調査シリーズ No.97
入職初期のキャリア形成と世代間コミュニケーションに関する調査
概要
研究の目的と方法
1.研究の目的
バブル崩壊後、わが国に経済は長期の経済停滞に陥り、企業経営や人材管理においても、将来の予測性や長期の計画性をもちにくい状況が強まっている。また、取り組むべき技術革新や事業化の将来展望を持つことも難しい環境にあったと考えられる。
こうした経営環境の厳しさから、学卒者の採用は絞り込まれ、事業の拡張にあたっても非正規雇用者を採用することで、短期的に人員を確保する傾向が強まった。これらの社会的な影響として、若年層で不安定就業が広がり、企業内では若手人材が手薄となるなど技能継承の問題がクローズアップされている一方で、企業は、採用、配置、育成などに関する人事機能の強化に取り組み、若手人材育成のあり方についても、関心が高まっている。
この調査では、今後の事業活動の展望の中で職場が求める人材像、その中での若手人材育成のための取組、また、世代間コミュニケーションの現状などについて明らかにし、今後の課題とその政策的対応を検討することを目的としている。
2.調査方法
郵送による調査票の配布・回収
主な事実発見
- 企業が採用にあたり、今後重視することとして、「コミュニケーション能力の高いこと」をあげる割合が最も高かった。
- 若手人材の配置、育成において、今後重視することとしては、「特定の部門への配置を基本としつつ必要に応じ他部門も経験させる」、「長期的に教育訓練を行い、育成する」の割合が高くなっている(図表)。
- 若手人材の育成における今後の課題としては、「将来を担う人材を長期的視点で育成する必要がある」や「若手人材の指導に当たる上司の指導力を強化していく必要がある」の割合が高くなっている。
- 各世代の入社時の資質の印象を比べると、若い世代ほど (1)「自ら考え、行動することができる」割合は低くなる (2)「失敗したり困難な仕事に直面すると自信を失ってしまう」割合は高くなる (3)「職場においてコミュニケーションをうまく図れない」割合は高くなる (4)「自分の取り組みたい仕事へのこだわりが強い」割合は高くなる (5)「自らのキャリア形成や職業生活設計への関心が高い」割合は高くなる――といった特徴がみられた。
※図表をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)
政策的含意
バブル崩壊後の90年代から2000年代初めにかけて、人件費コストを抑制するため、これまで長期的な視点で行われてきた雇用管理の方針を見直す企業が増えた。人材育成においても、これまでのようにじっくり時間をかけて行うのではなく、即戦力の確保が重視される傾向がみられた。
今回の調査からは、企業が長期的視点で行う人材育成に回帰しつつあることがうかがえる。その中で、今後、計画的な人事配置による人材育成が強化され、人事配置と能力開発が一体的に行われる傾向が強まっていくものと思われる。
一方、若手社員の特徴をみると、キャリア形成や職業生活設計の関心が高い一方で、自ら考え、行動することは苦手で、失敗や困難な仕事に対する耐性が弱く、コミュニケーションは苦手という人材像が浮かび上がってくる。
人材育成を成功させるためには、こうした若手社員の特性を踏まえた上で、世代間のギャップを解消し、コミュニケーションの円滑化を通じて、知識やノウハウを伝承していくことが重要と思われる。
政策への貢献
本調査の一部は、『平成23年版労働経済の分析』において使用された。
本文
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- 表紙・まえがき・目次(PDF:564KB)
- 第Ⅰ部 調査結果の概要(PDF:1.3MB)
- 第Ⅱ部
資料1「入職初期のキャリア形成と世代間コミュニケーションに関する調査」調査票(PDF:366KB) - 第Ⅱ部
資料2「入職初期のキャリア形成と世代間コミュニケーションに関する調査」付属統計表(PDF:1.8MB)
研究期間
平成23年度
データ・アーカイブ
本調査のデータが収録されています(アーカイブNo.66)。