台湾:外国人労働者の受入れを拡大
 ―人手不足に対応

台湾労働部は、労働力不足の問題に対応するため、外国人労働者(非熟練労働者、以下同、中国語:移工、外籍労工)の受入れ業種・人数等に関する規定を改正し(以下:「新規定」)、6月17日より適用した。製造業、建設業、農業では、外国人労働者の雇用率の上限を引き上げるなどした。「3K(=日本語の危険、キツい、汚いに由来)」とされる製造業に対しては、すでに台湾に居住する外国人労働者を雇用する場合、業種別に設定された10~35%の上限雇用率を各5%分引き上げることができるメカニズムを導入した。施設介護については、ベッド数などに基づく外国人労働者数の要件を事実上緩和した。新規定の施行により、合計2万8,000人以上の受入れ拡大を見込んでいる。

深刻な人手不足

台湾では、人手不足が深刻な状況になっている。行政院主計総処(統計局)「産業労働者雇用状況調査(事業人力雇用状況調査)」によれば、2022年8月末現在、人手不足は23万人に達した(「工業」約9万9,000人、「サービス業」約13万1,000人)。「工業」のうち「製造業」が最も深刻で、全体の33.4%を占める7万7,000人が不足。「建設業」でも1万9,000人が足りていない。政府はこうした業界の人手不足の解消を目指し、外国人労働者の受入れ枠を拡げることとした。新規定の施行により、合計で2万8,000人以上の受入れ拡大を見込んでいる。

「3K」における台湾内の外国人労働者の雇用促進

台湾では労働力不足に対応するため、台湾人の雇用に影響を及ぼさないという条件で、民間人材仲介会社を通した方式などで外国人労働者の受入れを制度化している。受入れにあたっては、対象業種(製造、建設、農業、介護等)や受入れ枠(外国人雇用率=受入れ企業の労働者数に占める外国人労働者数の割合)を規制している。また、外国人の求人を行う前に、台湾人向けの求人活動を実施する「労働市場テスト」も義務付けている。

台湾に居留している外国人労働者数は2023年4月現在で73万4,434人となっており、15年前の2008年から倍増している。業種別に見ると、製造業が47万5,896人と全体の64.8%を占め、介護が22万3,785人(全体の30.5%)で続いている。

新規定では、製造業のうち水産加工業、豆腐製造業、金属船体業の3業種に対して、製造の自動化が難しく、就労環境が厳しいことを考慮し、外国人労働者の雇用率の上限を旧規定の15%から20%に引き上げた。

また、「すでに台湾内に居住している外国人労働者の雇用促進措置」を新たに設けた。雇用主が「台湾内の“製造業3K外国人労働者”」を雇用する場合、業種別に設定された10~35%の上限雇用率(後述)に各5%分を追加できることとした。

「外国人雇用率」と「就業安定費」

製造業における「3K」業種の要件を満たす業界に対しては、「3K5級制」というA+、A、B、C、Dの5段階で、外国人労働者の上限雇用率を設定している(図表1)。

図表1:「3K5級制」の業種別外国人労働者雇用率
評価 外国人労働者雇用率 業種
A+ 35% 専門印刷整理業、専門金属基本工業鋳造業、専門金属鍛造業、専門金属表面処理及び熱処理業など。
A 25% 印刷整理業(上流・下流産業含む)、紡織製品製造業(シーツ、ベッドカバー、タオル、バスタオル、寝具の製造)、ゴム製品製造業、鉄鋼精錬業、鋼材・アルミニウム材・銅材の圧延・押出・伸線業など。
B 20% 紡績業、織布業、不織布業、紡織製品製造業、革製品・毛皮製品加工業、木材製品製造業、機械設備製造業、※水産加工業、※豆腐製造業、※金属船体業など。
C 15% 肉製品加工業、食用油脂製造業、その他の輸送用機器製造業、医療機器及び医療用品製造業など。
D 10% データ記録媒体複製業、電子部品製造業、コンピューター、電子製品及び光学製品製造業、照明器具製造業など

注:評価Bの※(水産加工業、豆腐製造業、金属船体業)は、旧規定の評価Cから引き上げ。

出所:労働部ウェブサイトより作成

さらに、外国人労働者を雇用した雇用主が政府に納める「就業安定費」(外国人雇用税)を追加で支払えば、「EXTRAプログラム」として受入れ枠(外国人雇用率)を拡大できる。「就業安定費」の通常の水準は、一般の伝統的製造業の場合、毎月雇用する外国人労働者1人あたり2,000台湾ドルである。「EXTRAプログラム」を利用し、毎月1人あたり3,000台湾ドルの「就業安定費」を追加して支払えば5%分まで、同5,000台湾ドルだと10%分まで、同7,000台湾ドルだと15%分まで、同9,000台湾ドルだと20%分までの枠を上述の雇用率に加えることができる。ただし、合計した外国人雇用率の上限は40%を超えてはならない。 なお、納付された「就業安定費」は、主に台湾人の雇用の安定(職業訓練の実施、就業情報の提供など)に活用される。

整理すると、旧規定は「図表1の雇用率」+「EXTRAプログラム」(合計で最大40%の上限雇用率)であったものを、新規定では、これに「すでに台湾に居住する外国人」を雇用した場合、5%分の雇用率を加えることができるようになった(上限雇用率は旧規定と同様に最大40%)。

雇用主は、台湾政府当局(経済部工業局)から受入れ業種としての資格要件を満たすことの認定と、同労働部就業サービスセンター(公共職業安定所)から求人証明書(所定の期間、「労働市場テスト」として、台湾人労働者向けの求人募集を行ったことの証明)を取得する。そのうえで、台湾内の外国人労働者の雇用に伴う受入れ枠の拡大を労働部就業サービスセンターに申請し、承認を得たうえで、外国人労働者の採用活動を行う。

公共事業や大型プロジェクト以外の建設でも受入れ可能に

建設業では8,000人以上の受入れ拡大を想定する。これまでは公共事業や民間大型投資プロジェクトなどでの雇用に限定していたが、「総合建設業(甲・乙・丙級)」「専門建設業」「土木請負業」について、過去3年間の受注実績や台湾人の雇用者数などの条件を満たす民間企業での受入れを認めた。

総合建設業(甲・乙・丙級)と専門建設業では10人以上、土木請負業では5人以上の台湾人労働者を雇っている必要がある。外国人雇用率の上限はいずれも30%とし、「EXTRAプログラム」で最大40%まで増枠できる。

小規模農業の雇用率を最大50%に

農業では外国人労働者の受入れ人数の上限を6,000人に規制していたが、1万2,000人へと引き上げた。外国人雇用率は35%(「EXTRAプログラム」により40%まで増枠可能)としていたが、10人以下の小規模農家・農業団体に対しては50%(台湾人1人に対して外国人1人)まで引き上げた。

また、農作物の多様化に対応するため、野菜、果樹、苗木、花卉、雑穀、コーヒー、茶などの特殊農作物及び温室栽培作物関連の業種を受入れ対象に加えた。林業(伐採・造林)も外国人労働者に開放した。

施設介護でも拡大

旧規定では、社会福祉施設については収容者3人につき外国人労働者1人、宿泊型介護施設や病院等では5病床につき同1人とし、いずれも台湾人労働者数を超えてはならないと規制していた。

新規定では施設の種類の違いにかかわらず、認可されたベッド数に基づいて外国人労働者の雇用者数を定めることとした。社会福祉施設の要件は、「認可ベッド数3床につき外国人労働者1人」に改めた(宿泊型介護施設等の要件は変更なし)。

台湾人と外国人の労働者の比率は1:1を維持したが、台湾人労働者の算出方法を変更した。これまでの介護職員(看護工)だけでなく、看護師(護理人員)も加えることとし、外国人の雇用枠を事実上拡げた。ただし、ベッド数100床以上の施設では、看護師1人を0.5人として計算する。

(調査部海外情報担当)

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