ディスカッションペーパー 10-06
最近のキャリアガイダンス論の論点整理と成人キャリアガイダンスのあり方に関する論考
概要
研究の目的と方法
本研究では、1990年代の後半から2000年代にかけてヨーロッパを中心に伸長の著しい最近のキャリアガイダンスに関する国際的な議論を参照し、我が国における成人キャリアガイダンスのあり方に関する政策的な論点を提出することを目的とした。
ヨーロッパを中心とした最近のキャリアガイダンスの議論は、公共政策の観点から、幅広くキャリアガイダンスを見直そうとする点が特徴である。そこで、OECD、ILO、World Bank等のキャリアガイダンス政策に関する公刊文書や関連する外国文献の文献研究を行い、最近のキャリアガイダンス論の概略をとりまとめた。その上で、それらの議論が日本における成人キャリアガイダンスに関する議論とどのように接点をもつのかを示し、日本の成人キャリアガイダンス政策について示唆を行った。
主な事実発見
- 本研究の背景として、キャリアガイダンス政策に対する国際的な関心の高まりを論じ、最近のキャリアガイダンス論が従来のキャリアガイダンス論とどのような面で異なるのか、その特徴を論じた。
図表 従来のキャリアガイダンス論と最近のキャリアガイダンス論の違い
- 若年キャリアガイダンスの経験の蓄積から生涯キャリアガイダンス・生涯学習論に至る流れの中で、最近のキャリアガイダンス論が成人キャリアガイダンス論においても新たな議論を展開していることを述べた。最近のキャリアガイダンス論の論点整理として、デリバリー論、セグメント論、コスト&ベネフィット論、ファンディング論、ツール論その他の議論を紹介し、日本の成人キャリアガイダンスとの接点を論じた。
- 上記の論点整理をふまえて、日本の成人キャリアガイダンスのあり方に向けて、(1)中小企業の従業員に対する成人キャリアガイダンス、(2)成人キャリアガイダンスにおける情報通信技術活用の新展開、(3)成人キャリアガイダンスと質的アセスメントの可能性の3点を論じた。
政策的含意
日本の成人キャリアガイダンスの方向性として、独自のキャリアガイダンス環境を構築するのが難しい中小企業に勤務する従業員を、成人キャリアガイダンスの重要な対象層として念頭に置くべきであることを示唆した。その際、中小企業の従業員のキャリアガイダンスに対するアクセスをいかに拡大するかが焦点となるが、企業を通じてキャリアガイダンスを提供する方向を模索する以外に、公的機関、教育機関、地域団体などの様々な機関・団体、インターネット等の情報通信技術などを用いて、キャリアガイダンスを提供するためのルートを可能な限り多様化・複数化させる必要性を指摘した。
また、情報通信技術を活用するにあたっては、インターネット上のキャリアガイダンスサービスと、現実の人を媒介した1対1の個別相談、セミナー・ガイダンスなどとも連動できるように一体化した仕組みを整えることが重要であることを指摘した。さらに、電話やメールなど、これまでに十分な関心が払われてこなかった媒体にも情報格差の解消といった観点から、改めて注目する必要があることを述べた。
最後に、成人キャリアガイダンスにおいては、質的アセスメントの考え方が合致する面が多々あり、今後、具体的な支援の方策を考えるにあたって様々な形で参照しうる理論モデルとなることを示した。
本文
研究期間
平成21年度
執筆担当者
- 下村英雄
- 労働政策研究・研修機構副主任研究員
入手方法等
入手方法
非売品です
お問合せ先
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- 研究調整部 研究調整課 お問合せフォーム
※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。