ディスカッションペーパー 10-04
雇用ポートフォリオ・システムの規定要因
─コールセンターを対象に─
平成22年6月30日
概要
研究の目的と方法
- 本研究の目的は、コールセンターという同一の職場を対象に、雇用形態の組み合わせである雇用ポートフォリオ・システムを規定する要因を明らかにすることにある。
- コールセンターは90年代以降雇用を拡大してきたが、離職率の高い職場としても有名であり、人事管理上の問題を抱えている可能性が高い。またコールセンターは非正規比率が非常に高く、多様な雇用形態の労働者が働いている職場でもあることから、本稿の分析対象として相応しいといえる。
- 分析は、事例調査(5社)とアンケート調査(142センター)に基づく統計分析を用いている。事例調査からコールセンターの情報を収集し、それを基に仮説を構築し、統計分析で検証を試みている。事例調査による結果の概要は、図表の通りである。
主な研究成果
- コールセンターの雇用ポートフォリオ・システムを規定する要因は、非正規比率の高さを規定する要因と主たる雇用形態を規定する要因の2点から考えている。コールセンターの非正規比率はコスト圧力によるが、その程度は、業態、従業員規模、業務のレベル、シフト制によって規定される。その結果、正社員中心型になるかどうかが決まる。
- 主たる雇用形態を規定する要因であるが、非正規労働者を中心に構成されるセンターで比較すると、その要因は従業員規模と就業時間である。従業員規模は派遣社員を対象とした雇用者数の増減による雇用調整を意味し、後者はパート社員を対象とした労働時間による雇用調整を示す。いずれにも該当しない場合は、契約社員中心型となる。つまりどのような形でバッファ機能を担うか(担わないか)で、正社員中心型を除く、主たる雇用形態が規定される。
政策的含意・提言
- 同一の職場であっても、雇用ポートフォリオ・システムのありようは企業によって異なる。そのため政策的対応をする際には、産業や業種のみならず、その類型に応じた対応が必要となることを示した。
- 類型別にみていくと、契約社員中心型とパート社員中心型では、正社員と同一の職務を担うケースがあるにもかかわらず、労働条件や雇用保障面で差があるなど、均衡処遇が問題になる可能性がある。そのため雇用形態別に職務内容や役割を明確に区別したり、正社員登用制度を整備・拡充したりすることが求められる。
- 派遣社員中心型は、雇用保障と情報管理の関係が重要になる。派遣社員はバッファ機能が期待されており、景気や業務量の変動が生じた時に、彼らは雇用調整の対象となる。他方でコールセンターは、顧客情報が集積する職場でもあり、頻繁な離職は情報漏洩リスクを高めることになる。そのため派遣社員の活用は、バッファ機能と情報管理とのバランスによって決まると考えられ、どちらを重視するかで発生する問題が異なるため、政策的対応もその問題に応じて考えるべきである。
本文
研究期間
平成21年度
執筆担当者
- 前浦 穂高
- 労働政策研究・研修機構研究員
入手方法等
入手方法
非売品です
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※本論文は、執筆者個人の責任で発表するものであり、労働政策研究・研修機構としての見解を示すものではありません。