1)JILPT「最低賃金の引上げと企業行動に関する 調査」(2021年)の概要(速報)(PDF) - 2022年度調査:令和5年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第1回)にて引用
令和5年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第1回)資料|厚生労働省
(参考資料1)JILPT「最低賃金の引上げと企業行動に関する 調査」(2022年)の概要(速報)(PDF)
本文
分割版
研究の区分
課題研究(2021年度調査)「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」
情報収集(2022年度調査)「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」
研究期間
令和3~5年度
調査・執筆担当者
2021年度調査
- 中原 慎一
- 調査部 統計解析担当 部長(当時)
- 上村 聡子
- 調査部 統計解析担当 主任調査員
- 久保 絵理子
- 調査部 統計解析担当 調査員(当時)
2022年度調査
- 渡邊 木綿子
- 調査部 統計解析担当 次長
- 多和田 知実
- 調査部 統計解析担当 調査員
関連の研究成果
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