労働政策研究報告書 No.139
登録型派遣労働者のキャリアパス、働き方、意識
―88人の派遣労働者の ヒアリング調査から―
(1)(分析編・資料編)/(2)(事例編)

平成23年11月 4日

概要

研究の目的と方法

本報告書は88人の派遣労働者から、過去、現在、未来のキャリアと働き方、意識について聞きとり調査を実施し、その実態とキャリア形成の可能性を明らかにすることを目的としている。調査対象は、主に首都圏で派遣労働に従事している社会人とし、年齢、職種等に関して条件をあらかじめ設定し、労働組合、派遣会社からの紹介と、公募により、合計88人のサンプルを確保した。

分析課題は、派遣労働者のキャリアを過去、現在、未来で時間の流れを区切り、下図のように抽出した。

派遣労働者のキャリア俯瞰図 

図表 派遣労働者のキャリア俯瞰図/労働政策研究報告書No.139

主な事実発見

  1. 過去の職業キャリア

    派遣労働者のキャリア・パスをみると、1994年以前卒業の場合、初職正社員の割合は約8割、1995~1999年では約6割、2000年以降では約4割と徐々にその割合が減っていく。他方、初職派遣社員の割合は高まっていく。

    初職が非正社員で正社員経験のない層、特に非事務系から事務系へ職種転換をした者については、派遣労働で能力開発が出来ていると実感する傾向にある。彼(女)らは、自学自習的に資格やPCスキルの向上に投資し積極的に動いている。必ずしもキャリア・ステップはスムースではないが、能力の向上に実感を伴っていることから、派遣労働での能力開発を肯定的にみる傾向がある。

  2. 現在のキャリアと働き方

    派遣の仕事は概ね定型的業務である。正社員と仕事が一部重なっている場合の違いは責任面にある。正社員比率が低下すれば、正社員はより難易度の高い業務を担当し、派遣社員との仕事の重複は無くなり、分業化していくことが予想される。

    賃金上昇の主な要因は、a)職種変更、b)同一職種での業務の高度化、広範化、c)勤務地変更の3つ。同一派遣先での賃金上昇の特徴は、同一派遣先での勤続期間が2年以上と長く、仕事が高度化、広範化していることである。また、派遣労働者自身が、積極的に職域を広げていくこと、賃金交渉する姿勢が賃金上昇につながっている。

    短期・単発派遣で働く者には、次の仕事に就くまでのつなぎの働き方として選択している層がいる。短期・単発派遣にはまり込む原因は、短期派遣を繰り返すうちに就職活動への資金や時間が無くなるなど、悪循環に陥る様相が観察された。

    また、病気やメンタル面で体調を崩すなどの経験を持つ者が、生活の保持とリハビリ目的として、自身の体調に柔軟に合わせながら派遣労働を利用していることが観察された。

  3. 将来的キャリア

    正社員希望にもかかわらず求職活動をしていない者は多い。その理由は以下の5点に分類出来る。a)育児・介護など生活優先、b)実務経験をつける準備期間、c)人的資本に対して障壁を感じている、d)正社員の労働条件等に疑問を感じている、e)求職活動の資金がない。

    実際に正社員転換を打診された者の働き方は、打診された派遣先での仕事内容が広範化、高度化している。正社員転換を打診された時の年齢は、30歳前後に集中しており、同一の派遣先に半年から3年(中央値は2年)勤めた時点で打診を受けている。

    正社員転換の打診を断った理由は、正社員に転換すると賃金や収入が減少する、労働負荷が増える、打診を受けた会社や職場の人間関係に魅力を感じないという3つ、これらの複合的理由による。

政策的含意

派遣という働き方は職種によって様々である。職業キャリアとスキルの乏しい層では、加齢とともに、正社員転職、さらに派遣労働の継続でさえ難しい状況に陥る可能性がある。今後の労働力人口の減少を踏まえれば、さらなる年齢差別のない労働市場環境の整備が望まれる。また、正社員に比べて能力開発の訓練機会が少ない派遣という働き方に対しては、スキル形成支援の強化が重要である。とくに派遣労働者は、様々な派遣先を移動する場合がありうることから、社会においてキャリアを構築できるシステム(例えば、イギリスのNVQやアメリカのキャリアラダープログラム等の取り組み)の検討も必要である。

本文

研究期間

平成21~23年度

執筆担当者

小野晶子
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
奥田栄二
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
福田直人
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
 
(東京大学大学院経済学研究科博士課程後期)
荒川創太
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
郡司正人
労働政策研究・研修機構 主任調査員
山崎 憲
労働政策研究・研修機構 主任調査員補佐
米澤 旦
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員(当時)
 
(東京大学大学院人文社会系研究科社会学専門分野博士課程後期)

入手方法等

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