調査シリーズNo.241
治療と仕事の両立に関する実態調査(患者WEB調査)

2024年3月26日

概要

研究の目的

治療と仕事の両立支援をめぐっては、平成28年度(2016年度)に策定された「働き方改革実行計画(以下、実行計画)」に基づき、会社の意識改革と受け入れ体制の整備、トライアングル型支援体制の構築が進められているが、更なる取組の充実・強化を図るため、令和4年度(2022年度)以降は、平成29年度(2017年度)から令和3年度(2021年度)までの取組を評価し、今後の取組方針を検討することが実行計画工程表に示されている。このため、当機構では両立支援の現状を把握するとともに、取組推進のための課題を抽出する必要があることから、がん患者・難病患者等(がん・心疾患・脳血管疾患・肝炎・糖尿病・難病)の就労実態を把握するため、患者WEB調査を実施した。本調査は、厚生労働省労働基準局安全衛生部からの要請調査である。

なお、当機構では、2017年に実施した「病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(WEB患者調査)」(調査シリーズNo.180。以下、「2017年調査」)がある。今回調査(以下、「2022年調査」という)では、2時点比較の観点も踏まえ、調査方法、調査対象、及び、一部の設問設計において、2017年患者調査をベースとしている。

研究の方法

インターネット調査(スクリーニング調査・本調査)。

調査対象:
調査会社に登録しているインターネット調査登録モニターのうち、全国の年齢(15 歳以上64 歳以下)の就労者の男女で、かつ楽天インサイト株式会社が保有する過去5年間の疾患パネルに登録のある者。
同社の当該登録モニターを対象にスクリーニング調査(SC調査)を実施し、該当する調査対象(過去5年間にがん・心疾患・脳血管疾患・肝炎・糖尿病・難病の病気治療をした者(経過観察含む))のみが本調査に回答する方式。
各疾患の回収目標の設定としては、2017年調査の回収分布を参考として、がん1,600件、心疾患1,400件、脳血管疾患600件、肝炎600件、糖尿病2,300件、難病1,500件の合計8,000件とした。
実施期間:
2022年12月15日~12月19日
配信数:
51,974件
有効回収数:
本調査 8,000件(SC 20,002件)

主な事実発見

  • 勤め先への相談・報告では、全体で、「所属長・上司」が62.0%で最も割合が高く、次いで、「同僚」が27.8%、「人事労務担当者」が12.0%、「産業医」が13.3%などとなっている。「勤め先には一切相談・報告しなかった」は28.1%だった。
  • 勤務先に相談・報告した者の「疾患罹患後の治療と仕事の両立支援」では、「治療と仕事の両立支援を求めた」とする者は33.2%、「特段求めなかった」は66.8%となっている。
  • 治療と仕事の両立に向けたプラン(「両立支援プラン」)の策定については、両立支援プランが「策定された」としているのは、14.3%となっている。会社在籍時の主な疾患別にみると、両立支援プランが「策定された」とする割合は、がんで24.4%と最も高く、次いで、脳血管疾患(18.4%)、心疾患(16.8%)などが続く。糖尿病は、他の疾患に比べて、「策定されていない」とする割合が92.3%と最も高い。
  • 病院(主治医や看護師、病院の患者相談支援室等)に、勤め先の仕事のこと(職場や働き方、労働時間等)について相談したかについては、「医師(主治医)に相談した」とする割合は、34.1%となっている。「以上のいずれにも相談しなかった」は62.0%であり、病院に相談をした割合は、38.0%となっている。
  • 治療中での主治医から就業に関する指導や意見を得たかについては、「主治医から就業に関する指導や意見を得たことがある」とする割合が31.7%だった。主治医から就業に関する指導や意見を得るに際して、勤務情報(勤務形態、業務内容、労働時間等)を主治医に提供した形態については、「口頭で勤務情報を伝えた」が62.6%で最も割合が高く、次いで、「文書により勤務情報を提供した」(9.2%)、「文書と口頭で勤務情報を提供した」(6.2%)となっており、「勤務情報は提供していない」は22.0%だった。
  • 治療と仕事の両立支援のための両立支援コーディネーターへの相談・活用状況では、「相談・活用したことがある」が1.7%、「今後活用するつもりである」が5.5%、「今後活用してみたいが、居場所がわからない」が23.5%、「今後も相談・活用する予定はない」が69.3%となっている(図表1)。

図表1 両立支援コーディネーターへの相談・活用の状況(SA、単位=%)

柔軟な働き方支援制度について、私傷病の治療や療養目的での利用を可能としたことの効果(複数回答)の具体的な効果としては、「制度利用に対して職場で協力する雰囲気ができた」の割合が23.3%と最も高く、次いで、「職場に多様性を受容する意識が浸透した」が20.3%、「社員全体の企業に対する信頼感が上昇した」が17.5%、「疾患を理由とする離職率が低下した」が15.8%、「日常的に事業継続体制が構築された」が10.2%、「社員全体の離職率が低下した」が8.6%などとなっている
2022年調査

n

相談・活用したことがある 今後活用するつもりである 今後活用してみたいが、居場所がわからない 今後も相談・活用する予定はない
全体 7,434 1.7 5.5 23.5 69.3

※疾患の治療開始時に雇用者だった者を対象に集計。

  • 勤め先で各種制度があるとする者の利用状況では、制度を「利用した」とする割合が高いのは、「時間単位の休暇制度・半日休暇制度」(53.4%)、「在宅勤務(テレワーク)制度」(50.1%)、「フレックスタイム制度」(46.4%)、「失効年休有給休暇の積立制度」(41.7%)、「治療目的の病気休暇制度」(40.9%)、「時差出勤制度」(33.2%)などとなっている。
  • 治療期間中での勤め先での配慮の適用状況については、「特段の配慮の適用なし」が57.5%と6割弱を占めている。具体的な配慮の適用状況としては、「通院治療のための休暇取得」の割合が19.6%と最も高く、次いで、「入院・治療等に対応した長期の休職・休暇」(15.0%)、「仕事内容の柔軟な変更」(8.3%)、「残業・休日労働をなくすこと」(6.9%)、「所定内労働時間の短縮」(6.7%)、「柔軟な働き方(テレワークの活用)」(6.4%)、「疾患治療についての職場の理解」(6.3%)、「業務量の削減」(6.1%)などとなっている。
  • 治療・療養のために連続2週間以上の休み(休暇又は休職。以下「休職期間」と略)の取得状況では、「取得した」が28.4%、「取得していない」が54.2%、「そもそも休職制度がない・適用されない」が17.5%となっている。会社在籍時の主な疾患別にみると、「取得した」とする割合が高いのは、脳血管疾患(54.8%)、がん(50.2%)などとなっている。一方、糖尿病(11.5%)は、「取得した」とする割合が他の疾患に比べて低い。取得した休職期間は、「3ヵ月以下・計」(「2週間程度」「1ヵ月程度」「2ヵ月程度」「3ヵ月程度」の合計)は83.2%となっている。
  • 入院経験のある者の「退院時に病院側(主治医や医療ソーシャルワーカー等)から、職場復帰に関する相談・助言を受けたか」については、病院側から相談・助言を「受けた」とする割合は36.2%となっている。退院時の病院側の職場復帰に関する相談・助言の有効性については、「有効だった・計」(「有効だった」「やや有効だった」の合計)は、86.1%となっている(図表2)。

図表2 退院時の病院側の職場復帰に関する相談・助言を受けた場合の職場復帰をする上での有効性(SA、単位=%)

厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の認知度は、「内容等も含め知っている」が7.9%、「聞いたことはあるが内容は知らない」が32.7%、「知らない」が57.0%となっている。正社員規模別にみると、「内容等も含め知っている」の割合は、規模が大きくなるほど高くなる。「ガイドラインを知っている・聞いたことがある企業」における「ガイドラインの活用状況」では、「活用している」が4.4%、「機会があれば活用するつもりである」が75.7%、「活用する予定はない」が16.3%となっている。
  2022年調査

有効だった

やや有効だった

あまり有効ではなかった

有効ではなかった

有効だった・計

全体   698 35.7 50.4 12.0 1.9 86.1
会社在籍時の主な疾患 がん 225 38.2 47.1 13.3 1.3 85.3
脳血管疾患 118 33.1 46.6 14.4 5.9 79.7
心疾患 138 41.3 46.4 11.6 0.7 87.7
肝炎 23 34.8 52.2 8.7 4.3 87.0
糖尿病 82 32.9 53.7 12.2 1.2 86.6
難病 112 28.6 63.4 8.0 0.0 92.0

※疾患の治療開始時に雇用者だった者のうち、最初に疾患に罹患した時に、治療・療養のために連続2週間以上の休み(「休職期間」)を取得した者のなかで入院期間があった者で、退院時に病院側(主治医や医療ソーシャルワーカー等)から、職場復帰に関する相談・助言を「受けた」とする者を対象に集計。「有効だった・計」は、「有効だった」「やや有効だった」の合計。

  • 休職から「復職した」とする者において、休職から復職後の勤め先による仕事内容、業務量、勤務時間などの働き方の見直しでは、「働き方の変更は一切なかった」が52.9%で最も割合が高い。具体的な見直し内容では、「業務量の削減」が17.5%と最も割合が高く、次いで、「所定内労働時間の短縮」「残業・休日労働の制限・禁止」などとなっている。
  • 疾患罹患後、疾患を罹患した際の勤め先の退職の有無については、「現在も同じ勤め先で勤務を続けている」が74.6%と7割を占める一方で、「疾病以外の理由で退職した」が17.8%、「疾病を理由に退職した」が7.6%となっている。「退職・計」(「疾病を理由に退職した」「疾病以外の理由で退職した」の合計)は25.4%である。
  • 「疾病を理由に退職した」者の退職理由としては、「症状や副作用等のため仕事を続ける自信がなくなった」の割合が30.6%と最も高く、次いで、「治療・療養に専念するため」(28.0%)、「治療と仕事を両立できるような就業形態がなかった」(26.5%)、「会社や同僚、仕事関係の人々に迷惑をかけると思った」(25.3%)、「治療や静養に必要な休みをとることが難しかった」(18.6%)、「残業が多い職場だったから」(18.4%)、「治療と仕事を両立できるような転換可能な業務がなかった」(17.5%)、「休職制度がなく、退職せざるを得なかった」(13.1%)などとなっている。

政策への貢献

「働き方改革実行計画」に基づく今後の取組方針を検討が求められていることから、現状を踏まえた政策を検討していくための基礎資料を提供した。

本文

分割版

研究の区分

情報収集

研究期間

令和4~5年度

執筆担当者

郡司 正人
労働政策研究・研修機構 リサーチフェロー
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構 調査部次長
天野 佳代
労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員補佐

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