スペイン、有期契約労働者の数が増加
EU28カ国の失業率7.8%、ユーロ圏19カ国で9.3%という欧州全般の雇用情勢で目立つのは、依然として高い失業率(17.8%)にあるスペインだ(注1)。80年代以降、高い失業率に悩まされてきたが、2000年代の不動産バブル期には一時8%台まで低下した。しかし、2008年のリーマンショック後、史上最も高い26%台を記録し、現在回復途上も厳しい状況が続いている。
労働情勢全般は回復
スペインは、イタリアに次ぐ欧州第5位の人口4,650万人を抱える。出生数の減少と国民の国外への流出により、2012年以降人口は下方に向かっている。一方、人口構成における外国人の割合は今世紀に入り急激に拡大し、人口の一割を占める。長引く不況により、こうした移民の流出も多い(注2)
労働力の変動や、後述する有期雇用の増加などにも助けられ、近年では、就業率、失業率ともに回復の傾向にある。危機前の2007年の就業率54.4%、失業率8.6%が、不況ピーク時の2013年に、それぞれ44.5%と25.7%まで悪化した後、2016年までに就業率48%、失業率18.6%に改善した(注3)。現状は、2009年とほぼ同じ水準である。外国人労働者の失業率は、経済危機後、スペイン人以上に大きく悪化し、今日まで両者の間には10%以上の差が見られる(なお、本稿の統計データは言及のない限り、外国人を含む数値である)。
高い失業率は、特に南部の農業地帯で顕著である。地域間の大きな経済格差によって、マドリッド以北は国内平均より失業率が低く、他方の南部ではほぼすべての県で国内平均を上回っている(図表1)。アンダルシア自治州は、スペインの13ある自治州のうち最大の人口(約839万人)を抱えるが、州内すべての県で失業率が25%~34%にのぼり、国全体の失業率を押し上げている。
図表1:失業率の地域差(県別)(2016年第4四半期)
出所:統計局(INEbase)のデータを元に筆者作成。
労働力の大幅な変化
時系列にみると(図表2)、まず、バブル期の2000年から2007年までの就業者数が1550万人から2036万人へと約500万人伸び、大幅に増えた。その半数の200万人超が外国人労働者である(注4)。経済危機が始まると、2013年までの6年間で、就業者数は約300万人減少し、失業者数は約400万人増加した。景気回復途上にある直近3年間(2013-2016)では、就業者数は約120万人増加し、失業者数は約150万人減少した。その結果、2016年の就業者数は1834万人で、失業者数は448万人であった。
これら失業者の過半数が1年を超える失業期間をもち、さらに2年以上に限定すると4割近くになり、失業者に占める長期失業者の割合は極めて高い。全体の内訳は、1カ月未満4%、1カ月から3カ月未満12%、3カ月から6カ月未満11%、6カ月から1年未満12%、1年から2年未満14%、2年以上40%であった(2017年第1四半期)。2年以上の失業期間をもつ求職者は、2007年には13%、2013年には34%であったことから、全体の失業者数が減少していく中で、一部の層が長期失業者として取り残されていることがうかがえる(注5)。
図表2:就業者数と失業者数の推移(2000-2016)(百万人)
サービス部門の労働者が増大
2000年から2016年までの就業構造をみると(図表3)、サービス部門の就業者比率は14%上昇し、76%になった。とりわけ、不況時にサービス部門への集中は加速した。反対に、建設部門は、危機以降、急速に縮小し、工業・エネルギー部門も継続的に縮小、農林業も同様である。
2013年から2016年に、サービス部門の就業者数は95万人増加し、工業・エネルギー部門も17万人増加した。その他の部門も就業者数を伸ばしているが(注6)、失業者の多くはサービス部門に吸収されたと言える。
サービス部門において、2013年~2016年にもっとも雇用が拡大した業種は、「宿泊・飲食業」(26万人増)だった。とりわけ飲食業の就業者の増加は大きく、26万人中の17.6万人だった。次に、「医療・福祉」(19万人増)の就業者の増加が大きく、「輸送・保管」(12万人増)、「高度専門職(弁護士、会計士、企業コンサルタント、建築士等)」(10.4万人増)、「教育」(10.3万人増)がこれに続く(注7)。
2000年 | 2007年 | 2013年 | 2016年 | |
---|---|---|---|---|
農林漁業 | 6.6 | 4.6 | 4.3 | 4.2 |
工業* | 19.8 | 16.0 | 13.7 | 13.8 | 建設 | 11.1 | 13.3 | 6.0 | 5.9 | サービス | 62.4 | 66.2 | 76.0 | 76.2 | 計 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
*工業(industria)には、採掘業、製造業、電力・ガス・水の供給、廃棄物管理等が含まれる。文中では工業・エネルギー部門とした。
出所:2017 Informe del Mercado de Trabajo Estatal, Datos 2016. SEPE.
不安定雇用は拡大へ
契約形態別でみると、期間の定めのない雇用契約の労働者における割合は増加したものの、人数に大きな変化はない(図表4)(注8)。政府報告には、期間の定めのない雇用者の割合が増えたことから、安定雇用が増加したとするものがみられる。しかし、その中身を見れば、有期契約の雇用労働者の数が大きく減少して、雇用労働者全体の人数が減少したことにより、期間の定めのない労働者の割合が高くなったにすぎない。さらに、現在創出される雇用の多くは有期契約であり、失業した労働者が見つけることのできる職は、安定した雇用よりも不安定な雇用が多いという現状にある。
ここ数年間の経済は内需に刺激されプラス成長に転換、2016年のGDP成長率は3.2%を記録した。しかし、国内消費や輸出の好調は、石油安、低金利、デフレ、ユーロ安など不安定な外的要因に依存する部分が多く、今後の雇用の展望は不透明だ。
2007年 | 2013年 | 2017年 | |
---|---|---|---|
合計 | 16,701.3 (100%) |
13,987.0 (100%) |
15,340.8 (100%) |
無期契約 | 11,386.1 (68.2%) |
10,917.6 (78.1%) |
11,390.5 (74.2%) |
有期契約 | 5,315.2 (31.8%) |
3,069.4 (21.9%) |
3,950.3 (25.8%) |
出所:統計局(INEbase)よりデータを取得。
(和田佳浦 早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程)
注
- 2017年4月の季節調整値(Eurostat)。(本文へ)
- 2015年統計で、スペイン人は、流出9万4644人、流入5万2109人で、4万2535人の流出過多。外国人は、流出24万9231人、流入29万5人で、4万774人の流入過多。スペイン人と外国人を合わせた移民の流出入計は、1761人の流出過多であった。特に、経済活動率の高い35-54歳層で、流出が多かった(6万6249人の流出過多)。なお、ここで述べる外国人とスペイン人の区分は、国籍による。(本文へ)
- 数値は16歳以上人口(65歳以上も含む)。(本文へ)
- 同期間の変化率は、スペイン人労働者が2%弱の増加、外国人労働者は25%超の増加。(本文へ)
- スペインの失業手当は、就業期間に基づき3カ月から38カ月の給付がされる。(本文へ)
- 2013年から2016年の就業者数の変化は、農林漁業3万7900人増、工業・エネルギー部門16万6700人増、建設部門4万4300人増、サービス部門95万3400人増。(本文へ)
- 業種別の就業者数については、各年の第一四半期の数値を使用。(本文へ)
- 全就業者に占める被用者の割合は83%。(本文へ)
参考資料
- スペイン公共雇用サービス(SEPE)報告書(”2017 Informe del Mercado de Trabajo Estatal, Datos 2016.”)、スペイン統計年報(Anuario Estadístico de España)、その他ウェブサイト(スペイン統計局、スペイン労働省、El País紙, El Mundo紙等)。
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