ディスカッションペーパー 20-03
副業の保有と転職、賃金の関係
―パネルデータを用いた実証分析―

2020年3月31日

概要

研究の目的

日本では、政策的に副業・兼業を普及促進させようとする動きが見られるが、副業を持つことの効果に関する実証研究はあまり蓄積されていない。本稿は、「日本家計パネル調査」を用いて、副業の保有とその後の転職、本業の賃金率との関係について考察した。

研究の方法

パネル調査データの二次分析

主な事実発見

本稿は、「日本家計パネル調査」を用いて、雇用者に限定して、誰が副業をしているのかを確認した後、副業の保有とその後の転職、本業の賃金率との関係について分析を行った。分析では、パネルデータの特徴を生かし、パネルプロビット変量効果モデルとパネル固定効果モデルを用いた。また、性別と正規・非正規の雇用形態によって、副業保有の意思決定と副業経験の効果が異なると考えられるため、性別と雇用形態に基づきサブサンプルに分けて推定を行った。さらに、副業禁止と副業可の企業に勤める労働者との間には、そもそも労働所得、労働時間などに関して違いが存在すると基本集計で確認できたため、頑健性のチェックも兼ねて、副業可のサンプルのみを利用した分析も行った。分析の結果、以下のことが確認された。

  1. 全体で見ると、男女ともに、正規雇用者と比べ、非正規雇用者のほうが副業を持つ傾向にある。しかし、副業が許可されている者に限定すると、雇用形態による副業保有確率の差が確認できなかった(図表1)。
  2. 男性では、雇用形態を問わず、本業における賃金率が低く、労働時間が短い場合、副業を持つ傾向にある。女性では、正規雇用者に関して、全体のサンプルを用いた分析では、本業における賃金率が低く、労働時間が短い場合、副業を持つ傾向にあることが確認されたが、副業が許可されている者に限定すると、本業の賃金率と週労働時間と副業保有確率との関係性が確認できなかった(図表1)。

図表1 推定結果:誰が副業をしているのか?(Random-effects probit regression

図表1画像

出所:JHPS/KHPS(2008-2018)より筆者推定。

注:すべての推定では、勤務時間制度、現職の継続意欲、勤続年数、勤続年数の自乗値、産業、企業規模、配偶者の有無、配偶者正規雇用、6歳未満子どもの有無、22歳以下で就学前と就学中の子どもの数、学歴、年齢階級、持ち家の有無、親との同居の有無、市郡規模、年次をコントロールしている。

 

  1. 副業経験と転職の関係については、男性の正規雇用者と女性の非正規雇用者に関して、前期の副業経験は転職確率を高めることが確認された(図表2)。また、男性の正規雇用者に関して、2期前に副業をせず、前期に副業をした「新規副業」者は、過去2期ともに副業をしなった者や2期前に副業をしたが、前期にしなかった者と比べ、その後の転職確率は有意に高くなることが確認された。転職を労働市場の流動性の代理指標として考える場合、副業経験は労働市場の流動性を高めていることになる。

図表2 推定結果:前期の副業経験と転職の関係(Random-effects probit regression

図表2画像

出所:JHPS/KHPS(2008-2018)より筆者推定。

注:すべての推定では、本業の対数賃金率[前期]、本業の週労働時間[前期]、現職の継続意欲[前期]、産業[前期]、企業規模[前期]、学歴、年齢階級、配偶者の有無[前期]、配偶者正規雇用[前期]、6歳未満子どもの有無[前期]、22歳以下で就学前と就学中の子どもの数「前期」、親との同居の有無[前期]、持ち家の有無「前期」、市郡規模[前期]、年次をコントロールしている。

 

  1. 前期副業経験と本業の賃金の関係について、男性の正規雇用者について、副業経験は転職経由で、本業の賃金を高める効果があることが観察されたが、他のグループについては、有意な結果が観察されなかった(図表3)。過去2期の副業経験のパターンと本業の賃金率との関係について、男性の正規雇用者を用いた分析では、2期前に副業をせず、前期に副業をした者が、今期の賃金率が有意に高まったことが確認できた。

図表3 推定結果:転職した場合の副業経験と賃金の関係

図表3画像

出所:JHPS/KHPS(2006-2018)より筆者推定。

注:すべての推定では、勤続年数、勤続年数の自乗値、職種、産業、企業規模、年齢階級、配偶者の有無、親との同居の有無、市郡規模、年次をコントロールしている。OLSモデルを用いた推定では、学歴もコントロールしている。

 

政策的インプリケーション

副業・兼業の普及促進は、労働市場の流動性や仕事と労働者のマッチングの質を高める効果を持つことが期待される。また、転職経由で男性の正規雇用者の本業の賃金を高める効果がある。ただ、現時点では、日本における多くの企業では、副業を禁止しており、副業が禁止されている労働者と副業が許可されている労働者の間にそもそも賃金水準と労働時間に関して違いが存在するため、本稿の分析で確認された副業の効果は、現段階の情勢を反映した結果であり、普及促進に伴う副業の効果は、さらなる検証が必要である。

政策への貢献

副業関連政策の検討に有益な情報を提供することができると考えられる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「雇用システムに関する研究」
サブテーマ「産業構造と人口構造の変化に対応した雇用システムのあり方に関する研究」

研究期間

令和元年度

研究担当者

何 芳
労働政策研究・研修機構 研究員

関連の研究成果

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内容について
研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム新しいウィンドウ

※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。

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