調査シリーズNo.221
新型コロナウイルス感染症の感染拡大下における労働者の働き方の実態に関する調査(企業調査、労働者WEB調査)

2022年3月31日

概要

研究の目的

2020年1月以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により日本の経済社会が大きな影響を受け続けている中、主に、2020年4~5月の最初の緊急事態宣言下において、国民生活・国民経済の安定確保のために業務の継続を求められた分野(以下、「対象業種」という。本調査では、これらの業種の労働者を、いわゆる「エッセンシャルワーカー」としている)の企業と労働者について、感染拡大下における働き方の実態と課題を把握するため、厚生労働省の要請に基づき、企業調査と労働者WEB調査を行った。

研究の方法

【企業調査】

調査方法
郵送による調査票の配布・回収。
調査対象
全国の従業員規模10人以上の民間企業2万社。
調査期間
2021年2月12日~25日。
有効回収数
7,935件(有効回収率:39.7%)。
集計結果は平成26年経済センサスの対象業種の業種・企業規模に合わせて母集団復元を行っている。

【労働者WEB調査】

調査方法
調査会社の登録モニターを対象としたインターネット調査。
調査期間
2021年2月5日~3月12日。
調査対象
対象業種で働く労働者20,000サンプル。
有効回収数
20,000件。
集計結果は平成29年就業構造基本調査の対象業種の業種・職種分布に合わせて母集団復元を行っている。

主な事実発見

  • 労働者調査において、新型コロナ下で労働者が感じた感染リスクの推移を3時点(「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」「2020年9月~10月」「直近(2021年1月)」)でみると、感染リスクを「感じた・計」(「非常に高いと感じた」「ある程度高いと感じた」の合計)の割合は、「通勤時」では45%前後、「職場(勤務時)」では60%前後で推移し、いずれも「2020年9月~10月」で若干低下した後、「直近(2021年1月)」では若干上昇し、調査対象期間を通じて、労働者が感じる感染リスクは低下していない。職場(勤務時)の感染リスクを「感じた・計」の割合を業種別にみると、調査対象期間を通じて、「医療業」が8割弱、「社会保険・社会福祉・介護事業」が7割強、「生活関連サービス業」が7割弱、「小売業」が65%前後、「宿泊・飲食サービス業」が6割強と、相対的に高くなっている。
  • 企業調査では、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」において、事業所に対して、いやがらせ、誹謗中傷などの迷惑行為を受けた経験がある企業割合は3.4%となっている。業種別にみると、「宿泊・飲食サービス業」が9.7%と最も高く、次いで、「生活関連サービス業」(7.8%)、「医療業」(5.2%)、「社会保険・社会福祉・介護事業」(3.2%)などが続いている。迷惑行為を受けた相手としては、「事業所のある地域の住民」(45.9%)、「事業所の利用者」(36.8%)、「従業員の関係者」(15.7%)の順に高くなっている。一方、労働者調査では、「自身の迷惑行為を受けた経験がある」割合は4.2%となっており、業種別には「医療業」(7.4%)、「生活関連サービス業」(7.4%)、「社会保険・社会福祉・介護事業」(5.4%)で相対的に高くなっている。迷惑行為を受けた相手としては、「顧客や利用者」(46.3%)、「勤め先の地域住民」(31.9%)、「自宅の地域住民」(20.1%)の順に高くなっている。
  • 労働者調査で、労働者の仕事に対する「負担が大きい・計」をみると、肉体的負担では、「平時(2020年1月以前)」の34.3%に対し、緊急事態宣言以降やや上昇傾向で推移している。また、精神的負担では、「平時」の41.6%に対し、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」において、55.1%まで上昇し、「2020年9月~10月」でいったん低下したものの、「直近(2021年1月)」で再び上昇している(図表1)。性・雇用形態別にみると、正社員、非正社員に関わらず、男性より女性のほうが肉体的、精神的負担いずれも、「負担が大きい・計」の割合が高く、特に「女性正社員」では、肉体的負担で41.9%、精神的負担で63.6%となっている。精神的負担で「負担が大きい・計」の割合を業種別にみると、「社会保険・社会福祉・介護事業」(70.7%)、「医療業」(67.7%)、「生活関連サービス業」(61.2%)、「宿泊・飲食サービス業」(58.4%)、「小売業」(56.5%)などで高くなっている。
  • 労働者調査で、前年同時期と比べての給与面の変化をみると、正社員では、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」において、「変化無し」の割合が80.6%と大半を占めている。「上がった」は2.7%とわずかであり、「下がった」は16.7%となっている。「2020年9月~10月」「直近(2021年1月)」においても、「上がった」は2%台で変わらず、「下がった」も15~16%台でほとんど変わらない。一方、非正社員では、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」において、「変化無し」の割合が69.7%を占めている一方で、「上がった」は4.8%とわずかであり、「下がった」は25.4%となっている。正社員と比べると、非正社員のほうが「上がった」あるいは「下がった」とする割合はいずれも高い。その後の推移をみると、「下がった」とする割合は、「2020年9月~10月」でやや下がったものの、「直近(2021年1月)」で再度上がっている。
  • 労働者調査では、正社員の給与について、「平時」では、「満足・計」の割合が16.5%、「不満・計」の割合が30.7%と、「不満・計」が「満足・計」を上回っている。それが「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」では、「満足・計」の割合が14.7%に低下する一方、「不満・計」の割合は34.8%に上昇している。その後の推移をみると、「不満・計」の割合は、「2020年9月~10月」「直近(2021年1月)」においてほとんど変わりがない。非正社員もおおむね同様である。
  • 労働者調査では、「仕事を通じた満足度」は、「平時」では、「高い・計」が18.8%、「低い・計」が21.9%と、「低い・計」が若干高いものの両者は拮抗している。それが、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」では、「低い・計」の割合は32.4%と上昇し、「2020年9月~10月」でいったん28.8%に低下したが、「直近(2021年1月)」(32.0%)で再び上昇している。「高い・計」の割合は、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」以降、1割台前半で推移している。これを業種別にみると、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」において、「低い・計」の割合は、「宿泊・飲食サービス業」(46.1%)、「生活関連サービス業」(45.6%)で他の業種に比べて高くなっており、その後の推移をみても、相対的に高い状態が続いている。
  • 企業調査によると、企業における感染対策に関する制度として、「平時から整備していたもの」「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて新たに整備したもの」の合計では、「消耗品(マスク、アルコールスプレー等)の配布または費用負担」(88.4%)、「有事の際のイベントや集会、会議、懇談会などの中止・自粛」(79.2%)、「咳や発熱などの症状がある人への適切な対応(特別休暇の付与、出勤停止など)」(76.7%)の割合が高くなっている。
  • 「各業種における感染防止対策のガイドライン」の遵守状況については、企業調査では、「遵守するとともに、さらに独自の感染対策を取っている」が31.3%、「遵守している」が59.6%となっており、合わせて90.9%が遵守していると回答している。一方、労働者調査では、「遵守するとともに、さらに勤め先で独自の感染対策を取っている」が34.0%、「遵守している」が45.3%となっており、両者を合わせて79.3%となっている。「遵守している」について、企業と労働者の認識に10%ポイント余りの差がみられている。
  • 企業調査により、前年同時期と比べた営業時間の変化をみると、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」においては、「ほぼ同じ」企業が64.8%となっているのに対し、営業時間の短縮や休業を行った企業は33.5%と約3分の1となっており、「2020年9月~10月」では19.9%に低下したが、「直近(2021年1月)」では24.9%と再び上昇している(図表2)。業種別にみると、特に、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」における休業割合が高かったのは、「宿泊・飲食サービス業」(26.9%)、「生活関連サービス業」(18.2%)であり、「小売業」(8.2%)でも一定の休業がみられていたが、その後は休業割合が低下し、「直近(2021年1月)」では「宿泊・飲食サービス業」(6.5%)以外の業種ではほとんど休業はみられなくなっている。
  • 企業調査により、前年同時期と比較した収益の変化をみると、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」では64.9%の企業で減少している。また、「ほぼ同じ」は27.6%であり、増加した企業は6.3%に留まっている。「減少・計」の割合は、「2020年9月~10月」においていったん55.3%に低下したが、「直近(2021年1月)」では59.7%と再び上昇している。業種別にみると、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」における収益の「減少・計」の割合は、「生活関連サービス業」(94.8%)、「宿泊・飲食サービス業」(94.7%)、「医療業」(79.9%)、「製造業」(73.6%)、「運輸業」(73.5%)などで相対的に高い。その後の推移をみると、これらの業種での「減少・計」の割合は、「2020年9月~10月」にいったん低下するものの、「2021年1月」にはおおむね上昇している。
  • 企業調査における今後の業績の見通しは、「現状維持」が35.3%と最も高くなっているが、次いで「ある程度悪い」が29.6%、「非常に悪い」が16.0%となっており、合計すると45.6%の企業が今後について悪い見通しとなっている。業種別にみると、「悪い・計」の割合は、「宿泊・飲食サービス業」(72.6%)、「生活関連サービス業」(60.1%)、「製造業」(53.5%)、「運輸業」(51.9%)などで高くなっている。
  • 企業調査により、従業員(正社員・非正社員)の過不足感をみると、「緊急事態宣言下(2020年4月~5月)」において、正社員では、「過剰・計」が18.6%なのに対し、「不足・計」は29.7%と、不足感の方が高い。非正社員でも、「過剰・計」が17.2%なのに対し、「不足・計」は、21.1%と、不足感の方がやや高い。正社員、非正社員のいずれも、「不足・計」の割合は、「2020年9月~10月」「直近(2021年1月)」において若干上昇している。

図表1 仕事に対する精神的負担(n=20,000、単位=%、SA)【労働者調査】

図表1画像

図表2 前年同時期と比べての営業時間の変化(n=7,935、単位=%、SA)【企業調査】

図表2画像

政策的インプリケーション

エッセンシャルワーカーについて、2020年4~5月の最初の緊急事態宣言から2021年1月までの期間における新型コロナによって働き方、処遇面等で受けた影響やそれによる肉体的、精神的負担、満足度の変化等について明らかにし、雇用・労働政策推進に必要な情報を提供したこと。

政策への貢献

令和3年版 労働経済白書での基礎的データの提供。

本文

研究の区分

緊急調査

研究期間

令和2~3年度

調査担当者

中井 雅之
労働政策研究・研修機構 主席統括研究員
(調査実施当時、総務部長)
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構 調査部 主任調査員

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.165)。

入手方法等

入手方法

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お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
ご購入について
成果普及課 03-5903-6263 

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