調査シリーズNo.234
JILPT個人パネル調査「仕事と生活、健康に関する調査」第1回

2023年12月28日

概要

研究の目的

我が国の経済社会は、人口減少・少子高齢化、DXの進展などにより大きく変化する中で新型コロナウイルス感染症の多大な影響を受け、変化が加速している。そうした中、テレワークの拡大や副業・兼業への関心の高まりなど、人々の働き方や、生活、健康は、新たな状況・課題に直面している。仕事、生活、健康は、相互に影響を与えあう関係にあり、実証研究では、適切な分析手法を用いて因果関係を議論することが求められる。加えて、近年、「ウェルビーイング」という言葉にも注目が集まっており、人々の望ましい生き方や、それを実現するための社会経済環境に関心が注がれている。こうした状況や問題意識をふまえ、仕事(仕事特性、働き方、業務負荷等)と、生活、健康、ウェルビーイングとの関係を検討することを主な目的とした個人パネル調査(同一個人を追跡する調査)を開始した。

研究の方法

JILPT個人パネル調査「仕事と生活、健康に関する調査」(略称:JILLS-i)は、次の特徴を有する。

  1. ミドルエイジ層の仕事・生活・健康・ウェルビーイングがテーマ:仕事特性、働き方、業務負荷、生活時間、健康に関わる生活習慣、心身の自覚症状、主観的ウェルビーイングなどを研究
  2. 半年サイクルでのパネル調査を実施:既存調査と比べて短期的な変動を観測し、要因を分析
  3. 日本版O-NETとの接続による応用研究の可能性:厚生労働省職業分類表をもとに職業を把握

第1回調査の概要

Web調査(調査会社のWebモニターを使用したアンケート調査)

調査対象:
調査時点において日本国内に居住する35~54歳の男女
標本設計:
サンプルサイズ2万人(社会全体の人口分布に沿うよう、総務省「令和2年国勢調査」をもとに、男女(2区分)×年齢階層(5歳刻み4区分)×就業形態(正社員・非正社員・自営業等・非就業の4区分)×居住地域(8区分)×学歴(大卒・非大卒の2区分)で目標サンプル割付(計512セル)を行い、設計通り回収した。)
調査項目:
回答者の属性、経歴(学歴、職歴等)のほか、労働環境、世帯の状況、生活時間、健康状態、生活満足度など。
実査期間:
2023年1月18日~25日

主な事実発見

  • ミドルエイジ層の仕事と生活、両立の課題:35~54歳という対象層には、配偶者の有無や子どもの有無・年齢などが異なる多様なライフステージの者が含まれる。就業状況は、男女・ライフステージによって異なり、既婚女性の就業状況は、配偶者(夫)の年収階級によってもやや異なる。家事・育児・介護時間などの時間配分には、性別やライフステージによる差異が大きい。仕事役割と家庭役割との両立困難(ワーク・ファミリー・コンフリクト)は、対象年齢層の中では30代後半で最も大きく、男女別に見ると、男性で「仕事から家庭への負の影響」が、女性で「家庭から仕事への負の影響」が相対的に強く認識される傾向がある。
  • 健康状態に関して、身体症状スケール「Somatic Symptom Scale-8 (SSS-8)」をもとに、8項目の身体的な自覚症状の有無・頻度について尋ねた。SSS-8の合計スコア(0~32点)について、属性による身体的症状の程度(多寡)のちがいをみると(図表1)、女性は男性に比べてスコアが高く、身体的な自覚症状を多く抱えていることがうかがえた。年齢階級別に見ると、年齢が高いほど平均スコアがやや高い。就業形態による違いもあるが、性別や年齢によるちがいを反映している可能性がある。

図表1 自覚症状SSS-8スコアの分布-男女・年齢階級別、就業形態別

図表1画像:身体的な自覚症状の程度(多寡)には、性別や年齢層による差が見られる。

  • メンタルヘルスは、Kessler らが開発した「K6」という尺度で尋ねた。K6スコアの分布に男女で大きな違いはないが、年齢別では若年層ほどK6スコアから見るメンタルヘルスの状態が悪い。また、就業状態別に見ると、非就業者は就業者に比べてK6スコアが高く、メンタルヘルスの状態が悪いことが示される。
  • 健康に関わる生活習慣に関し、運動習慣、間食の習慣、朝食欠食、睡眠による休養について、厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」における標準的な質問票をもとに項目を作成した。健康に関わる生活習慣には、男女差や年齢階層差のほか、就業形態による違いも見られる。男女別に見ると、運動習慣は男性の該当割合の方が高く、間食の習慣は女性の該当割合の方が高い。また、朝食欠食の割合は男性の方が高い。睡眠による休養については、男女や年齢階層による大きな違いは見られない。就業状態別に見ると、運動習慣、間食、朝食欠食について就業状態による差が見られるが、これは男女差等を反映している可能性がある。また、睡眠による休養については自営業等で比較的やや高い割合を占めている。
  • 「ウェルビーイング」は「健康」と並んで本調査の重要な柱であるが、第1回調査ではとくに「主観的ウェルビーイング」についてOECDのガイドラインに準拠して尋ねた。図表2は、このうち「生活満足度」「仕事満足度」「やりがい」「幸福感」について、男女別さらに配偶者有無の別に分けたうえで、就業形態別の平均値を示している。

図表2 「生活満足度」「仕事満足度」「やりがい」「幸福感」の平均値(男女・配偶者有無・就業形態別)

図表2画像:主観的ウェルビーイングの水準は性別・雇用形態によって異なり、さらに配偶者有無によっても違いがみられる点が特徴である。

(上段のグラフ:男性)男性の特徴は、「配偶者あり」「配偶者なし」の2つのグラフの形がよく似ていることである。いずれのグラフでも、非就業のスコアが最も低く、その次に非正社員が低く、正社員と自営業等はスコアが同程度に高い。「配偶者あり」の方が全般的に主観的ウェルビーイングの水準が高いものの、就業形態による得点差が明確であることは、配偶者の有無にかかわらず共通している。

(下段のグラフ:女性)女性では、全体にいずれのカテゴリーも男性よりスコアが高い。また、男性と同様に、「配偶者あり」の方が全体としてスコアが高い。一方で男性と異なっているのが、「配偶者あり」では、就業形態によるスコアの違いがほぼ見られないという点である。また「配偶者なし」では、自営業等のスコアが正社員・非正社員よりも高いこと、そして正社員と非正社員との間にはスコアの違いがほとんど見られないことが、男性との相違点である。

以上より、就業形態と主観的ウェルビーイングの関連については、性別や配偶状態によって、水準や関連のあり方に違いがあることが明らかになった。

政策的インプリケーション

健康状態や主観的ウェルビーイングは、性別、年齢、就業形態等によって違いがある。社会として健康増進、ウェルビーイング向上を目指す上で、個人が直面する仕事・生活・健康に係る状況や課題について理解することが重要となる。

政策への貢献

労働政策の企画・立案の基礎資料として活用が見込まれる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「労働市場とセーフティネットに関する研究」
サブテーマ「格差・ウェルビーイング・セーフティネット・労働環境に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

高見 具広
労働政策研究・研修機構 主任研究員
鈴木 恭子
労働政策研究・研修機構 研究員

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

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