労働政策研究報告書No.125
学校時代のキャリア教育と若者の職業生活

平成22年11月19日

概要

研究の目的と方法

本研究では、学校卒業後の若者に、学校時代のキャリア教育を覚えているか否か、現在の職業生活にその内容が役立っているか否かという評価を求め、様々な条件との関連をみることにより、中長期的なキャリア教育の有効性を検討した。労働行政においては、キャリア教育がその後の労働市場や労働力需給に影響を与える可能性が重要であり、したがって、キャリア教育の短期的な効果ではなく、労働市場参入後の職業生活面における中・長期的な効果に関心をもつ。本研究では、学校時代のキャリア教育と若者の職業生活が具体的にどのような側面でどのように関連がみられるのかを様々な角度から検討し、中・長期的なキャリア教育の有効性について示唆を行うことを目的とした。調査は調査会社のモニターを使用した郵送調査であり、2010年2~3月に実施した。調査対象者は25歳前後(23~27歳)の若年者であり、最終的に計3,932名のデータを分析対象とした。

主な事実発見

  1. 25歳前後の若者が学校時代のキャリア教育を覚えている割合は、中学校では「かなり覚えている」「やや覚えている」を合計して約30%程度であった。高校では同じく約40%程度であった。一方、役立っている割合は、中学では約20%、高校では約25%であった。
  2. 具体的にどのような内容の授業や行事が記憶にあるかをたずねた結果、中学時代では「進路に関する二者面談や三者面談」「ボランティアなどの体験活動」「職業人や地域の人に仕事の話を聞く授業」、高校時代では「進路に関する二者面談や三者面談」「進路に関する個別相談やカウンセリング」「職業興味や職業適性などの検査」、大学等では「就職活動の進め方や試験対策の授業」「履歴書の書き方や面接試験の練習」「職業興味や職業適性などの検査」の割合が高かった(図表1)。
  3. 学校時代のキャリア教育と学校卒業後のキャリアとの関連を検討したところ、おおむね結果は以下の2点に集約されていた。 (1) 「大卒」「卒業直後に正規就労」「非正規就労経験なし」「転職経験なし」といった、いわば「直線的」なキャリアを歩んだ回答者で、中学・高校時代のキャリア教育は評価が高かった。 (2) 一方、何らかの形で「直線的」なキャリアを歩んでこなかった回答者は、総じて学校のキャリア教育を高く評価しておらず、中学・高校のキャリア教育の評価も低かった。また、現在の就労状況との関連については、概して言えば、 (1)比較的高い収入がある、運輸業、郵便業、教育・学習支援業、医療、福祉などの業種に勤務している、専門的・技術的・管理的職業に就いている、非正社員経験がないなどの場合に学校時代のキャリア教育に対する評価が高かった。 (2)現在、無業または求職中である、パート・アルバイトとして働いている、学校卒業直後の就労形態が無業か非正社員経験しかない場合、現在の職業が生産工程・建設である場合などで、学校時代のキャリア教育の評価が低かった(図表2)。

図表1 中学・高校・大学等で行った授業や行事で記憶にあるものの割合

表1 中学・高校・大学等で行った授業や行事で記憶にあるものの割合/労働政策研究報告書No.125

図表2 学校時代のキャリア教育の評価が高い属性

表2 学校時代のキャリア教育の評価が高い属性/労働政策研究報告書No.125

政策的含意

学校卒業時の就職活動に成功し、「直線的」なキャリアを歩んだ者ほど、学校時代のキャリア教育をよく覚えており、役立っているとの評価が高かった。一方、転職や非正規就労を経験するなど、いわゆる「直線的」なキャリアを歩まなかった者では、キャリア教育の評価が低かった。このことから、特に、無業者、求職者、非正規就労者等に対して、学校時代に十分でなかったキャリア形成支援をある段階で何らかの形で提供する必要性を示唆した。また、同時に、学校教育段階において、いわゆる「直線的」なキャリアを歩まなかった者にも有益と感じられるようなキャリア教育を提供する可能性についても示唆した。特に、「直線的」なキャリアを歩まなかった層の若者でもキャリア教育を高く評価している場合には一定の収入が得られているなど、キャリア教育に一定の効果があることを示唆する結果もみられており、労働市場で困難局面に遭遇してもキャリアを形成する基礎力を育み培うキャリア教育の重要性は高いことを示唆した。

政策への貢献

労働行政においては、職業適性検査等の効果的な提供(自己理解支援)を行うほか、学生・生徒が職業を身近なものとして興味を持つことができるよう、地域の実情に即した職業情報の収集・提供や職業人の講話(仕事理解支援)、職場体験(啓発的体験支援)等の実施を工夫すること、教育機関領域におけるキャリア・コンサルティングの充実(意思決定支援)とそのためのキャリア・コンサルティング能力の向上支援を行うこと、就職活動を効果的に推進するため大学等に対する就職活動の進め方や履歴書作成等に関するノウハウを提供すること等、職業や労働に近いという特徴を活かして、キャリア教育へ一層貢献することが重要であるとの指摘を行った。

本文

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研究期間

平成21年度

執筆担当者

西村 公子
労働政策研究・研修機構 統括研究員
下村 英雄
労働政策研究・研修機構 副主任研究員
高久 聡司
労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
川﨑 友嗣
労働政策研究・研修機構 特別研究員

入手方法等

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