調査シリーズ No.99
中小製造業(機械・金属関連産業)における人材育成・能力開発
―アンケート・インタビュー調査結果―

平成24年 4月20日

概要

研究の目的と方法

大企業に比べ資本や設備に乏しい中小企業では、様々な環境変化に適応し経営の維持発展を図っていく上で、経営者も含めた就業者個々人のスキル・ノウハウのあり様がより大きな比重を占めている。しかしながら、実際には時間的・資源的制約や、ノウハウの不足などから中小企業における人材育成・能力開発は不十分なものになりがちで、中小企業の現状や今後の活動の方向性に即した政策的支援の必要性が高い。

こうした問題意識を踏まえて、労働政策研究・研修機構内に設けられた調査研究プロジェクト『中小企業における人材育成・能力開発』では、中小企業の中でも機械・金属関連産業に該当する主要な業種の企業と従業員を対象としたアンケート調査やインタビュー調査を通じて、 (1)企業における人材の確保や評価・処遇、教育訓練の内容など、人材の育成とキャリア形成に関わる取組みの現状、(2)勤務する従業員が勤務先の能力開発をどのように認識・評価し、また自身の能力開発に対していかなるニーズをもっているか、といった点を捉えようと試みた。本書では従業員規模、立地地域、業種、生産形態、職種など様々な項目と回答結果のクロス集計から、これら企業や従業員の属性が、人材育成・能力開発や人材育成・能力開発に関連する意識・行動に、どのような影響を及ぼしているのかを明らかにしていった。また、アンケート調査の結果とあわせて企業インタビュー調査の結果も事例調査レコードとして収めている。

主な事実発見

以下、企業及び従業員を対象としたアンケート調査における主な知見を示す。

  1. 各企業の生産工程に関わる基幹的職種(「技能者(=加工、組立などものの製造に直接担当している人材)」および「技術者(=設計、生産・品質管理、研究開発などの業務に従事している人材)」のうち、いずれか人数の多いほう)を対象とした、職場における育成・能力開発に関する取組みの中で、積極的に進めている(「積極的に進めている」または「ある程度積極的に進めている」)と回答した企業の割合が最も高かったのは、「仕事の内容を吟味して、やさしい仕事から難しい仕事へと経験させるようにしている」で6割を超えている。以下、「指導者を決め、計画にそって育成・能力開発を行っている」、「主要な担当業務のほかに、関連する業務もローテーションで経験させている」、「作業標準書やマニュアルを使って、育成・能力開発を行っている」が4割弱で続く。これらのいずれの取組みについても、より従業員規模の大きい企業で積極的に進めるとする回答がより高まる傾向にある。
  2. 基幹的人材(=基幹的職種に従事する従業員)を対象としたOff-JTの取組みとしては、「社外の機関が行う研修に従業員を派遣している」(24.1%)と回答した企業の割合が一番多く、これに「教材・研修などに関する情報を収集している」(16.2%)が続く。また、「教材や設備を用意している」(4.2%)、「予算を毎年確保している」(4.4%)、「企画・立案をする担当者を決めている」(7.5%)という企業の割合は極めて低く、1割に満たない。また、基幹的人材の自己啓発に対する支援の有無について聞いたところ、「支援している」と回答した企業の割合は24.0%で、5割弱の企業では「支援は予定していない」(46.6%)と回答している。

    Off-JTおよび自己啓発支援の取組みともに、より規模の小さい企業ほど実施していないという回答の割合が高まる。

  3. 基幹的人材の教育訓練を実施する上での課題として最も多くの企業が挙げたのは、「従業員が忙しすぎて、教育訓練を受ける時間がない」(30.4%)で、以下、「社外の教育訓練機関を使うのにコストがかかりすぎる」(21.6%)、「従業員のやる気が乏しい」(20.5%)と続く。また約2割は「特に問題はない」と答えている(図表1

    図表1 企業が基幹的人材の教育訓練を進める上での課題(複数回答、単位:%)

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    図表1 企業が基幹的人材の教育訓練を進める上での課題(複数回答、単位:%)/調査シリーズNo.99

  4. 従業員が自らの能力開発において課題に感じているのは、「従業員の間に、切磋琢磨して能力を伸ばそうという雰囲気が乏しい」(36.2%)、「忙しすぎて、教育訓練を受ける時間がない」(27.0%)、「指導してくれる上司・先輩がいない」(20.8%)といった点である。他方、約4分の1は「特に問題はない」と答えている。技能者は技術者に比べ「特に問題はない」と指摘する割合が高いが、問題点としては「従業員の間に、切磋琢磨して能力を伸ばそうという雰囲気が乏しい」を指摘する傾向が技術者に比べ強い。逆に技術者で指摘される傾向がより強いのは、「忙しすぎて、教育訓練を受ける時間がない」である(図表2)。

    図表2 従業員自身が自らの能力開発に関して感じている課題(複数回答)

    図表2 従業員自身が自らの能力開発に関して感じている課題(複数回答)/調査シリーズNo.99

政策的含意

  1. 職場での取組み、Off-JT、自己啓発支援ともに、より規模の小さい企業で実施されない傾向が強まり、この傾向は特に従業員20人未満の企業で顕著となる。従業員がごく少ないこうした企業での人材育成・能力開発に対する支援策や、人材育成・能力開発に関わるニーズ・実態把握の取組みに今後もとりわけ注力していく必要がある。
  2. 本書と同じアンケート調査の結果を基にした分析によると、従業員に求められる仕事上の能力を明確にしている企業ほど、人材育成・能力開発の取組みを積極的に展開している。また、セミナー・研修会の開催や産学連携といった人材育成・能力開発に関わる取組みが所在地域においてより盛んに行われているという企業、およびそうした企業に勤務する従業員ほど、人材育成・教育訓練に関わる様々な取組みに取組む傾向が強い(cf. 労働政策研究報告書No.131 『中小製造業における人材育成・能力開発』)。こうした分析結果を踏まえると、各企業の事業活動を踏まえつつ必要となる人材の要件を明らかにし、様々な人材育成・能力開発機会の活用へとつなげていく取組みや、製造業企業の立地地域において様々な主体(地方の経営者団体、大学・高校などの公共教育機関、産業振興や人材育成などを目的としたNPOや任意団体など)が関わる人材育成・能力開発の体制整備が、有効な支援策になりうると考えられる。

政策への貢献

中小企業を主たる対象とした人材育成・能力開発の支援策や、支援体制のあり方の検討における、基礎資料としての活用が期待される。

本文

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調査実施担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 人材育成部門・副主任研究員
稲川文夫
JICA チーフ・アドバイザー
(元・労働政策研究・研修機構アドバイザリー・リサーチャー)
姫野宏輔
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員
開田奈穂美
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員
福井康貴
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
労働政策研究・研修機構臨時研究協力員

研究期間

平成23年度

データ・アーカイブ

本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.112)。

入手方法等

入手方法

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
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