調査シリーズNo.180
病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(WEB患者調査)
概要
研究の目的
働き方改革の議論の中で、治療と仕事の両立に係る支援の強化が求められていることから、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)を踏まえ、がん患者・難病患者等(がん・脳血管疾患・心疾患・肝炎・糖尿病・難病(※))の就労実態を把握する必要があるため、個人web患者調査を行った。
本調査は、労働基準局安全衛生部、職業安定局の要請研究である。
※本調査の「難病」とは、障害者総合支援法の対象疾病にあたるもの。
研究の方法
インターネット調査(スクリーニング調査・本調査)。調査対象は、調査会社に登録しているインターネット調査登録モニターのうち、全国の年齢(15歳以上64歳以下)の就労者の男女で、調査会社が保有する過去5年間の疾患パネル(がん・脳血管疾患・心疾患・肝炎・糖尿病・難病等)に登録のある者。同社の登録モニターを対象にスクリーニング調査(SC調査)を実施し、該当する調査対象(過去5年間にがん・脳血管疾患・心疾患・肝炎・糖尿病・難病の病気治療をした者(経過観察含む))のみが本調査に回答する方式。調査実施時期は2017年11月2日~11月15日。回収数は本調査が7,694件(SC:19,959件)。
主な事実発見
(疾患罹患時に雇用者だった者の治療と仕事の両立状況)
- 過去5年間の病気治療(経過観察を含む)において、雇用者の疾患罹患時に在籍した会社で治療していた主な疾患(単一回答)については、糖尿病が34.3%でもっとも割合が高く、次いで、がん(19.8%)、難病(17.6%)、心疾患(15.9%)、脳血管疾患(6.3%)、肝炎(6.0%)となっている。罹患した疾患の通院頻度(疾患罹患後から1年間の間での平均)は、いずれの疾患も、「月1回程度」の割合がもっとも高く、次いで、「3カ月に1回程度」の割合も高い。
- 勤め先への相談・報告(複数回答)は、全体で、「所属長・上司」が63.2%でもっとも多く、次いで、「同僚」が29.4%、「人事労務担当者」が12.4%、「産業医」が12.2%などとなっている。「勤め先には一切相談・報告しなかった」は26.9%だった。
- 治療・療養のために連続2週間以上の休み(休暇又は休職。以下「休職期間」と略)の取得状況では、「取得した」が30.9%、「取得していない」が51.9%、「そもそも休職制度がない・適用されない」が17.2%となっている。会社在籍時の主な疾患別にみると、「取得した」とする割合が高いのは、脳血管疾患(56.9%)、がん(53.5%)などとなっている。一方、糖尿病(14.0%)は、「取得した」とする割合が他の疾患に比べて低い。
- 取得した休職期間は、「1カ月程度」が31.5%ともっとも割合が高く、次いで、「2週間程度」が26.3%、「2カ月程度」が13.6%、「3カ月程度」が9.4%などとなっている。「3カ月以下・計」(「2週間程度」「1カ月程度」「2カ月程度」「3カ月程度」の合計)は80.8%となっている。
- 休職から「復職した」とする者を対象として、復職後の勤め先による働き方の見直しの状況(複数回答)については、具体的な見直し内容をみると、「残業・休日労働の制限・禁止」(17.1%)、「所定内労働時間の短縮」(16.7%)、「業務量の削減」(15.9%)、「仕事内容を変更した(軽微な作業に就ける等)」(13.3%)などとなっている。
- 疾患罹患後、疾患を罹患した際の勤め先の退職状況では、「現在も同じ勤め先で勤務を続けている」(78.3%)とする者がもっとも割合が高い(「現在も同じ勤め先で休職中」は1.0%)。一方、退職関係の回答についてみると、「依願退職した」(14.7%)、「会社側からの退職勧奨により退職した」(3.6%)、「解雇された」(1.7%)、「休職期間満了により退職した」(0.7%)となっている。「退職・計」(「依願退職した」「休職期間満了により退職した」「会社側からの退職勧奨により退職した」「解雇された」の合計)の割合は20.7%である。退職した者の退職理由(複数回答)では、疾患に関連する退職理由として、「仕事を続ける自信がなくなった」(23.3%)がもっとも多く、次いで、「会社や同僚、仕事関係の人々に迷惑をかけると思った」(15.7%)、「治療・療養に専念するため」(14.6%)、「治療や静養に必要な休みをとることが難しかった」(12.9%)、「残業が多い職場だったから」(10.7%)などが続く(図表1)。
(求職活動の状況)
- 疾患に罹患し、求職活動をした者(雇用者で退職後、求職活動をした者と、非雇用者で求職活動をした者)において、求職活動の際に治療(経過観察・治療終了を含む)していた主な疾患(求職活動時の主な疾患)は、糖尿病が28.7%でもっとも割合が高く、次いで、難病(26.3%)、がん(18.1%)、心疾患(13.2%)、脳血管疾患(7.4%)、肝炎(6.5%)となっている。求職活動をした者の求職活動開始時の疾患治療状況をみると、「通院治療中」が58.8%と6割を占めてもっとも割合が高く、次いで、「経過観察中」が30.6%、「治療が終了した」が10.6%となっている。
- 求職活動を始めた理由(複数回答)は、「生活を維持するため」が80.0%ともっとも多く、次いで、「治療費を稼ぐため」(27.9%)、「社会や人との接点を持っていたいから」(17.3%)、「自分の能力を活かしたいから」(15.9%)、「疾患の治療が落ち着き働けるようになったから」(13.2%)、「働くことが生きがいだから」(11.8%)などとなっている。
- 求職活動で利用・活用した機関・媒体(複数回答)は、「ハローワーク」が61.4%ともっとも多く、次いで、「インターネットの就職・求人情報」(45.8%)、「求人情報誌、新聞、チラシなど」(31.2%)、「縁故(友人、知人等)」(19.0%)、「民間就職支援サービス」(15.8%)などとなっている。
- 就職希望先への求職活動時の疾患申告の状況では、「伝えた」が48.0%、「全く伝えなかった」が52.0%で、両者は半々の状態である。求職活動時の疾患治療状況別にみると、「伝えた」とする割合は、「治療が終了した」者に比べて、「経過観察中」や「通院治療中」の方が高い。求職活動での不安(複数回答)では、具体的な不安内容をみると、「病歴を伝えると採用につながらないのではないか」が43.3%ともっとも多く、続いて、「病気の治療状況を企業側にどこまで伝えたらよいかわからない」(31.3%)、「会社に配慮を申し出ることが困難」(18.5%)、「治療のための休暇取得の必要性を言いづらい」(16.9%)などとなっている。
- 求職活動を経て、就職・再就職の有無では、「就職・再就職できた」者が79.8%で、「就職・再就職できなかった」が9.9%、「現在、求職活動中」が10.4%となっている。「就職・再就職できた」者の就職先の就業形態をみると、「正社員」が41.9%でもっとも割合が高く、次いで、「パート・アルバイト」が28.4%、「契約社員」が21.3%、「派遣社員」が8.4%となっている。正社員が4割である一方、非正社員(契約社員、パート・アルバイト、派遣社員の合計)は58.1%と6割弱を占めている。
政策的インプリケーション
求職活動時の疾患治療状況では、「通院治療中」が多く、求職活動での不安では、病歴の伝達で悩みを抱えている者も多い。求職活動の支援強化が望まれる。
政策への貢献
働き方改革の議論の中で、治療と仕事の両立に係る支援の強化が求められていることから、働き方改革実行計画を踏まえ、現状を踏まえた政策を検討していくための基礎資料を提供した。
本文
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研究の区分
情報収集
研究期間
平成29年度
執筆担当者
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 調査部 次長
- 奥田 栄二
- 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.163)。