労働時間規制の上限を原則週52時間へ

韓国でも、長時間労働の是正が労働政策上の課題となってきている。韓国では、OECD諸国との比較が一つの重要な参考指標とされることが多いが、雇用労働部の発表資料によると、OECD平均が年間1,763時間であるのに対して韓国は2,069時間であると喧伝されている。このため、長時間労働慣行の改善に向けた勤労基準法の改正について議論が進められてきた。

韓国の国会では2月28日、勤労基準法一部改正法案が賛成多数で可決、成立し、3月20日に公布された改正法により、週52時間の上限が明確化された。

1週の労働時間を最長52時間に制限

1週の労働時間規制の上限は、例外とされる場合を除き、法定労働時間(40時間)プラス超過労働時間の上限(12時間)の計52時間であるとされた。

これに関する法律上の改正措置は、勤労基準法第2条第1項の定義のなかに、第7号として「「1週」とは、休日を含んだ7日をいう。」との定義規定を挿入することでなされた。

法規定上は、従前から、第50条で法定時間は週40時間、1日8時間とされ、また、第53条第1項で「当事者間で合意したときは、1週間に12時間を限度として、第50条の勤労時間を延長することができる。」と規定されていた。日本的な感覚からすれば、従前から、週の労働時間は原則52時間が上限とされていたと考えてしまう規定となっていた。ところが、韓国では、「1週」には労働日とされている日のみが含まれ、休日は別勘定であるとの解釈が広範に行われてきたようである。したがって、従前の規定の下では、労働日だけの週の上限規制52時間に、例えば休日が土・日の2日であればそれぞれ8時間の計16時間の延長勤務をすることができ、1週間に都合68時間まで労働させることができるとされてきた。それが、今回の改正で1週は休日も含めた7日であると明確に定義されたことから、週の労働時間の上限は52時間であることが明示されることとなったところである。

施行は企業規模に応じて段階的に

この規定の施行時期は、企業規模等に応じて次のとおり段階的に設定されている(付則)。

  • 国・地方の機関、一定の公的な機関・団体:2018年7月1日
  • 300人以上の企業・事業所:2018年7月1日(従前の特例業種で今回対象外となった業種の企業・事業所は、2019年7月1日)
  • 50人以上300人未満の企業・事業所:2020年1月1日
  • 5人以上50人未満の企業・事業所:2021年7月1日

※4人以下の企業・事業所は、原則として勤労基準法の適用範囲外である。

(小規模・零細企業への経過措置的特例)

30人未満企業について、2021年7月1日以降2022年12月31日までの間は、労使合意を通じて8時間の特別延長勤労ができることとされた(第53条第3項)。

※改正後の勤労基準法第53条第3項

③ 常時30人未満の勤労者を使用する使用者は、次の各号に関し勤労者代表と書面で合意した場合、前2項により延長した勤労時間に加えて1週間に8時間を超過しない範囲で勤労時間を延長することができる(新設)。

  1. 前2項により延長した勤労時間を超過する必要がある理由及びその期間
  2. 対象勤労者の範囲

特例業種の範囲を大幅に縮小

上限規制の12時間を超えて超過労働をさせることができる特例業種の範囲を縮小(26業種→5業種)するとともに、特例存続5業種における11時間の休息時間保障を導入した。

勤労者代表と書面により合意をしたときに労働時間の上限規制を超えて労働させることができる特例業種を定めた第59条が改正され、産業分類の中分類又は小分類ベースで5業種のみが労働時間の上限規制の例外業種として存続された(施行日:2018年7月1日)。

現在は26の勤労時間特例業種に従事する労働者が453万人に達しているが、改正法により5業種、102万人に縮小される(2018年3月1日付韓国雇用労働部発表資料)。

<特例が存続される5業種>

①陸上運送業(「旅客自動車運輸事業法」の路線旅客自動車運送事業を除く)、
②水上運送業、③航空運送業、④その他運送関連サービス業、⑤保健業

<特例から除外される21業種>

①保管及び倉庫業、②自動車及び部品販売業、③卸売及び商品仲介業、④小売業、⑤金融業、⑥保険及び年金業、⑦金融及び保険関連サービス業、⑧郵便業、⑨電気通信業、⑩教育サービス業、⑪研究開発業、⑫市場調査及び世論調査業、⑬広告業、⑭宿泊業、⑮レストラン及び酒屋業、⑯映像・オーディオ記録物製作及び配給業、⑰放送業、⑱建物・産業設備清掃及び防除サービス業、⑲下水・廃水及び糞尿処理業、⑳社会福祉サービス業、㉑美容・浴場及び類似サービス業

また、存続される5業種に対しても勤務日間11時間の連続休憩時間を保障する補完措置を通じて長時間労働から労働者の休息権と健康権の確保を可能にしたとされている(第59条第2項新設。施行日:2018年9月1日)。

※改正後の勤労基準法第59条
第59条(勤労時間及び休憩時間の特例)

① 「統計法」第22条第1項により統計庁長が告示する産業に関する標準の中分類又は小分類中次の各号いずれか一つに該当する事業について、使用者が勤労者代表と書面による合意をした場合には、第53条第1項による週12時間を超えて延長勤労をすることとし、又は第54条による休憩時間を変更することができる。

  1. 陸上運送及びパイプライン運送業。 ただし、「旅客自動車運輸事業法」第3条第1項第1号による路線旅客自動車運送事業を除く。
  2. 水上運送業
  3. 航空運送業
  4. その他運送関連サービス業
  5. 保健業

② 前項の場合には、使用者は、勤労の終了後次の勤労の開始前までに勤労者に連続して11時間以上の休憩時間を与えなければならない。

休日労働の加算手当割増率を明確化

休日労働の加算手当割増率は、8時間以内の休日労働に対しては通常賃金の50%を、8時間を超える休日労働は100%を加算支給するように明確にした (第56条改正。施行日:公布即施行)。

※改正後の勤労基準法第56条
第56条(延長・夜間及び休日勤労)

① 使用者は、延長勤労(第53条・第59条及び第69条ただし書きにより延長された時間の勤労をいう。)に対しては、通常賃金の100分の50以上を加算して勤労者に支給しなければならない。

② 前項にかかわらず使用者は、休日勤労に対しては、次の各号の基準による額以上を加算して勤労者に支給しなければならない。

  1. 8時間以内の休日勤労:通常賃金の100分の50
  2. 8時間を超過した休日勤労:通常賃金の100分の100

③ 使用者は、夜間勤労(午後10時から次の日の午前6時までの間の勤労をいう。)に対しては、通常賃金の100分の50以上を加算して勤労者に支給しなければならない。

官公庁の公休日を有給休日として義務化

現在、公務員にだけ公休日として付与される名節、祝日などについて、民間事業場の労働者にも有給の公休日として適用することによってすべての労働者が公平に休日を享有することができるようにした(第55条第2項)。

ただし、官公庁公休日の民間適用が勤労時間短縮とともに事業場に負担として作用する可能性があるという点を考慮して、企業規模別に段階適用されるようにした。

(施行日)

  • 300人以上:2020年1月1日
  • 30~300人未満:2021年1月1日
  • 5~30人未満:2022年1月1日

※改正後の勤労基準法第55条第2項(新設)

② 使用者は、勤労者に大統領令で定める休日を有給で保障しなければならない。ただし、勤労者代表と書面で合意した場合は、特定の勤労日に変えることができる。

※当該大統領令は、今後制定される。

年少勤労者の勤労時間を短縮

年少勤労者(15歳以上18歳未満)の1週の勤労時間を40時間から35時間に短縮し、延長勤労時間は1週6時間から5時間に制限して年少勤労者保護を強化した(第69条の改正。施行日:2018年7月1日)。

なお、上記①の中の小規模・零細企業への経過措置的特例(30人未満企業について2022年まで週8時間の追加的な特別延長勤労を認める)は、年少勤労者には適用されない(第53条第6項新設)。

この改正を受けて、韓国のキム・ヨンジュ雇用労働部長官は、「OECD国家のうち労働時間が最長水準である現実で長い間議論を通じて国会を通過した勤労基準法改正案は、その間の古い長時間労働慣行を捨てて労働者生活の質と労働生産性が向上する契機になると期待する。」や「政府は、労働時間短縮が仕事場を分けることを通した青年雇用拡大、そして仕事と生活との均衡につながるように、多様な支援方策の準備など改正法の支障ない施行のために万全の準備をつくす。」と強調した(2018年3月1日・韓国雇用労働部発表資料)。

図表1:韓国のパーマネント雇用労働者の月間平均労働時間数の推移
画像:図表1

データ:韓国雇用労働部「事業所労働力調査」

(注)データ値は、5人以上規模計のデータである。
韓国の「事業所労働力調査」は、日本の「毎月勤労統計調査」にほぼ対応する統計調査である。

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