EU各国の2026年最低賃金の改定状況

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  • 国別労働トピック:2026年3月

シンクタンクEurofoundは、EU加盟国の2026年の最低賃金の改定状況をまとめたレポートを公表した。これによれば、各国の改定率は概ねインフレ率を大きく上回っており、適正な最低賃金額の目安(平均賃金や賃金中央値に対する比率)の設定を義務付けるEU最低賃金指令の規定が寄与している可能性がある。以下、レポートの概要を紹介する。

インフレ率を上回る改定に参照値が寄与か

現在、大多数の加盟国では法定最低賃金が導入され(注1)、そのほとんどで2026年1月1日に最低賃金額が改定され、改定率がインフレ率を上回っている状況にある(図表1)。各国には、EU最低賃金指令によって、最低賃金額の設定・改定手続きの確立などとともに、額の適切性(十分性)の目安となる何らかの参照値(平均賃金の5割、賃金中央値の6割等)を設けるべきことが定められているが、レポートは、参照値の設定が各国の高い改定率の大きな要因となっている可能性を指摘している。

図表1:2026年1月時点の最低賃金額(各国通貨建て)・改定率、2025年12月時点のインフレ率 (単位:%)
画像:図表1

注:緑の棒グラフは最低賃金額の設定に際して目標とすべき参照値を法律等で設定している国、青は参照値を最低賃金額の設定に直接用いてはいないが、額の適切性の判断に用いている可能性がある国。赤線は各国の2025年末時点のインフレ率(Eurostatの推計する消費者物価指数HICP)を示す。なお、キプロスの改定率は2年分の数値。

各国が設定する参照値や到達度は、国によっても異なる。例えばブルガリアでは、平均賃金の50%を基準に設定しており、これに経済状況なども考慮の上、12.6%の高い改定を決定した。またチェコでは、既に確立されている物価スライド制度に基づいて7.7%の引き上げを決定、2029年までに平均賃金の47%の達成を目標としている。ドイツでは最低賃金委員会が、賃金中央値の60%への引き上げを目標として、2026年に8.4%、翌年も13.9%の引き上げを行うことで合意したとされる。リトアニアでは、法律でなく2017年に締結された労使合意により平均賃金の45~50%の範囲で目標値が設定されているものの、直近の労使間の協議では労使が合意に至らず、政府が11.1%の引き上げを決めたとされる。同様に、労使間の交渉が決裂したスロヴァキアでは、法律により自動的に平均賃金の60%への改定が行われた。一方で、スロヴェニアでは最低賃金額の改定を、財・サービスのバスケットに基づいて算出される「最低生活費」と連動させる独自の手法を採っているが、2025年に実施された最低生活費の見直し作業の結果、2026年の改定率はインフレ率を大きく上回る16.0%となった。

一部の加盟国では、進捗に遅れも見られる。例えばエストニアでは、2027年までに平均賃金の50%への引き上げを行う計画に予め労使が合意していたものの、2026年に達成すべき47.5%への引き上げを巡って交渉が難航した(注2)。ハンガリーでも同様に、2027年までに平均賃金の50%を目標としているが、2026年の改定率は当初合意されていた13%から11%に変更された。アイルランドでは、2026年改定による賃金中央値の60%の達成を予定していたが、2029年に延期された。ルーマニアも、改定を2026年7月に延期している。改定により、最低賃金額は参照値の下限である平均賃金の47%に達する予定だ。

このほか、参照値を法律等で定めていない(クロアチア)か、他の経済指標等を併せて考慮する(ギリシャ、ラトヴィア)各国でも、結果的に参照値相当の(またはこれを上回る)引き上げが達成されたと見られる、とレポートは述べている。

法整備の不足、独自の改定基準も

一方、参照値を用いていない加盟国もあり、これには、指令に基づく国内法の整備が不十分である場合(ルクセンブルク、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン)や、物価スライド方式による最低賃金の設定が定着している場合(ベルギー、フランス、ルクセンブルク、マルタ、オランダ)などを含むと見られる。他の理由としては、賃金水準にかかわらず所定の額を目標に設定している(ポルトガル)か、適正性の検証あるいはインフレ率を超える改定が4年に一度しか実施されない(ベルギー(公共部門)、フランス、マルタ)、あるいは設定された目標値が広く達成済みとみなされている(フランス、スペイン)ことなどが挙げられる。こうした国は、ルクセンブルク(2.5%)、ポーランド(3%)、スペイン(3.1%)、マルタ(3.5%)、ベルギー(4%)、キプロス(2年間で8.8%)、オランダ(4.6%)など、加盟国中でも改定率が相対的に低い傾向にある。ただし、ベルギー、フランス、ルクセンブルクについては、最低賃金の水準自体が最も高い国々であることにも留意を要する(図表2)。

図表2:2025年・2026年の最低賃金額 (ユーロ・月額換算)
画像:図表2

なおレポートは、法定最低賃金を導入していない各国の動向にもふれている。オーストリアでは、経済成長の鈍化と高インフレの継続を背景に、名目賃金の上昇はインフレを相殺する程度に留まった。またイタリアでは、法定最低賃金導入の是非を巡って議会が紛糾し、制度導入には至らなかったものの、団体交渉メカニズムの強化のための法律に結実した。デンマークでは、23万人の労働者を対象とする全国協約が2025年2月に更新され、3年間で7.89%の賃上げが設定された。フィンランドでは同月、ほぼ同額(3年間で7.8%)の賃上げを含む協約が、パターンセッターとなるテクノロジー産業で締結され、2025年に期限切れとなったほとんどの業種別協約がこれに倣った。スウェーデンでは、2025年4月に締結されたパターンセッターとなる全国協約で、歴史的に最も高い賃上げ率(2年間で6.4%)が盛り込まれたほか、所定額を下回る賃金の労働者について追加の賃上げが保証され、続く510の団体協約(労働者340万人に適用)の再交渉も、これを受けた内容となったとされる。ノルウェーでも、中央レベルでの合意により紛争が終結、賃上げ率は4.4%と推計されている。

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