調査シリーズ No.64
中小企業経営者団体による人材育成・能力開発
―サービス業の団体における取組み―
平成22年3月30日
概要
研究の目的と方法
- 厚生労働省『能力開発基本調査』によると、中小企業がOff-JTを進めていく際、自社内での実施よりも他の機関などで行われている教育研修機会に依存する度合いが、大企業に比べて高い。そして、外部の教育訓練、研修の機会を活用する場合、民間法人、公益法人が実施するものに加えて、経営者団体、職業訓練法人等の実施する訓練・研修も活用しているというのが中小企業の特徴である。これらの知見を踏まえると、中小企業のOff-JTの実態に迫る上では経営者団体の機能や役割に着目する意義は小さくない。
- 本調査シリーズでは、サービス業分野の8つの経営者団体を取り上げ、各団体が行う教育訓練活動の詳細に加え、活動の背景や活動を進めていく上での課題、さらには仕事上求められる能力に関する基準の策定や厚生労働省が進める「ジョブカード制度普及のためのモデル事業」の活用などといった新たな動きについてまとめた。
主な事実発見
本調査シリーズで取り上げた8つの事例において進められていた取り組みは、以下の3つのケースに分けることができる。
- 既存の資格や企業横断的な能力評価基準における格付けを、団体に加盟する企業の内部におけるキャリア形成と関連付けるように試み、団体が実施する教育訓練の活用を図ろうとしているケース・・・情報サービス業、老人福祉介護業の団体の事例。
- 就業者の能力を評価するための企業横断的な基準を作成し、その基準を踏まえた教育訓練活動や、業界独自の職業資格の運用を実施しているケース(図表1参照)・・・葬祭業、職業紹介業、学習塾業の団体の事例。
- 従来団体で実施していた求人活動や教育訓練活動を、「ジョブカード制度普及のためのモデル事業」と連携させ、業界全体で新たな人材の確保を図ろうとしているケース(図表2参照)・・・自動車整備業、情報サービス業の団体の事例
政策的含意
- 企業内での能力開発やキャリア形成の中に位置づけられる企業横断的な能力評価基準(職業資格を含む)は、企業の従業員教育の取り組みを促進する。経営者団体における能力評価基準策定の動きを企業における教育訓練の活性化に結び付けていくため、より有用な企業横断的な能力評価基準の作成に向けた団体の取り組みを支援していく意義は大きい。
- また、企業を移動しながら能力開発・キャリア形成を図ろうとする就業者にとっても、経営者団体が作成する能力評価基準と、基準を踏まえた教育訓練活動が果たしうる役割は大きいと思われる。こうした就業者の間に能力評価基準が意味あるものとして普及していくには、能力評価基準と金銭面などの処遇との結びつきをより強めていく必要がある。
- 「ジョブカード制度普及のためのモデル事業」のような経営者団体を活用した人材の確保・育成策を進めていく際には、団体がこれまで進めてきた人材確保・育成のための取り組みとの効果的な連携が可能であるかを考慮する必要がある。
本文
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研究期間
平成21年度
執筆担当者
- 藤本真
- 労働政策研究・研修機構 人材育成部門研究員
- 藤波美帆
- 高齢・障害者雇用支援機構 常勤嘱託
- 稲川文夫
- 労働政策研究・研修機構 人材育成部門アドバイザリー・リサーチャー
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