調査シリーズ No.114
「社会保険の適用拡大が短時間労働に与える影響調査」結果
―短時間労働者に対する社会保険の適用拡大に伴い、 事業所や労働者はどのように対応する意向なのか―

平成25年 8月12日

概要

研究の目的

社会保険の適用拡大が短時間労働者の雇用管理に及ぼす影響や、社会保険が適用拡大された場合の短時間労働者の対応意向等を探るため、事業所とそこで雇用されている短時間労働者を対象にアンケート調査を実施した。

また、社会保険の適用拡大の対象となる短時間労働者が多いとされる業種については、より具体的な状況を把握するため、企業及び労働組合に対するインタビュー調査も行った。

研究の方法

1.アンケート調査

全国の常用労働者5人以上の事業所15,000社(民間信用調査機関が所有するデータベースを母集団とし、産業・規模別に層化無作為抽出)を対象に、事業所アンケート調査票を郵送配布した。また、同事業所で雇用されている短時間労働者を対象に、労働者アンケート調査票の配布も依頼。調査期間は2012年7月12日~8月31日で、事業所と短時間労働者それぞれから直接、返送してもらい、回収された事業所票3,591(有効回収率23.9%)、労働者票5,317(有効回収率8.5%)を集計・分析した。

2.インタビュー調査

小売業(総合スーパー(GMS)及び百貨店)、外食サービス業、宿泊サービス業、介護サービス業、運輸・郵便業における3企業5労組を対象に、訪問聞き取り調査を行った。調査項目は、社会保険の適用拡大が短時間労働に与える影響をどうみるか――企業の行動・方針とそうした行動・方針を採る上での課題、短時間労働者の行動意向等である。

主な事実発見

<事業所調査:半数超の事業所が、社会保険が適用拡大されたら短時間労働者の雇用管理等を「見直す」と回答>
  • 短時間労働者を雇用している、または今後、雇用する可能性があると回答した事業所を対象に、社会保険が適用拡大された場合、短時間労働者の雇用のあり方や雇用管理を見直すか聞いたところ、「既に見直した」が3.8%、「今後、見直す(と思う)」が53.9%、「特に何もしない(と思う)」が37.3%などとなった。
<事業所調査:所定労働時間の長時間化を図る事業所と、短時間化を図る事業所がいずれも約3割>
  • 「既に見直した」あるいは「今後、見直す(と思う)」場合の具体的な見直し内容(複数回答)については、「適用拡大要件にできるだけ該当しないよう所定労働時間を短くし、その分より多くの短時間労働者を雇用」が32.6%、「短時間労働者の人材を厳選し、一人ひとりにもっと長時間働いてもらい雇用数を抑制」が30.5%と多い。このほか、「適用拡大要件にできるだけ該当しないよう、賃金設定や年収水準設定を見直し」が24.3%、「労働時間や賃金水準等での見直しは難しいので、短時間労働者の雇用管理に係る全体的なコスト削減を検討(教育訓練費用や福利厚生の圧縮等)」が14.4%、「短時間労働者はできるだけ定年再雇用を活用」が13.3%、「できるだけ正社員を採用」が13.0%、「短時間労働者を正社員へ転換」が11.7%、「派遣労働者や業務委託等に切り換え」が10.4%――などとなっている(図表1参照)。

図表1 社会保険の適用拡大に伴う短時間労働者の雇用管理等の具体的な見直し内容

図表1グラフ

図表1拡大表示

※リンク先で拡大しない場合はもう一度クリックしてください。

<短時間労働者調査:厚生年金・健康保険の被保険者として加入することを「希望する」短時間労働者は、国民年金の第1号被保険者で約5割、第3号被保険者では約2割>
  • 社会保険の加入状況について有効回答のあった短時間労働者で現在、国民年金の第1号あるいは第3号被保険者であるか、加入していない者を対象に、厚生年金・健康保険の被保険者(国民年金の第2号被保険者)となることを希望するか聞くと、「希望する」割合が26.5%で、「希望しない」割合は72.0%だった。「希望する」割合を現在の社会保険の加入状況別にみると、国民年金の第1号被保険者で50.0%、国民年金の第3号被保険者では21.4%などとなっている。
<短時間労働者調査:6割超の短時間労働者が、社会保険が適用拡大されたら働き方を「変えると思う」と回答>
  • 社会保険の加入状況について有効回答のあった短時間労働者で現在、国民年金の第1号あるいは第3号被保険者であるか、加入していない者を対象に、社会保険の適用要件が拡大された場合、現在の働き方を変更するか聞くと、「変えると思う」短時間労働者が61.8%、「変えることはないと思う」が35.9%などとなった(図表2参照)。
  • 「変えると思う」場合の具体的な内容(複数回答)としては、「適用されるよう、かつ手取り収入が増えるよう働く時間を増やす」が26.7%で、以下、「適用されるよう働く時間を増やすが、手取り収入が減らない程度の時間増に抑える」が15.6%、「適用にならないよう働く時間を減らす」が14.5%、「正社員として働く」が8.7%、「分からない・何とも言えない」が8.0%――などとなった(ただし無回答(36.3%)が多い点に留意が必要である)。

図表2 社会保険の適用要件が拡大された場合に働き方を変更する意向

図表2グラフ

図表2拡大表示

※リンク先で拡大しない場合はもう一度クリックしてください。

<短時間労働者調査:社会保険の適用を希望しているが、会社から労働時間の短時間化を求められた場合は、「他の会社を探す」「分からない・何とも言えない」「受け容れる」がそれぞれ3割程度>

社会保険の適用要件が拡大された場合に、現在の働き方を「変えると思う」とし、その具体的な内容として「適用されるよう、かつ手取り収入が増えるよう働く」あるいは「適用されるよう働く時間を増やすが、手取り収入が減らない程度の時間増に抑える」と回答した短時間労働者を対象に、会社から社会保険が適用されないよう、労働時間を短くすることを求められた場合の対応についても聞いた。その結果(複数回答)、「現在の会社を辞めて、厚生年金・健康保険の適用対象になることのできる他の会社を探す」が29.6%、「分からない・何とも言えない」が29.3%、「受け容れる(現在の会社で働き続ける)」が26.7%、「正社員にしてもらえるよう交渉する」が10.4%――などとなった。

政策的インプリケーション

  • 今回の調査結果を基にすると、社会保険の適用拡大に伴い短時間労働という働き方は今後、長時間化する層と短時間化する層に、さらに二極化が進むと予測される。そして、長時間化する層については、より高度な業務や責任を任されるようになる可能性が指摘されていることから、処遇や労働条件が適切に確保されるか注視していく必要がある。一方、短時間化する層については、現状より所定労働時間が断片化される分、軽易な業務を任されるようになる可能性が考えられる。これらの層については特に、結果として能力向上の機会不足などに陥らぬよう、充分注意していかなければならない。なお、週20時間未満になることで、雇用保険の対象から外れる短時間労働者が増える可能性がある点にも留意する必要がある。

政策への貢献

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

緊急調査

研究期間

平成24年5月~平成25年6月

調査実施担当者

荻野 登
労働政策研究・研修機構 調査・解析部部長
新井 栄三
労働政策研究・研修機構 調査・解析部主任調査員
渡辺 木綿子
労働政策研究・研修機構 調査・解析部主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.125)。

関連の調査研究

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。