ディスカッションペーパー 23-05
就業形態・年収と節約傾向の関係

2023年4月19日

概要

研究の目的

本稿は、「暮らしと意識に関するNHK・JILPT共同調査」において、回答者が自己評価した消費スタイルの情報を利用して、消費の節約傾向が、就業形態や年収により、どのように異なるか分析を行い、消費面から格差問題にアプローチする。

研究の方法

調査データの二次分析

主な事実発見

実証分析では、まず最初に、節約しているか否かのプロビット分析を行い、次に、節約の程度を順序プロビットモデルで分析した。

「節約を最優先に、生活を切り詰めている」ことを節約していることと定義して分析した結果、以下の傾向が確認された(図表1)。1)年収の節約傾向への影響をコントロールしない場合、正規雇用者の個人と比べて、非正規・フリーランスの個人が節約する確率は7.0%ポイント、無業の個人が節約する確率は11.4%ポイント高い(A1)。2)年収の節約傾向への影響をコントロールする場合、就業形態と節約傾向の関係は、配偶状態によって異なる傾向が見られた(A5~A6, A8~A9)。特に、無配偶者の場合、非正規・フリーランスや無業の個人が節約する確率は、正規雇用者の個人と比べて、有意に高い(A5~A6)。3)個人年収の節約傾向への影響に関しては、無配偶者の場合、400万円未満までの年収階級、有配偶者の場合、すべての年収階級において、年収階級が低いほど節約する確率が有意に高い(A5, A8)。4)世帯年収の節約傾向への影響に関しては、無配偶者の場合、「800万円以上」と比べ、「400万円未満」は有意に高いが(A6)、有配偶者の場合、年収階級が低いほど節約する確率が有意に高い(A9)。5)その他の個人属性の節約傾向への影響に関しては、男性は女性より、無配偶者は有配偶者より節約する確率が高い。また、15歳時の家庭の生活水準が「暮らしに余裕は全くなかった」個人や、無配偶者の場合は子どもがいる個人も節約する確率が有意に高い。

図表1 推計結果:就業形態・収入の「生活を切り詰める」確率への影響(プロビット分析)

図表1画像

注:1)平均限界効果(AME :Average marginal effects)を算出している。

2)すべての推計では、15歳時の家庭の生活水準ダミー、持ち家ダミー、子どもありダミー、子どもの数、男性ダミー、年齢階級ダミー、学歴ダミー、地域ブロックダミー、全サンプルを用いた推計では有配偶ダミーも説明変数として入れている。

3)括弧には、ロバスト標準誤差を示す。

4)*、**、***は、有意水準10%、5%、1%を表す。

また、「節約のため、無駄な消費をしない」、「節約を最優先に、生活を切り詰めている」ことをまとめて節約していることと定義して分析した結果、以下の傾向が確認された(図表2)。

1)年収の節約傾向への影響をコントロールしない場合、正規雇用者の個人と比べて、非正規・フリーランスの個人が節約する確率は11.6%ポイント、無業の個人が節約する確率は15.2%ポイント高い(B1)。就業形態による節約傾向の差は、「節約を最優先に、生活を切り詰めている」ことを「節約している」ことと定義した場合より大きいことが確認された。2)個人年収の節約傾向への影響をコントロールする場合、無配偶者の場合、無業の個人が節約する確率は、正規雇用者の個人と比べて、有意に高い(B5)。世帯年収の節約傾向への影響をコントロールする場合、配偶状態を問わず、正規雇用者の個人と比べ、非正規・フリーランスや無業の個人が節約する確率は有意に高い(B6、B9)。3)個人年収の節約傾向への影響に関しては、配偶状態を問わず、年収階級が低いほど節約する確率が有意に高い(B5、B8)。4)世帯年収の節約傾向への影響に関しては、無配偶者の場合、「800万円以上」と比べ、「400万円未満」は有意に高いが、有配偶者の場合、年収階級が低いほど節約する確率が有意に高い(B6,B9)。5)その他の個人属性の節約傾向への影響に関しては、節約する確率が有意に高いのは、15歳時の家庭の生活水準が厳しかった個人、有配偶男性、無配偶者の場合は子どもがいる個人である。

図表2 推計結果:就業形態・年収の「節約する」確率への影響

注:図表1の注と内容は同じ。

政策的インプリケーション

本稿の分析から、就業形態や年収の節約傾向への影響が確認された。政策的インプリケーションとしては、労働市場における就業形態の違いと所得格差は、消費面の格差に直接つながることが確認され、所得格差や貧困問題に取り組むことの重要性が改めて確認された。

政策への貢献

日本の貧困問題、格差問題の関連政策を検討する際の基礎資料となりうる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「労働市場とセーフティネットに関する研究」
サブテーマ「格差・ウェルビーイング・セーフティネット・労働環境に関する研究」

研究期間

令和4年度

執筆担当者

何 芳
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

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研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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