調査シリーズ No.105
「短時間労働者の多様な実態に関する調査」結果
―無期パートの雇用管理の現状はどうなっているのか―

平成25年 5月31日

概要

研究の目的

無期労働契約で雇用されるパートタイム労働者が、広く活用されている実態があるが、基礎的なデータは乏しいのが現状である。また、改正労働契約法で、有期労働契約が反復更新され、通算5年を超える場合の無期労働契約への転換の仕組みが導入されたことを受け、短時間労働者に対する今後の影響を見極める必要もある。そこで、そもそも無期労働契約の短時間労働者がどのような雇用管理下に置かれているのか、また、短時間労働者の働き方や処遇に対する考え方は、無期・有期労働契約でどう異なるかといった基礎的なデータを把握した。

研究の方法

全国の常用労働者5人以上の事業所15,000社(民間信用調査機関が所有するデータベースを母集団とし、産業・規模別に層化無作為抽出)を対象に、事業所アンケート調査票を郵送配布。また、同事業所で雇用されている短時間労働者を対象に、労働者アンケート調査票の配布も依頼。調査期間は2012年7月12日~8月31日。事業所・労働者それぞれから直接、返送してもらい、回収された事業所票3,591(有効回収率23.9%)と、労働者票5,317(有効回収率8.5%)を集計・分析した。

主な事実発見

  1. 今回の調査では、原則として期間の定めがない無期労働契約の短時間労働者について、(これまで混同されることの多かった)短時間正社員や定年再雇用パートなどと明確に区分した上で、その活用状況を把握した。その結果、社会的にみれば無期パートを雇用している事業所は中小規模、有期パートを雇用している事業所は大規模に多く、いずれの事業所規模でも無期パートと有期パートを両方雇用しているケースは1割程度にとどまっており、大半は無期パートのみを雇用しているか、有期パートのみであるかに大別されている様子が浮き彫りになった(図表1)。
  2. 事業所はなぜ、無期パートを活用しているのか。「無期労働契約にしている理由」(複数回答)について、大規模事業所では「契約概念が明確でない当時に雇い入れたから」や「無回答」(よく分からない・理由はないと解釈できる)が多くなっている。大規模事業所における無期パートは、一部のパートに残存する特別な処遇区分である可能性がある。一方、中小規模の事業所でも「雇用管理上、特に契約期間を定めることはしていないから」が少なからず挙げられている。しかし、無期労働契約にしている理由の上位は「長期勤続を期待しているから」や「恒常的・定常的な業務に就かせているから」である。中小規模を中心に、無期労働契約を有期労働契約とは異なるものとして、意図して活用している様子が窺える(図表2)。

図表1 常用労働者の規模別にみた有期・無期パートを雇用している事業所割合

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図表1画像

 

図表2 事業所規模別にみた無期パートの契約期間を定めていない理由(複数回答)

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図表2画像

  1. 無期パートの雇用管理は、有期パートのそれとどう異なるのか。調査結果を全体として眺めると、両者はそう大きく異なるわけではない。だが、それは無期パートのみあるいは有期パートのみを雇用している事業所の影響を多分に受けているためであり、無期・有期パートをともに雇用している事業所に限ると、また違った様相が浮かび上がってくる。すなわち、無期パートは正社員と同じ業務や責任、人材活用下に置かれている割合が相対的に高く、その分、時間換算賃金が「正社員より高い」か「同じ(賃金差はない)」である割合や実際の賃金水準、昇給、賞与、退職金の支給割合などが有期パートを上回っているようである。また、正社員への転換機会も相対的にひらかれており、結果として平均勤続年数は、有期パートが3.64年のところ、無期パートは6.85年と顕著に長くなっている。
  2. 短時間労働者自身の処遇の受け止め方に、無期・有期労働契約で何か違いはあるのだろうか。無期・有期パートの雇用状況別に、現在の仕事や会社に対する満足度を比較すると、無期パートの方が有期パートより仕事や会社に対する満足度が相対的に高くなっている。この傾向は、個人属性や就労理由、パート就労収入の家計依存度を揃えてみても変わらない。通常は不満が高いとされる「正社員としての働き口が見つからなかった」ケースでも、満足度を高める結果となっている。無期パートは無期労働契約である分、やはり雇用不安の低減効果があると言えそうである。そしてそれは、どうも有期労働契約の反復更新による、実態としての長期勤続では得られない効果のようである。このことは、基本的に中長期の雇用を予定しながら無期雇用へ移行させていない理由を「現状で特段、支障がないから」などとしてきた事業所にとって、短時間労働者の雇用管理の今後のあり方を考える上での示唆的な結果となろう。

政策的インプリケーション

  • 今回の調査結果を基に、有期労働法制が短時間労働に与える影響・効果を考えるとき、無期労働契約への転換が進んだ場合にその結果として、正社員と比較した賃金水準の納得性や仕事・会社に対する満足度が改善する余地があり、少なくとも短時間労働者に対しては有効な雇用管理方策となり得る可能性が示唆された。それは、有期労働契約の反復更新による、実態としての長期勤続では得られない効果のようであり、無期パートの仕事・会社に対する満足度合いは、有期パートの10年以上の長期勤続をも上回るものとなっている。このことは基本的に中長期の雇用を予定しながら無期雇用へ移行させていない理由を「現状で特段、支障がないから(=特に理由はない)」などとしている事業所にとって、今後の労働契約管理のあり方を考える上での示唆的な結果となろう。
  • 改正労働契約法の施行に伴い、契約更新上限や勤続年数上限を設けるといった回避行動も危惧されている。今回の調査結果をみると、何らかの上限がある事業所では、上限がない事業所より、短時間労働者の満足度が有意に低くなっている。すなわち、回避行動は有期パートの不満を徒に高めかねず、結果として職場の就労意欲を削ぐ恐れもあることから、パートの活用戦略に照らして慎重に判断することが賢明と言えるだろう。

本文

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研究の区分

課題研究「無期パートに関する調査研究」

研究期間

平成24年度

調査実施担当者

荻野 登
労働政策研究・研修機構 調査・解析部部長
渡辺 木綿子
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.125)。

入手方法等

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