プラットフォーム労働者:労働市場と労使関係
―第20回北東アジア労働フォーラムから
労働政策研究・研修機構(JILPT)は2022年11月24日、韓国労働研究院(KLI)、中国労働社会保障科学研究院(CALSS)と共催で第20回北東アジア労働フォーラムをオンラインで開催した。2022年のテーマは「プラットフォーム労働者:労働市場と労使関係」。新たな就業形態として世界的に拡大傾向にあるプラットフォーム労働をめぐる状況や課題について各研究機関から2人ずつ報告を行い、討論を実施した。本稿は、各報告の概要を海外情報担当がまとめたものである。
韓国
【プラットフォーム資本主義時代の労働】
チャン・ジヨン 韓国労働研究院 シニアリサーチフェロー
2021年、韓国における狭義のプラットフォーム労働者数は、就業者の2.5%に該当する65万8000人であった。この人数は、①デジタル・プラットフォームで取引されるのがサービスや仮想通貨(資産賃貸等を除く)であること、②プラットフォームが雇用ではなく短期の仕事やタスクを仲介すること、③プラットフォームが報酬を仲介しており、取引の有無と取引金額がプラットフォームに記録されていること、④プラットフォーム上の仕事が不特定多数に開かれていること、を定義としている。
韓国の場合、既存の労働市場に非正規労働者や、特殊雇用形態労働者といわれる従属的な自営業者(契約の形式に関係なく労働者と類似の労務を提供しているにもかかわらず勤労基準法等が適用されない者)が多いことから、企業があえてプラットフォーム労働者を利用することに魅力を感じない可能性がある。しかし既存の労働市場の状態によって拡大のスピードや様相は異なるものの、取引費用を減らすことができることから、プラットフォーム労働者が今後急速に増加するおそれもある。
韓国ではプラットフォームには典型的なものと非典型的なものが存在する。典型的なものは「開放型プラットフォーム」ともいえるもので、運営者がそのままプラットフォーム利用事業者でもある類型を指す。一方、非典型的なプラットフォームとは直接的な業務指示が何らかの形で残っているプラットフォームを指す。非典型的なプラットフォームは大きく分けて3つあり、①直接雇用とプラットフォーム労働者をともに活用する等、開放型プラットフォームとともに閉鎖型プラットフォームを補完的に運用するタイプ、②既存の事業領域にプラットフォームが導入され、中間管理業者の性格を持つ会社が残存しているタイプ、③プラットフォームの中に管理者が存在するタイプ、である。これらの非典型的なプラットフォームは、伝統的な雇用形態からプラットフォーム労働への移行段階で生じている。ただし、プラットフォームは企業を越える範囲で緩い組織を形成して相当なレベルで組織を統制し管理できる技術であることから、雇用や外注・下請けとは根本的に異なる生産関係を可能とする。技術の発達速度によるものの今後拡大していくことは間違いないと考えられる。
【韓国のマイクロタスク・ギグワーカー】
イ・サンジュン 韓国労働研究院 アソシエイト・リサーチフェロー
マイクロタスク・プラットフォームとは、細分化したタスクを扱い、需要と供給を仲介する役割のプラットフォームである。中でも近年注目されているのがデータラベリングである。テキスト、写真、動画、音声等の各種データを分類・識別するために「ラベルを貼る」作業で、ラベリングされたデータはAIが学習するのに活用される。写真のタグ付、文章のハイライト表示や要約、アンケートの回答等、作業の内容は様々である。
韓国で最大手のデータラベリングプラットフォームはCrowdworksである。2020年時点で10万人が登録しており、データラベリング作業従事者の8割がCrowdworksで仕事をしているという試算もある。Crowdworksでは会員登録後すぐに自分が参加可能な作業を確認でき、参加申請後プロジェクトに参加できる。他のプラットフォームとは異なり、熟練した労働者がタスクの検収を行っており、検収で認められれば作業従事者は報酬を受け取る。
データラベリング作業者950人を対象に2020年に実施したアンケート調査の結果によると、20代、30代が多く従事しており、この結果はILOが2015、2017年に実施した調査結果と類似していた。ランクが高い熟練の作業者であればあるほどオフラインでの他の職場勤務はしていない傾向にあるものの、これらの高ランクの作業者ほど、「難しいが慣れれば収益が高い作業」よりも「簡単だが収益が低い作業」を好んでおり、単純な作業を繰り返し行うことで収入を増やす傾向にあった。また、自身の雇用形態については「何の制約も受けないフリーランス」と回答した人が最も多く72%を占めていた。さらに、作業者を代表するのに適切な組織はとの問いに対して、オンライン労働組合との回答が29.5%、オンラインコミュニティとの回答が60.0%となっており、役割としては情報共有と提供、単価交渉、苦情処理等を期待するとの回答が多かった。
マイクロタスク・プラットフォームをめぐる課題としては、作業者とプラットフォームの間の関係や作業者の健康と安全等がある。上記の調査では、ランクが高い労働者ほどプロジェクトマネージャーから業務指示を受ける傾向にあった。また、マイクロタスク作業者はPCを多く使うため、労災として手根管症候群になる場合がある。
日本
フリーランスの労働法政策
志村 幸久 労働政策研究・研修機構 理事
JILPTが2018年に実施した雇用類似就業者(発注者から仕事の委託を受け、主として個人で役務を提供し、その対償として報酬を得る者)を対象とした調査では、雇用類似就業者は約228万人と推計されており、世界の傾向と同様に日本でもデジタル・プラットフォームを通じた就業が増えている。ただし、日本では伝統的に建設業にみられる一人親方や、運転手などが雇用以外の形態でフリーランスとして働いているといった実態も多くあることから、こうした職種で働く人々に対しては、これまでも労災保険の特別加入といった形で雇用者に準じた保護策を取ってきている。最近の動きとして、日本ではすべてのフリーランスをカバーして保護する努力を行っている最中であり、厚生労働省、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁らが共同歩調をとって進めている。
具体的にはフリーランスという就業形態を念頭において新たな法律を制定しようという動きが出てきており、2021年にはフリーランスの労働環境整備のため、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が策定されている。また、フリーランスの保護以前の段階として、労働者性を認定する際に重要となるのが労働契約であり、事業者とフリーランスとの関係整理が行われようとしている。特に独占禁止法の適用等事業者側の優越的地位の濫用等を規制する側面と、下請代金支払遅延等防止法の趣旨等の側面を再認識させるような内容を新たな法律に含む方向性である。新たなフリーランスの保護法制の立法においては、フリーランスへの条件明示、書面の交付、報酬支払義務などの内容が遵守事項のような形で盛り込まれると予測される。
プラットフォーム労働者への評価に関する報告
滝原 啓允 労働政策研究・研修機構 研究員
一般的に、プラットフォーム労働者に対しては公開・非公開の評価が行われ、評価が仕事に影響を及ぼす。プラットフォームはアルゴリズムによって労働者を管理しており、Uber EatsやUber等の配車やデリバリーサービスを提供するプラットフォームの場合には評価が低ければアカウント停止等の不利益を被ったり、クラウドソーシング等では評価に応じて発注数が左右されたりといった形で影響を与える。
公開される評価は、主に利用者による星の数やコメントがインターネット上に公開されるという形式である。一方で非公開の場合は、①プラットフォームから労働者への評価、②プラットフォームが発注者から集めた評価、③発注者等からの評価のうち、評価の方法や過程が非公開のもの(労働者には結果のみ通知される)、が挙げられる。
これらの評価は労働者の人格権や労働権等の権利を侵害することがある。プラットフォームは適正な評価を行う必要があり、そのためには労働者が関与した評価システムの構築が必要となると予測される。非公開の評価は、労働者自身の情報が本人の同意なしに仕事に影響を及ぼしていることからプライバシーの侵害となるため、これらの評価の処理をアルゴリズムが行っている場合には透明性が確保されなければならない。
また、プラットフォーム労働者が他のプラットフォームで働く場合、評価のポータビリティが問題となる。プラットフォームごとに運営方法が異なる等ポータビリティへの課題がある一方で、忘れられる権利の視点も不可欠である。さらに、プラットフォーム労働者への職業訓練が現在は十分に行われておらず、プラットフォームや行政が中心となって職業能力開発訓練事業を展開するべきである。プラットフォームの評価システム、評価基準、アルゴリズムの監視といった役割が必要となるが、これらの役割をプラットフォーム労働者の組合等に付与することも必要となる。
中国
プラットフォームにおける柔軟な就業の発展を支援し、規範化する
曹 佳 中国労働社会保障科学研究院 就業創業研究室副研究員
柔軟な就業の形態は多岐にわたり、伝統的な自営業者、家事労働者、パートタイム、契約労働者、派遣労働者、プラットフォーム労働者等に分けられる。従事者の年齢や属性も様々で、農村貧困家庭の低年齢者、仕事が見つからない中高齢者、農民工(農村戸籍であり、地元で非農業に従事あるいは戸籍地を離れて6カ月以上就職する労働者)、専門的技術者等である。
これまでの中国政府の政策は大きく三段階に分けられる。初期段階では労働者の自主的な柔軟な就業形態での就業を促進すべきとし、次の段階では規制・管理監督の強化として、従業者の社会保険加入や多様な労働契約の締結を支持する姿勢を示していた。現在は、自主的創業や保障を支持する方向性にあり、地方レベルでも多様なかたちで実践が行われている。具体的には上海市における実名制管理や、安徽省における政府がプラットフォームを構築するという「公共サービス方式」、広東省における戸籍による制限のないかたちでの基本年金保険加入の措置等を行っている。
プラットフォーム労働の課題としては、プラットフォーム企業の社会的責任の区分が不明瞭であり、アルゴリズムやシステムにとらわれているという問題点がある。また、企業のデータ管理や価格といった面でのコンプライアンスを向上させる必要がある。労働者自身の課題としては、職業変更能力が足りていない、保険加入意識が低い等の点が挙げられる。
今後の対策としては、ギグ労働市場の秩序ある発展のために改めてプラットフォーム労働の位置づけを行う、公共職業サービスにおける補助金申請等のプロセスを簡略化する、労働市場に基づく正確なサービスを提供する、新たな労使関係の構築及び社会保障制度の整備、企業が必要に応じて社会的な責任を持ち、労働者の質や受容性を引き上げるといった観点が必要である。
中国のフードデリバリー配達プラットフォーム上の第三種労働者;比率の見積と勤務条件
李 文静 中国労働社会保障科学研究院 労働と社会保障法治研究室 副主任
現在、デジタル労働プラットフォームの出現により、従来の伝統的な労働者/自営業者の二分法に疑問が生じている。また、中国の労働法の労使関係の認定はかなり厳格であり、プラットフォーム労働における労使関係の認定には大きな課題が突きつけられることとなった。
2021年12月~2022年1月まで、フードデリバリー従事者を対象として中国5都市でアンケート調査を実施した。回答者が第三種労働者(雇用者、自営業者のどちらにも属さない)に該当するかを、経済的依存性と人格的従属性(時間/任務のコントロールが自分でできるかどうか)の2つの指標で分類した。その結果、回答者のうち、自営業者のタイプ(経済的依存性も人格的従属性も低い類型)は7.2%、労働者にあたるタイプ(経済的依存性が高く人格的従属性も高い類型)は8.1%に過ぎず、その中間形態である第三種労働者(経済的依存性または人格的従属性が高い類型)が圧倒的に多く、84.7%に及んだ。そのうち特に大きな割合を占めていたタイプは、経済的依存性が高く、人格的従属性も比較的高い人々で、45.1%を占めていた。
また、回答者の社会保障参加率は全体的に低く、特に経済的依存性と人格的従属性の両方が強い従事者が特に低かった。新しい就業形態の労働者に対する保護は主に、経済的依存性の特徴に基づくものであるべきであり、トップダウンの形で柔軟な就業者の社会保障制度を整備することが早急に必要である。
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