調査シリーズ No.98
中小企業の雇用管理と両立支援に関する調査結果(3)

平成24年 3月30日

概要

研究の目的と方法

平成20~21年度に実施した企業向け、従業員向けアンケート調査結果の中で、前年度報告書(労働政策研究報告書No.135 『中小企業におけるワーク・ライフ・バランスの現状と課題』)では言及できなかった部分のデータについて再集計しながら、今後の検討のために、WLB施策に積極的に取り組んでいる企業を中心に、補足的聞き取り調査を行った。

主な事実発見

1 男性正社員の育児休業取得

男性従業員の育児休業取得に関しては、「出産した配偶者」がいる男性従業員のいる企業は多いが、男性本人の取得はきわめて少ない。女性は、育児休業規定の有無が取得率に大きく影響していたが、男性はそうした傾向は見られず、企業内で「ニーズ調査を行う、意見を聞く」場合に取得率が高い傾向が見られた(図表)。これらの結果から、男性の育児休業取得は休業制度の有無に関係なく、育児・家事参加に意欲の高いあるいは必要性の高い男性正社員が育児休業取得を希望し、その社員のニーズを捉えそれを積極的に支援する先進的な取り組みを行っている企業で取得者が出ているのが現状と考えられる。

2 女性非正社員の育児休業取得

全般的に、規模が小さいほど女性非正社員の育児休業の「対象者、取得者」は共に少ない。女性非正社員のほとんどは出産までに退職しているものと推測されるが、女性非正社員の育児休業取得率は女性正社員より低く、企業規模が小さいとその傾向が顕著である。企業規模が小さい企業では、制度整備は進まないことが影響していると考えられる。

3 ヒアリング調査より

(1)行政関連

  1. 実施していること:補助金を中心とした支援、それらの認知普及活動。
  2. 悩んでいること:企業の関心が高まらず、課題として優先順位が低い。企業に関わる「糸口」の少なさ。
  3. 問題の背景:関連部門(たとえば、労働局、ハローワークなど)との連携がほとんど見られないことや、市区町村レベルでは、雇用・労働の専門的担当者がいないこと。現在は ひとえに、担当者の「個人的頑張り」にのみ依存している現状。

(2)企業

  1. 基本的な取り組み姿勢:経営者の考え次第。逆にこれがないと、中小では相当困難。
  2. 実際の取り組み:育休などの取得実績があるが、実数じたいが多い訳ではない。その時の状況に応じて、「譲り合い」で凌いできたことの結果でもある。
  3. 影響、困っていること:特段、なし。それは、休業取得などの実数が少ないことで、企業「全体に影響を及ぼす」ほどにはなっていないことにもよる。
  4. 今後の課題:「休みつつ、顧客にいかに対応するか」、「評価システム全体の見直し」、 「未知の『介護』への対応」
  5. 行政への要望:「まずは、現状を見てほしい」、「一律の規制はムリ。差異の大きさを踏まえて、段階的に進めるような制度設計を」、「どういった支援措置があるのかが、未だわかりにくい」など。

図表 企業規模別・社員の意見聴取有無別・男性正社員の育児休業開始者のいる企業の割合(過去3年間・配偶者が出産した男性がいた企業のみ)

図表 企業規模別・社員の意見聴取有無別・男性正社員の育児休業開始者のいる企業の割合(過去3年間・配偶者が出産した男性がいた企業のみ)/調査シリーズNo.98(JILPT)

*企業規模「無回答」は表示していないが、「全体」には企業規模「無回答」を含む。

*社員の意見聴取有無「無回答」は表示していない。

政策的含意

男性従業員や非正規従業員の育児休業では、希望はあるがその取得があまり進まない現状を明らかにし、取得が可能になる工夫がいっそう必要となることを明らかにした。

担当の行政職員は、関連部門との連携も含めて使用可能な資源が限られる中で、企業側の関心が向上しない現状に、担当者個人の頑張りで対処しようとする状況を明らかにした。

経営の根本的な部分で苦労する多くの中小企業に対しては、達成しやすい課題から徐々に高度な課題へと段階的に取り組む仕組みを、積極的に検討すべきことを明らかにした。

政策への貢献

WLB施策をさらに展開するためには、一様でない企業の状況を踏まえ、「共通にミニマム・レベル」から始め「段階的に整備」という施策が現実的であろうことを示唆した。

育児休業では「対象者が少なくあまり困っていない」企業も見られたが、介護はすべての企業に関わる問題であり、それへの対応を今から進める必要があることを示唆した。

本文

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執筆担当者

中村良二
労働政策研究・研修機構 主任研究員
酒井計史
労働政策研究・研修機構アシスタントフェロー

研究期間

平成23年度

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