世界最下位を記録した韓国の出生率、その現状と政府の対応

【海外有識者からの報告】
海外の有識者から提供された現地の状況についての報告です(なお、本報告は執筆日における当地の情報であり、必ずしも最新の情報を反映されたものではない)。

イー・サンヨン(JILPT滞在研究員)

はじめに

今年5月、世界有数の富豪であり、Twitterの投稿が度々大きな話題になる、テスラCEOのイーロン・マスク氏のツイートが韓国に大きな反響を呼び起こした(注1)。「出生率が変わらなければ、3世代のうちに韓国の人口は現在の6%になり、大部分が60代以上の高齢者になるだろう」という内容だ。

過去数十年の間、世界の合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産むとした時の子の人数)は、先進国を中心に低下し続けており、少子化がもたらす成長率の鈍化や高齢化は、各国政府の主要課題と認識されてきた。中でも日本は、世界で最も急速に少子高齢化が進行し、最近まで高齢化問題の代表国とされていた。東アジアの中で最も高度な経済成長を遂げた日本は、1970年代から合計特殊出生率が人口維持の目安とされる2.13の人口置換水準を下回るようになり、少子化による人口減少をアジアで初めて経験した。しかし、その深刻さを認識した政府による継続的かつ多様な取り組みにより、日本の合計特殊出生率は2005年の1.26を底に再び増加に転じ、人口置換水準(2.13)よりは低いものの、1.3~1.5を維持している。日本の出生率は現在も減少し続けており、人口問題の解決にはほど遠いが、近年の韓国と比べると状況はまるで天国のようである(注2)

世界銀行によると、韓国の合計特殊出生率は世界200カ国のうち最下位の200位である。韓国統計庁によると、2021年には0.81を記録した(図1)。人口維持どころか、日本の1.33(2020年)の6割の水準であり、OECD加盟国の中で唯一、1を下回っている。

そして現在、統計では、さらに出生数が減少しており(図2)、2022年には世界で初めて0.7台を記録すると予想されている。

このような韓国の急激な少子高齢化は以前から予見されていた。晩婚化、育児のしにくい環境など、日本や他の東アジア諸国でもよく見られる共通の問題が主な要因と作用する一方、韓国だけが持つ特殊な事情もあると考えられる。

本稿では、世界で最も低い出生率を記録した韓国特有の事情、このような少子化が韓国社会にもたらす衝撃、そして最後に急激な少子高齢化に対応するために、これまで政府が取組んできた政策と今後の展望について述べたい。

図1:韓国の合計特殊出生率(2000~2021年)
画像:図1

出所:世界銀行(2020)、統計庁人口動向調査(2021)

図2:出生数の推移(2012~2021年) (単位:人)
画像:図2

出所:統計庁人口動向調査(2022)

1.韓国の少子化の背景

韓国や日本等、東アジア諸国の最大の特徴であり、少子化の主な原因として指摘されているのは「結婚してから子どもを産む」という風潮だ。結婚せずに子どもを産む家庭の割合は2018年時点で韓国は2.2%、日本は2.3%と、それぞれOECD加盟国の最下位、下から2番目という極めて低い水準だった(図3)。

図3:婚外出生の割合(1970、1995、2018年の比較) (単位:%)
画像:図3

出所:OECD Family database

韓国の場合、このような認識は政策にもつながっており、非婚家庭に対する出産支援政策などは他国に比べて劣悪な状況である(注3)。既婚者(配偶者がいる女性)に限定した合計特殊出生率を見ると、2016年に2.23と(注4)、それほど低くないが、未婚者が増え、彼らが出産をしないことにより、人口全体の出生率が低下したと言う指摘もある。このような晩婚化と出産年齢が遅れている背景には、日本と韓国に共通する要因もあるが、韓国特有の事情もある。以下に簡単に紹介する。

第一の事情は、韓国の就職難とそれによる就職年齢の上昇だ。日本の場合「1人の求職者あたり何件の求人があるか」を示す有効求人倍率は、2020年にはCOVID-19の影響で大幅に下落したが、継続的に1以上の水準を維持している。一方、韓国の場合、2018年に0.58、2019年に0.49、2020年に0.39、2021年に0.50と、求職者数に比べて求人数が半分にも満たない状況が続いている(注5)。若年失業率(15~29歳)は、2019年に8.9%、2020年に9.0%、2021年に7.8%で、ほぼ10%に近い高水準が続いている(注6)。韓国の人材紹介会社「インクルート」の調査によると、大手企業の大卒新入社員の平均年齢は、1998年には25.1歳だったが、2020年には31.0歳と、過去22年で6歳近く上がったことが判明した(注7)。韓国では男性に徴兵制度があるため、男性の社会進出は他国に比べて遅れるが、これに加えて就職難が重なったことで、さらに結婚年齢が遅れる状況となった。

第二の事情は、就職年齢の上昇とともに急激に上昇した結婚費用の増加である。これが結婚年齢を遅らせる主な原因として指摘されている。韓国最大手の婚活会社「デュオ」の調査によると、結婚に必要な初期費用が非常に高く、特に男性にその負担が大きかった。2022年にデュオを通じて結婚した顧客の結婚費用を見ると、住宅を用意するのに2億4千万ウォン(約2,200万円)、嫁入り道具を購入するのに1,470万ウォン(約130万円)、結婚式および新婚旅行などに約3千万ウォン(約250万円)を支出しており、費用の平均60%を男性が負担していた(注8)。特に、住宅を用意する費用が2021年の1億9,271万ウォン(約1,800万円)と比べて24.6%上昇していたが、これは2020年以後、全国的に発生した住宅価格の急騰によるものである。韓国の場合、結婚する時に住宅を購入することが一般的で、住宅を購入しなくても、他国のように家賃で家を借りる場合が少ない。家賃の代わりに、住宅価格の約60%程度の金額を家主に保証金として先払いし、これを担保に該当住宅に居住する「チョンセ」というシステムを使用する場合が多いため、住宅の初期費用が非常に高い。このように、結婚に必要な初期費用が急激に増える中で、十分な結婚費を貯蓄し終える時期がさらに遅くなり、これが結婚年齢を遅らせるのに大きな影響を及ぼしたと解釈される。同時に、政府が不動産価格の急騰を抑制するために継続的に実施した不動産関連の貸出制限強化政策(ex:住宅ローンの上限額の引き下げ等)も、新婚夫婦の住宅準備を難しくした要因となった可能性がある。

さらに、韓国の人口政策を総括する少子高齢委員会が2020年に発表した「少子高齢社会基本計画」では、上述の要因以外にも、就職と結婚に成功したとしても、仕事と育児の両立が不可能な文化による出産放棄、女性がやるべきものとされる家事労働の強い性別役割分担意識、教育の競争激化による育児費用の増加などが少子化の加速要因として指摘された。このように多様かつ複合的な要因によって、韓国の出生率は世界で最も低くなったと考えられる。

2.少子化が韓国社会にもたらす衝撃

深刻かつ急激な少子化は韓国社会にどのような衝撃をもたらすのであろうか。

まず、少子化を経験したすべての国々が直面せざるを得ない低成長は、すでに避けられないと予想されている。韓国の人口は、2020年を基点に減少し始め、2100年の時点で、現在の5,164万人から2,678万人まで減少する(注9)。このような人口構造の変化は人的資本投資を中心に成長した韓国における労働需給を低下させるだけでなく、投資や貯蓄の減少、経済成長全体の低下をもたらす。韓国銀行は、出生率が1人台に留まる場合、2026年以降10年間の年平均経済成長率は0.4%だと予測するが、出生率が継続的に低下する現在、経済成長率がより一層低くなる可能性も排除できないと考えている(注10)

そして教育問題の深刻化も予想される。韓国の場合、公立学校の比重が高く、雇用硬直性が高い。そのため、学齢人口の減少により教育インフラの供給過剰が現れると予測される。すでに、大学入学者数が入学定員を下回り、教員採用試験に合格したにもかかわらず、新規教員に対する需要がなく配置が遅れる事態が首都圏の小学校を中心に発生している(韓国の場合、小学校の先生になるためには専門大学である教育大学を卒業した後、地域別の小学校教員採用試験を通過しなければならないが、学齢人口の減少にもかかわらず大学の入学定員や教員採用試験の定員を減らさずにいることで問題が生じている)。

また、韓国の教育市場で主導的な役割を果たしてきたネット講義業界では、修学能力試験(日本のセンター試験と似ているが、韓国の場合、大学を志願する学生は、国立、私立に関係なく全員受験しなければならない)の数学科目における人気1位のスター講師「ヒョン・ウジン」氏(年俸は200億ウォン(約22億円)に達する)が6月10日、今後7~8年以内にこれまでの大学入試体系が大きく変わると指摘し、引退を暗示するツイートを残すなど急激な変動が予想されている。

さらに、韓国特有の少子化問題として、大きく注目されているのが国防関連だ。韓国は徴兵制を導入しているが、少子化の影響により入隊対象者数が逓減し続けており(図4)、兵力を効率化することで対応しなければならない。監査院によると、2020年に33.3万人であった兵役義務者(入隊判定を受けて入隊しなければならない男性の数)は、2025年22.6万人に減少し、2039年には15.1万人まで減少すると予想されている(注11)。このような状況で兵力を効率化しても国防上の空白が生じるのは避けられない事態が起きており、軍部隊の統廃合および移転などによる駐留地域周辺の経済低迷も同時に加速するとみられる。このような入隊者数の減少は、募兵制への転換や、女性徴兵の必要性の提起などいった社会的議論を加速させており、今後、大きな社会的葛藤要素として様々な影響を及ぼすと考えられる。

図4:年間の入隊状況 (単位:人)
画像:図4

出所:兵務庁

最後に、外国人労働者に関する議論を紹介する。韓国の場合、2019年時点で国内に居住する外国人の割合は2.4%(日本の2.24%に比べて少し高い程度)に過ぎず(図5)、移民に対して友好的でない国家の一つだ(注12)

滞在している外国人労働者に対して永住権を付与する基準が厳しく、日本と同様に数年間中小企業の工場などで働く機会を付与するものの、該当期間が終わればほとんどの労働者が自国に戻るように誘導する政策を取っており、ビザを延長したり永住権を取得したりするより帰化することの方が簡単だと言うほど、外国人の滞在に対して友好的でないのが韓国の外国人政策だ。

しかし、人口減少に対応するために外国人労働者に門戸を開放し、積極的な移民政策を展開しなければならないという主張は国内でますます増えている。しかし、それと同時に、外国労働者が韓国に入国しやすくなる場合、内国人の雇用、特に低熟練・低賃金の雇用を外国人が奪うという憂慮が常に存在しており、これもやはり社会的に大きな葛藤を誘発しうる問題と認識されている。

図5:外国人の比率(2019年)
画像:図5

出所:OECD

以上のように、韓国の場合、世界で類を見ない出生率の急激な低下とともに高齢化問題が深刻化するにつれて、国内経済の停滞危機に加えて、国防、外国人労働者の受入れといった多角的な方面についても議論し、解決しなければならなくなっている。これらの問題を打開するため、今後どのような方針で政策を推進していくかについて、これまでの政策と2020年に政府が発表した「少子高齢社会基本計画」に基づく今後の政策方針について説明したい。

3.少子化問題に対する政策

韓国の場合、少子化に対する問題認識が他国に比べて遅く始まった。韓国の出生率は1950年代の朝鮮戦争以後、急激に高まり、歴代政府は積極的な産児制限政策を基調としてきた。1970年代には保健所で中絶手術を支援するなど、現在では想像もできない人口抑制政策が展開された。その影響によって韓国の出生率は人口置換水準(2.13)を下回り、1983年に2.06まで低下し、翌1984年には1.74まで下落した。このように出生率が人口置換水準を下回った後も韓国の産児制限政策は続き、1996年になってようやく産児制限政策を廃止し、産児自律政策に切り替えた。しかし、その後も少子化問題を解決するための努力は行われなかった。少子化問題が社会に大きな影響を及ぼすと認識されたのは1998年で、2003年になってようやくこの問題を解決するために政府は「少子高齢社会委員会」を発足し、「少子高齢社会基本計画」を5年ごとに発表するようになった。しかし、こうした委員会が発足したにもかかわらず、韓国の少子化対策は十分な成果を上げることに失敗した。韓国も他国と同様に、少子化対策として、はじめの数年間は出産した人にサービスを提供することに集中し、出産奨励策、育児支援策などを展開した。しかし、先に説明したように出生率はさらに下落し始めた。特に、育児休業支援などの多様な政策支援の拡大にもかかわらず、男性の育児休業の取得が実質難しい文化、不十分な社会のセーフティネットなどが問題となり、いくら出産時に提供されるサービスが増えても育児しにくい文化自体が改善されない以上は、出生率を上げにくいという共感が形成され始めた。

このため、委員会を含む政府でも、人口政策を展開するにあたって、単純に出産時のサービスの拡充に力を入れるよりは、出産と育児の両立が望ましいという認識を強化する社会的構造の改善を目的として、出生率向上策を進めるとともに、出生率が回復しない場合にも焦点を当てた政策を計画し始めた。その一環として、政府は2018年に出産奨励中心の政策から全世帯の生活の質を高める政策へのパラダイム転換を宣言し、2020年に発表された「第4次少子高齢社会基本計画(注13)」では、①児童・20~40代・引退世代の生活の質の向上、②平等な職場・家庭の男女平等実現、③人口変化への備え、を主な政策方針として決定し、出生率向上だけでなく生活の質の向上、男女平等の実現、人口変化に備えるための政策領域を拡張した。

この基本計画は約200ページにわたって多様な課題が提示されており、全て紹介することは難しいため、その中でも特に注目に値する個別政策を紹介しようと思う。1つは、以前から出生率向上のための政策として実施されてきた乳児手当の支給である。政府は2022年度に生まれた子どもたちからは、妊娠時100万ウォン(約11万円)、出産時200万ウォン(約22万円)を支給することを決めた。さらに、生まれた最初の月から24ヶ月間毎月現金を支給する乳児手当ての創設を決めた(2022年には月30万ウォン、2025年まで漸進的に拡大し月50万ウォンまで増額)。

そして現在は、文化的に女性および大企業労働者以外は取得しづらい育児休業を、男性と中小企業労働者も使えるようにするために両親がそれぞれ育児休業を3ヶ月以上使う場合、最大月300万ウォン(約33万円)を支給するようにした。

併せて、多子世帯の基準を、子どもが3人以上の場合から、子どもが2人以上の場合に変更し、公共賃貸住宅移住などの支援対象を広げることにした。そして、3人以上の子ども世帯の場合には既存の制度をより一層拡大し、3人目の子どもからは大学費用全額を支援することにした。そして、高齢社会の加速により発生しうる生産年齢人口の減少の影響を最小限に食い止めるため、高齢者雇用に対する奨励金支援も継続拡大することを決めた。

4.まとめ

統計庁が2020年に発表した将来人口推計によると、中位推計の場合、合計特殊出生率は2020年の0.84人から2024年0.70人まで下落する見通しだが、2010年以降の出生率が将来人口推計より低い水準を記録したことを勘案すれば、0.70より低い出生率を記録する可能性もある。

2020年に発表された「少子高齢社会基本計画」では、様々な事業を創設したため、2025年時点で年間約83.4兆ウォン(約8.7兆円)がかかると予想されるが、この予算が果たして少子化問題を解決するのに適しており、これにより少子化問題を解決することが可能なのかを含めて、今後の人口問題解決のために必要な予算を割り当て、使用できるよう、政策担当者の継続的な努力が必要だと思われる。

同時に、政府の予算支援だけでは昨今の韓国社会が直面した問題を解決できないという明らかな事実も周知し、政府だけでなく民間分野でも、今までの働き方を変える努力を展開しなければならない。

日本の場合、最近話題に上るSDGsなどを皮切りに、持続可能な成長のための努力を民間企業が自発的に始めた。しかし、韓国はまだ数値で現れる経済成長率、営業利益、売上などを向上させることが最重要課題として認識されている。このような過程で発生する多様な葛藤と社会的問題が究極的には韓国の成長動力を低下させ、市場自体を縮小させ、企業にもブーメランになって戻ってくるという点を常に周知し、持続可能な成長のための努力を展開していかなければならないと考える。

プロフィール

写真:イー・サンヨン氏

イー・サンヨン(李尙容、Sangyong Lee)

JILPT滞在研究員
韓国企画財政部 経済構造改革局 福祉経済課 課長補佐
韓国企画財政部で2012年から主に国際金融、社会経済政策の業務を担当。 2020年、日本政府によるアジア諸国の行政官・経済人等招聘プログラム(文部科学省ヤング・リーダーズ・プログラム)を通じて政策研究大学院大学(GRIPS)に留学し、現在は労働政策研究・研修機構(JILPT)において、「労働時間規制の日韓比較」に関する研究を実施中。

参考レート

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