調査シリーズ No.68
企業における人事機能の現状と課題に関する調査

平成22年6月25日

概要

研究の目的と方法

企業内の労使紛争処理の機能を担っている人事担当部門の機能と役割を明らかにするとともに、人事管理を巡る諸問題について実態を解明することを目的に、従業員数200名以上の企業11,772社の人事部長宛にアンケート調査票を郵送し、924社から回答を得た。

主な事実発見

  1. 労使協議の役割は、団交代替的な労使協議、団交前段的労使協議、経営参加的な労使協議、人事の事前協議の順で指摘率が高く、労使協議が、おおむね協調的に行われてきた企業は半数以上にのぼった。
  2. 人事担当部門に苦情が伝えられる経路は、上司、本人、自己申告書、労働組合の順で回答が多く、経路が多様化している。人事担当部門は、苦情元の従業員の直属の上司や事業部門の長だけでなく、経営の上層部や労働組合に相談ないし調整を行っている場合が多く、調整・相談先は多様化している。
  3. 人事担当の取締役が現在就任している企業は6割弱であり、Jacoby(2005)の米国での調査と比べて高く、企業内における人事担当部門の影響力が、米国に比べて相対的に大きい可能性が示唆される。
  4. 8割以上が「従業員の生活を保障するのは、企業の務めである」と考えており、労働組合役員の経験のある取締役が現在いる、もしくは、以前はいたとする企業が2割以上と、経営陣に労組出身者がほとんどいない米国大企業と比較すると大きな違いがあり、企業統治における従業員重視の姿勢がみてとれる。(図表参照)
  5. 5割以上の企業で、精神的ストレスを訴える従業員が増加しており、この原因について統計分析を行った結果、労働時間の増加、特定の人への仕事の集中、進捗管理の厳格化といった要因が影響を与えていたが、労働組合や労使協議の機会の有無、そして、人事担当部門の雇用保障に対する考え方の強さは、統計的に有意な影響を与えていなかった。

人事担当部門や労働組合の目に届きにくいところ(非正社員の多い末端の職場など)で問題が発生している可能性が示唆された。

政策的含意

従業員重視のガバナンスを背景に、企業内での紛争処理の機能は多くの場合、人事担当部門が担っていると言えるが、従業員のメンタルヘルスの問題などは、人事担当部門や労働組合からは目の届きにくい場所、例えば、非正社員の多い末端の職場レベルで起こりやすい可能性があり、末端職場レベルで働く労働者の苦情処理をいかにして行うか、といった政策的課題が提起しうる。

図表 人事担当部門の最近の経済・雇用情勢に対する考え方

図 人事担当部門の最近の経済・雇用情勢に対する考え方/調査シリーズNo.68

本文

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研究期間

平成21年度

執筆担当者

濱口桂一郎
労働政策研究・研修機構統括研究員
立道信吾
日本大学文理学部教授
労働政策研究・研修機構主任研究員(2009年3月まで)

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ
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