労働政策研究報告書 No.182
「職業相談の勘とコツの『見える化』ワークショップ」の研究開発 ―認知的タスク分析を取り入れた研修研究―

平成28年5月31日

概要

研究の目的

「職業相談の勘とコツの『見える化』ワークショップ」(以下「勘コツワークショップ」と言う。)は、職業相談における担当者(以下「職員」と言う。)の応答の背景にある重要な判断や言動の選択を<ことば>にして職員同士で共有することにより、職場の相談力の向上を目的とした研修プログラムである。これまで、厚生労働省、都道府県労働局、地方自治体就業支援機関、労働政策研究・研修機構等の主催の18の研修コースで実施され、365人の職員が勘コツワークショップに参加した。

本報告書では、参加者を対象として実施したアンケート調査から、職業相談の窓口業務を進める上で、役に立つ情報やノウハウを参加者がどの程度得ることができたかを把握した。これらの結果をもとに、勘コツワークショップの更なる普及を目的として、その改善点を検討した。この検討をもとに、相談業務に携わる方一般に広く活用していただくことを想定した、勘コツワークショップのマニュアルVer.3.0を開発した(本報告書にはVer2.0が所収されている)。

研究の方法

勘コツワークショップの研究開発では、まず、職業相談の研修プログラムへの認知的タスク分析の応用を検討した(研究)。認知的タスク分析とは、仕事における働く人の判断や選択などの<こころ>の働きと、その仕組みに焦点を当てた分析手法である。この手法を応用して、特定の職業相談の経験から、そこで働いている勘コツを<ことば>にしていく面接法である勘コツインタビューを開発した。ついで、この勘コツインタビューの考え方と手法を取り入れ、職員同士で職業相談における重要な判断と選択を共有化する研修プログラムを開発し、ハローワーク等の職員を対象とした研修コースで、この研修プログラムを実施した(訓練)。研修プログラムの参加者を対象としたアンケート調査を実施し、職業相談の窓口業務を進める上で、役に立つ情報やノウハウを、職員がどの程度、得ることができたかを聞き、現場を想定した研修プログラムの有用性を検討した(実践)。これらの研究→訓練→実践のサイクルを回していくことにより、認知的タスク分析の考え方と手法を応用して、より効果的な研修プログラムを研究開発し、実践を通して、更なる職業相談の改善を進める。

主な事実発見

  • 研修プログラムの効果を把握するため、研修プログラムの終了後、参加者を対象としてアンケート調査を実施した。参加者の個人属性別に研修プログラムの効果を把握するため、個人属性を聞く質問項目が含まれているアンケート調査を実施した研修コースを分析の対象とした。その内訳は、厚生労働省と都道府県労働局の主催が、それぞれ4コース、労働政策研究・研修機構が1コースの合計9コースであり、研修プログラムの参加者総数は191人であった。
  • 研修プログラムの効果として、「研修を体験したことに満足をしているか」(以下「研修への満足感」と言う。)、「職業相談における勘やコツを<ことば>にするヒントが得られたか(以下「認知的タスク分析の理解」と言う。)」、「職業相談の窓口業務を進める上で、役に立つ情報やノウハウを取得できたか(以下「有用な情報・ノウハウの取得」)」を、「あてはまらない」から「あてはまる」までの5段階で尋ねた。その結果、図に示すように、「研修への満足感」、「認知的タスク分析の理解」、「有用な情報・ノウハウの取得」のいずれも、100.0%近くの参加者が肯定的に評価した。参加者は、認知的タスク分析を取り入れた研修プログラムに満足しており、認知的タスク分析を理解できるようになり、職業相談業務に有用な情報・ノウハウを得ることができたと言えよう。認知的タスク分析は、その専門家が実施すると考えられてきたが、これらの結果から、認知的タスクの専門家でなく、職場の同僚同士であっても、認知的タスク分析の活用が可能であることが理解できる。

    図表 研修プログラムの効果

    図表画像

  • さらに、参加者の個人属性別、グループの編成別、研修プログラムの構成別に、勘コツワークショップの効果を検討した。その結果、各構成別のほとんどのカテゴリーで、全員ないしは、ほとんどの参加者が、肯定的に勘コツワークショップの効果を評価した。
  • 肯定的評価の程度を比較するため、勘コツワークショップの効果について、「あてはまる」の割合を見ると、「研修への満足感」(73.8%)が7割を超え、「認知的タスク分析の理解」(61.8%)は6割程度、「有用な情報・ノウハウの取得」(57.1%)では6割を切り、低かった。肯定的評価の程度は、「研修への満足感」では強いが、「認知的タスク分析の理解」といった知識の習得や、現場に役立つ「有用な情報・ノウハウの取得」となると、弱くなる傾向にあると言えよう。
  • 性別と年齢層別に「あてはまる」の割合を見ると、性別では、「研修への満足感」、「認知的タスク分析の理解」、「有用な情報・ノウハウの取得」で、「女性」が「男性」よりも、それぞれ10.2ポイント、3.7ポイント、13.6ポイント高かった。年齢層別では、「認知的タスク分析の理解」といった知識の習得や、現場に役立つ「有用な情報・ノウハウの取得」で、「40代」(58.0%、50.0%)が、いずれも6割を切っており、他の年齢層が、6割以上もしくは6割程度であるのに対して、特に低かった。これらの情報は、グループにおける性別や年齢層の組み合わせを考える際の材料になると考えられる。たとえば、参加者同士の相乗効果を考えると、「40代」や「男性」の参加者が、グループのなかに、できる限り集中しないようにする配慮も考えられるだろう。
  • 「有用な情報・ノウハウの取得」について、肯定的に回答した181人の参加者に対し、「それは、どのような情報やノウハウですか?」と尋ね、具体的に記入するように求めた。記入率は96.6%であった。その結果、「職業相談の勘コツの気づきや理解」(62.9%)が6割程度と最も多く、ついで「他の職員・職場の情報・ノウハウ」(24.8%)が2割台、「職業相談の勘コツを明確にするノウハウの理解」(15.4%)と「職業相談の勘コツを明確にするメリットの理解」(12.7%)が1割台で続いた。後者の2つは、どちらも勘コツを明らかにするノウハウと関連している。両者のいずれかを回答した「職業相談の勘コツを明確にするノウハウ・メリットの理解」の割合を算出すると、25.1%になり、「他の職員・職場の情報・ノウハウ」と同じ2割台であった。

政策的インプリケーション

ハローワーク等の職員を対象とした研修への活用により、職場における職員一人ひとりが経験的に蓄積した職業相談の暗黙知を共有し、職業相談の質的向上に貢献できる可能性が考えられる。

政策への貢献

  • 平成26年9月5日、平成27年8月28日、9月4日に、厚生労働省において、ハローワークにおける就職支援ナビゲーターを対象とした「リーダーナビ養成研修」が実施された。この研修では、就職支援ナビゲーターの技能やノウハウの共有、向上を目的として、本研究で開発された認知的タスク分析の手法を取り入れたグループワークが実施された。
  • 平成26年度厚生労働省委託事業「生活困窮者の就労準備状況判断支援ツール開発事業」において、福祉事務所等からハローワークに対して支援要請されている生活保護受給者等の一般就労に向けた準備状況を判断するための着眼点や基準等を調査する際、本研究で研究された勘コツインタビューの手法が活用された。同事業の成果である「ハローワークでの円滑な支援のための生活困窮者の就労準備状況チェックリスト」と、同チェックリストの「活用マニュアル」の開発に貢献した。
  • 平成27年度厚生労働省委託事業「生活困窮者の就労支援技法開発事業」において、「生活保護受給者等就労自立促進事業」の就労支援における課題を把握するとともに、実際の支援事例を収集し分析すること等により、ナビゲーターが生活保護受給者等に効果的に支援するための就労支援技法を明らかにした。その際、本研究で研究された勘コツインタビューを用いて、就職支援ナビゲーターが、対応が難しいと感じる困難場面において、どのような判断や選択をしているかが調査された。同事業の成果である「こんなとき、どうする?-生活困窮者の就労支援における困難場面での対応方法集」の開発に貢献した。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「就職・採用実現のためのマッチングとコンサルティングに関する調査研究」

研究期間

平成24年度~27年度

執筆担当者

榧野 潤
労働政策研究・研修機構主任研究員

入手方法等

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