調査シリーズNo.240
治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)
概要
研究の目的
治療と仕事の両立支援をめぐっては、平成28年度(2016年度)に策定された「働き方改革実行計画(以下、実行計画)」に基づき、会社の意識改革と受け入れ体制の整備、トライアングル型支援体制の構築が進められているが、更なる取組の充実・強化を図るため、令和4年度(2022年度)以降は、平成29年度(2017年度)から令和3年度(2021年度)までの取組を評価し、今後の取組方針を検討することが実行計画工程表に示されている。このため、両立支援の現状を把握するとともに、取組推進のための課題を抽出する必要があることから、がん患者・難病患者等(がん・脳血管疾患・心疾患・肝炎・糖尿病・難病)の就労実態を把握するため、企業調査を実施した。
本調査は、厚生労働省労働基準局安全衛生部の要請研究である。
なお、当機構では、2017年に実施した「病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)」(調査シリーズNo.181。以下、「2017年調査」という)がある。今回の調査(以下、「2022年調査」という)では、2時点比較の観点も踏まえ、調査方法及び、一部の設問設計において、2017年調査をベースとしている。
研究の方法
アンケート調査。
- 調査方法:
- 郵送配付、郵送回収。
- 調査対象:
- 全国の企業から、産業別(16区分)・従業員規模別(6区分)に単純無作為抽出した従業員規模10人以上の企業20,000社(農林漁業、公務に属する企業を除く)
- 実施期間:
- 2022年12月2日~12月21日
- 有効回答票:
- 4,721社(有効回答率、23.6%)
回収された調査票のデータは、産業別・規模別に全国の企業数(総務庁統計局「経済センサス」(H28年基礎調査)結果を利用)に一致するように復元を行った。
主な事実発見
- 「柔軟な働き方を支援するための制度の有無」では、「時間単位の休暇制度・半日休暇制度」(61.9%)が最も割合が高く、次いで、「退職者の再雇用制度 」(42.3%)、「時差出勤制度」(40.4%)、「所定内労働時間を短縮する制度」(38.7%)、「在宅勤務(テレワーク)制度」(24.6%)、「フレックスタイム制度」(17.0%)などとなっている。各種制度がある企業での「私傷病の治療や療養を目的とした利用の可否」についてみると、「利用できる」とする割合は、「時間単位の休暇制度・半日休暇制度」(93.3%)、「在宅勤務(テレワーク)制度」(87.4%)、「時差出勤制度」(86.2%)、「フレックスタイム制度」(85.5%)、「退職者の再雇用制度」(82.0%)、「所定内労働時間を短縮する制度」(79.6%)など、いずれも高い割合となっている。
- 柔軟な働き方支援制度について、私傷病の治療や療養目的での利用を可能としたことの効果(複数回答)をみると、具体的な効果として、「制度利用に対して職場で協力する雰囲気ができた」の割合が23.3%と最も高く、次いで、「職場に多様性を受容する意識が浸透した」が20.3%、「社員全体の企業に対する信頼感が上昇した」が17.5%、「疾患を理由とする離職率が低下した」が15.8%、「日常的に事業継続体制が構築された」が10.2%、「社員全体の離職率が低下した」が8.6%などとなっている(図表1)。
2022年調査 | |||||||||||||
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疾患を理由とする離職率が低下した |
社員全体の離職率が低下した |
社員全体の企業に対する信頼感が上昇した |
職場に多様性を受容する意識が浸透した |
日常的に事業継続体制が構築された |
制度利用に対して職場で協力する雰囲気ができた |
福利厚生の充実を理由とする求人応募が増えた |
企業イメージの向上に貢献した |
その他 |
特段、効果はみられなかった |
無回答 |
効果あり |
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全体 | 15.8 | 8.6 | 17.5 | 20.3 | 10.2 | 23.3 | 1.3 | 3.9 | 3.6 | 33.8 | 7.3 | 58.9 | |
正社員規模 | 10~29人 | 14.3 | 8.8 | 17.0 | 19.7 | 10.2 | 22.8 | 0.9 | 3.9 | 3.8 | 33.6 | 8.0 | 58.4 |
30~49人 | 15.8 | 8.6 | 18.6 | 19.6 | 10.6 | 21.9 | 1.0 | 2.3 | 4.1 | 35.3 | 7.5 | 57.2 | |
50~99人 | 17.3 | 8.2 | 19.4 | 22.1 | 9.5 | 24.0 | 3.2 | 5.3 | 1.9 | 34.0 | 4.8 | 61.3 | |
100~299人 | 25.1 | 8.4 | 19.3 | 22.8 | 9.2 | 28.1 | 2.3 | 4.6 | 3.1 | 33.2 | 4.2 | 62.6 | |
300~999人 | 24.3 | 5.1 | 10.4 | 21.0 | 13.2 | 23.9 | 2.4 | 4.2 | 2.7 | 35.7 | 5.3 | 59.1 | |
1000人以上 | 20.4 | 4.5 | 17.7 | 27.6 | 13.2 | 32.5 | 3.8 | 6.0 | 6.2 | 24.4 | 7.3 | 68.3 |
※「①柔軟な働き方を支援するための制度」のいずれか一つでも選択し、②私傷病の治療や療養目的で「利用ができる」とする企業を対象に集計。「効果あり」は、本設問の効果(選択肢1~9)を選択した企業(「特段、効果はみられなかった」以外)から算出。
- 厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」という)の認知度は、「内容等も含め知っている」が7.9%、「聞いたことはあるが内容は知らない」が32.7%、「知らない」が57.0%となっている。正社員規模別にみると、「内容等も含め知っている」の割合は、規模が大きくなるほど高くなる。「ガイドラインを知っている・聞いたことがある企業」における「ガイドラインの活用状況」では、「活用している」が4.4%、「機会があれば活用するつもりである」が75.7%、「活用する予定はない」が16.3%となっている(図表2)。
2022年調査 | |||||||||
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①厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の認知度(SA) | ガイドラインを知っている・聞いたことがある企業 | ||||||||
②「ガイドライン」の活用状況(SA) | |||||||||
内容等も含め知っている | 聞いたことはあるが内容は知らない | 知らない | 無回答 | 活用している | 機会があれば活用するつもりである | 活用する予定はない | 無回答 | ||
全体 | 7.9 | 32.7 | 57.0 | 2.4 | 4.4 | 75.7 | 16.3 | 3.6 | |
正社員規模 | 10~29人 | 5.2 | 30.3 | 61.7 | 2.8 | 2.6 | 74.0 | 19.4 | 4.0 |
30~49人 | 5.7 | 35.6 | 56.7 | 2.0 | 3.6 | 76.8 | 15.1 | 4.6 | |
50~99人 | 12.4 | 36.9 | 48.9 | 1.8 | 5.0 | 81.4 | 12.1 | 1.5 | |
100 ~299人 | 20.9 | 43.8 | 34.2 | 1.1 | 6.7 | 79.5 | 9.8 | 4.0 | |
300 ~999人 | 31.4 | 42.4 | 25.6 | 0.6 | 15.9 | 76.9 | 6.4 | 0.7 | |
1000人以上 | 58.9 | 22.4 | 17.3 | 1.4 | 33.1 | 60.8 | 4.3 | 1.8 |
※「②ガイドライン」の活用状況」は、「①厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」の認知度」で、「内容等も含め知っている」「聞いたことはあるが内容は知らない」と回答した企業を対象に集計。
- ガイドラインに盛り込まれている「病気の治療と仕事の両立支援を行うための環境整備(実施前の準備事項)」の実施状況として、「事業者による基本方針などの表明と労働者への周知」の実施割合は14.1%、「教育・研修等による両立支援に関する意識啓発」の実施割合は9.4%、「相談窓口の明確化」の実施割合は23.0%となっている。
- 治療と仕事の両立に向けたプラン(「両立支援プラン」)を「策定している」とする割合は5.3%、「現在、策定を検討中」が3.9%、「策定していない」が70.8%、「プラン策定の機会がなかった」が18.4%となっている。正社員規模別にみると、「策定している」とする割合は、300人未満(「10~29人」「30~49人」「50~99人」「100~299人」の計)では1割に満たないが、「300~999人」で10.2%、「1000人以上」で21.1%と高くなっている。
- 両立支援コーディネーターの認知度については、「内容等も含め知っている」が3.0%、「聞いたことはあるが内容は知らない」が10.3%、「知らない」が73.0%となっている。正社員規模別にみると、「内容等も含め知っている」の割合は、規模が大きくなるほどやや高くなり、「1000人以上」では29.5%となっている。
- 私傷病等の疾患の治療と仕事の両立支援制度の課題(複数回答)では、「休職者の代替要員が難しい」の割合が65.9%と最も高く、次いで、「病状に応じた配慮や就業上の措置の判断」(39.6%)、「職場の上司・同僚等の負担への対応」(32.0%)、「就業継続可否または復職可否の判断」(30.4%)、「柔軟な労働時間制度の設置」(23.4%)、「柔軟な就業形態の設置」(21.6%)などとなっている。
- 過去3年間での該当疾患(がん、脳血管疾患、心疾患、肝炎、糖尿病、難病)を罹患している社員の有無については、疾患罹患者が「いる」とする企業割合は、「糖尿病」(26.6%)、「がん」(25.6%)、「心疾患」(10.4%)、「脳血管疾患」(8.9%)、「難病」(8.1%)、「肝炎」(3.1%)となっている。正社員規模別にみると、いずれの該当疾患においても、おおむね規模が大きくなるほど、疾患罹患者が「いる」とする割合が高くなる傾向にある。
- 疾患罹患者がいる企業を対象に、疾患に罹患した社員が、疾患ごとに、休職をする者が多いか、休職することなく通院治療をする者が多いか(疾患を罹患した社員の休職状況)については、「糖尿病」や「肝炎」「難病」「心疾患」、は「ほとんどが休職することなく通院治療」とする割合が最も高い(「糖尿病」(90.5%)、「肝炎」(65.1%)、「難病」(58.4%)、「心疾患」(55.2%))。「脳血管疾患」「がん」については、「ほとんどが休職を経て治療している」が最も割合が高く(「脳血管疾患」53.3%、「がん」45.3%)、次いで、「ほとんどが休職することなく通院治療」(「脳血管疾患」30.9%、「がん」32.4%)となっている。
政策への貢献
「働き方改革実行計画」に基づく今後の取組方針を検討が求められていることから、現状を踏まえた政策を検討していくための基礎資料を提供した。
本文
分割版
研究の区分
情報収集
研究期間
令和4~5年度
執筆担当者
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 リサーチフェロー
- 奥田 栄二
- 労働政策研究・研修機構 調査部次長
- 天野 佳代
- 労働政策研究・研修機構 調査部主任調査員補佐
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