調査シリーズNo.181
病気の治療と仕事の両立に関する実態調査(企業調査)
概要
研究の目的
働き方改革の議論の中で、治療と仕事の両立に係る支援の強化が求められていることから、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)を踏まえ、がん患者等(がん・脳血管疾患・心疾患・肝炎・糖尿病・難病(※)。以下、「該当疾患」と略す)の就労実態を把握する必要があるため、企業調査を行った。
本調査は、労働基準局安全衛生部、職業安定局の要請研究である。
※本調査の「難病」とは、障害者総合支援法の対象疾病にあたるもの。
研究の方法
アンケート調査。調査方法は、郵送配布、郵送回収。
調査対象は、産業別(16区分)・従業員規模別(6区分)に単純無作為抽出した全国の従業員規模10人以上の企業20,000社(農林漁業、公務に属する企業を除く)。回収された調査票のデータは、産業別・規模別に全国の企業数(総務庁統計局「経済センサス」(H26年基礎調査)結果を利用)に一致するように復元を行った。調査実施期間は、2017年10月20日~11月8日。有効回答票は7471社(有効回答率:37.4%)。
主な事実発見
- 産業保健スタッフ(産業医、保健師、看護師など)の有無(複数回答)は、「専属の産業医がいる」が6.4%、「嘱託の産業医がいる」が20.5%、「保健師がいる」が3.1%、「看護師がいる」が6.9%などとなっており、「産業保健スタッフはいない」は67.5%となっている。正社員規模別にみると、「産業保健スタッフはいない」とする割合は、規模が小さくなるほど高くなる傾向にある。産業保健スタッフがいる企業での社員に対するサポート内容(複数回答)は、「健康診断等の結果を踏まえたフォローアップ」が73.1%ともっとも多く、次いで、「社員からの相談受付」(56.3%)、「職場環境整備に関する人事部門・上司への助言」(35.0%)、「長時間労働者等の健康指導」(34.5%)、「休職や復職にあたっての面談」(31.8%)、「医療機関(主治医等)との連絡・情報交換」(25.0%)、「休職者に対する定期的な面談やフォロー」(17.6%)などとなっている。
- 健康経営(「従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉え、その実践を図ることで従業員の健康の維持・増進と会社の生産性向上を目指す経営手法」)の取り組み状況では、「すでに取り組んでいる」が15.2%、「現在、検討中」が28.1%となっており、「取り組んでいない」が53.9%となっている。正社員規模別にみると、規模が大きくなるほど、「すでに取り組んでいる」「現在、検討中」の割合が高くなる。
- 健康保険組合等保険者との連携状況(従業員の健康保持・増進の取り組みを推進するために、健保組合等の保険者が保有する自社の従業員の健康状態に係るデータを活用する等)については、健保組合等の保険者と「連携することがある」が30.3%となっており、「連携したことはない」が67.5%となっている。これを正社員規模別にみると、規模が大きくなるほど、健保組合等の保険者と「連携することがある」とする割合が高くなる。
- 治療と仕事の両立支援制度の課題(複数回答)については、「休職者の代替要員・復帰部署の人員の増加が難しい」が54.3%ともっとも多く、次いで、「休職期間中の給与保障が困難」(48.9%)、「治療と仕事を両立するための制度が十分でない」(42.2%)、「治療のための休みをとりやすい体制確保が困難」(30.4%)などとなっている(図表1)。
- 疾患の罹患者を雇用するための必要な支援(複数回答)については、「罹患者が休業取得した場合の代替要員確保に対する助成」が54.2%ともっとも多く、次いで、「雇入れに対する助成」も47.2%となっており、これらの支援について半数の企業が必要との認識を示している。
- 過去3年間での該当疾患(がん、脳血管疾患、心疾患、肝炎、糖尿病、難病)を罹患している社員の有無については、疾患罹患者が「いる」とする企業割合は、「糖尿病」(25.2%)、「がん」(24.3%)、「心疾患」(10.7%)、「脳血管疾患」(8.3%)、「難病」(8.0%)、「肝炎」(4.6%)となっている。正社員規模別にみると、いずれの該当疾患においても、おおむね規模が大きくなるほど、疾患罹患者が「いる」とする割合が高くなる傾向にある。
- 疾患罹患者がいる企業を対象に、疾患に罹患した社員が、疾患ごとに、休職をする者が多いか、休職することなく通院治療をする者が多いか(疾患を罹患した社員の休職状況)については、「糖尿病」と「肝炎」は「ほとんどが休職することなく通院治療」とする割合がもっとも高い(「糖尿病」89.0%、「肝炎」71.0%)。一方、「脳血管疾患」「がん」については、「ほとんどが休職を経て治療している」がもっとも割合が高く(「脳血管疾患」56.9%、「がん」48.7%)、次いで、「ほとんどが休職することなく通院治療」とする割合も高い。
- 休職期間について「休職者・復職者が少ないためわからない」及び無回答を除いて集計したところ、「糖尿病」「肝炎」「心疾患」は、「1カ月程度」(「糖尿病」72.5%、「肝炎」57.5%、「心疾患」49.9%)がもっとも割合が高い。「がん」と「脳血管疾患」は、「1カ月程度」「3カ月程度」がともに2割程度と高いものの、「6カ月程度」「6カ月超~12カ月未満」「1年程度」もそれぞれ1割前後みられる。また、「難病」も、「1カ月程度」が33.0%ともっとも割合が高く、次いで、「3カ月程度」となっているが、続いて「1年程度」「6カ月程度」となっており、比較的長期の休職期間をあげる企業もみられる。
- 疾患に罹患した社員が休職をした場合の配慮措置(複数回答)については、「休職者・復職者が少ないためわからない」及び無回答を除いて集計したところ、「働き方の変更はほとんどしない」とする割合が高いのは、「糖尿病」(45.7%)、「肝炎」(34.7%)となっている。具体的な働き方の見直し措置としては、いずれの疾患においても、「業務量の削減」「残業・休日労働の制限・禁止」「所定内労働時間の短縮」「仕事内容を変更した(軽微な作業に就ける等)」などが上位となっている(図表2)。
政策的インプリケーション
治療と仕事の両立支援制度の課題では、休職者の代替要員・復帰部署の人員の増加について困難を感じている企業が半数を占める。一方、必要な支援として、「罹患者が休業取得した場合の代替要員確保に対する助成」も半数を占めており、治療や休職による罹患者の欠員への対策に企業が課題を抱えていることがうかがえる。
政策への貢献
働き方改革の議論の中で、治療と仕事の両立に係る支援の強化が求められていることから、働き方改革実行計画を踏まえ、現状を踏まえた政策を検討していくための基礎資料を提供した。
本文
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研究の区分
情報収集
研究期間
平成29年度
執筆担当者
- 郡司 正人
- 労働政策研究・研修機構 調査部 次長
- 奥田 栄二
- 労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員補佐
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.164)。