地域雇用政策:EU
欧州雇用戦略の地方側面

  • カテゴリー:地域雇用
  • フォーカス:2005年3月

EUでは、1997年に欧州雇用戦略(EES)を開始して以降、地方の側面が重視され、地域開発の進展がみられた。

加盟国は雇用ガイドライン(注1)に基づき、毎年、国別雇用行動計画(NAPs)(注2)を策定しEUに提出する。これは、総括と計画からなる。この各国報告を分析し、合同雇用報告(注3)が作成され、欧州委員会と理事会の承認を受ける。合同報告には、各国行動計画の分析に基づく、助言・勧告、具体的政策提案が盛り込まれている。

雇用ガイドラインは、加盟国に地方・地域アプローチの統合、全ての関係者の関与を促している。各国のソーシャルパートナーにも積極的な努力を求めている。具体的な国別雇用行動計画に基づき、フィンランド、ポルトガル、イギリスは、地域行動計画(RAPs)を策定し、ギリシャ、フランス、アイルランド、スウェーデンは、地方行動計画(LAPs)を整備した。

2004年の国別雇用行動計画では、地方当局(地方自治体、地方公共職業安定所および地方社会保障機関)が大きな役割を果たし、雇用の改善に寄与したと分析されている。ポーランド、スロバキアなど、新規加盟国の多くでは、労働市場政策を分権化する傾向がみられた。

社会経済機関(協同組合、相互保険、協会、財団法人、地域社会組織)が地方開発の重要な要因であると位置づけられるようになり、ギリシャ、スウェーデン、フランス、ベルギーにおいては、雇用創出のためこれらに対する財政支援が行われている。

地方レベルのパートナーシップとして、ソーシャルパートナーや公共職業安定所が地方戦略の策定・実施に参加することが多くなり、地方・地域労働市場において具体的かつ重要な役割を担うようになってきている。

欧州委員会は、加盟国における地方開発への総合的アプローチを促進するため、地方雇用戦略の策定に関するモニタリングおよび財政支援を行っている。しかし、近年は、厳しい財政事情を反映して、パイロット・プロジェクトが縮減の方向にある。かわりに各国の経験の共有化に力を入れており、地方開発フォーラムなどを開催している。

地方雇用戦略の展開

EUでは、域内地域間の経済的社会的不均衡の是正・拡大予防を目的に構造政策(地域政策)を実施しており、その予算はEU予算の3分の1を占めている。構造政策には、構造基金、結束基金、欧州投資銀行による融資の3つの手段がある。構造政策の中核的手段は構造基金であり、地域間格差是正のための欧州委員会から加盟国への補助金(2000年~2006年の予算総額は1950億ユーロ)として活用されている。構造基金には、目的別に、欧州地域開発基金(ERDF)、欧州社会基金(ESF)など4つの基金がある。構造基金の実施スキームには、優先目的分野において加盟国が提案した地域開発計画を欧州委員会が採択する「優先目的分野(加盟国イニシアティブ)」(構造基金予算の約94%)、欧州全域に係る共通の問題に対応するために4つのイニシアティブを設定し、欧州委員会が定めたガイドラインに基づいて加盟国が開発計画を提案する「共同体イニシアティブ」(同約5%)などがある。加盟国イニシアティブは、1)後進地域の開発と構造調整の促進(構造基金全体の約71%)、2)構造的困難に直面する地域の経済的・社会的転換の支援(同約11%)、3)教育、訓練及び雇用の改善・近代化の支援(同約12%)の3つの目的に基づいて、加盟国の各地域を単位とする各種プロジェクトに対して実施される。共同体イニシアティブの一つEQUALプログラムは、労働市場の差別・不均等撤廃を目的としており、2000年から2006年にかけて28億ユーロが投入される。

欧州雇用戦略および欧州社会基金の重要なテーマに男女平等の推進がある。そのため、欧州社会基金規則においても地方イニシアティブの支援に女性の労働市場参入を促進する対策を含めるよう規定されている。

地方雇用戦略の開発においては、地方、地域、国、共同体各レベルの政策立案者間の連携を促進することが重要である。欧州委員会は、社会経済機関を含む地方・地域開発の成功事例に関する情報を加盟国で交換するため、1)IDELEプロジェクト(注5)の導入(2003年11月)、2)16カ国語による地域雇用開発ハンドブックの出版、3)指標設定の促進(ベンチマーキング)――などの活動を進めている。

欧州雇用戦略は、より多くの良質な雇用を創出するための確立された手段に成長してきている。加盟国レベルにおいても、雇用ガイドラインは、国別雇用行動計画、EU及び各国の融資支援に基づく首尾一貫した雇用戦略に政策に反映されている。地域・地方レベルにおいては、地方関係者が、男女平等の推進、社会参加の促進などに関して重要な役割を果たしてきた。地方の要因は、欧州雇用タスクフォース(注4)の4つの優先課題である1)労働者と企業の適応能力、2)より多くの人々の労働市場への参加、3)人的資源及び生涯学習への効果的な投資の拡大、4)より良い統治に基づく効果的な改革の断行―の実行に際し、重要な役割を果たしつつある。

※本稿の内容は、労働政策研究・研修機構が2月9日、10日に開催した「各国の地域雇用開発研究ワークショップ」におけるロバート・シュトラウス・欧州委員会雇用社会問題総局A2課長の講演をもとに構成した。

参考

2005年3月 フォーカス: 地域雇用政策

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