スペイン政府、非正規外国人50万人を正規化へ
スペイン政府は1月、国内の非正規外国人(居住許可を持たない外国人)に対する臨時の正規化措置の実施を決めた。2025年末までに5カ月間居住していた層を中心に、およそ50万人が対象となると予測されている。申請が認められれば、1年間の居住や就労が許可され、その後も正規の居住許可による滞在の延長が可能となる。
非正規外国人が急速に増加
スペインでは近年、外国人の流入が続いている。金融危機以降の低迷から景気が回復に転じた2010年代半ば以降、国外出生者はこの10年で358万人増加して946万人となり、総人口に占める比率は2015年の12.7%から2025年には19.3%に上昇している(注1)。
図表:出生地別人口の推移

出所:Eurostat 'Population on 1 January by age group, sex and country of birth
'
一方、非正規外国人については公式のデータはないものの、シンクタンクFuncasの推計によれば、2025年1月時点の国内の非正規外国人は84万人で、2017年の10万7000人から同様に大幅な増加が報告されている(注2)。増加の大半は、全体の9割(76万人)を占めるアメリカ大陸出身者により、特にコロンビア(約29万人)、ペルー(約11万人)、ホンジュラス(9万人)などの出身者が多くを占めるとされる(注3)。就労状況についても正確な実態は不明だが、農業や家内労働、建設業など、労働集約的かつ労働力不足の傾向にある仕事への従事比率が高いとされ、また法的身分の不安定さなどから搾取にもさらされやすい状況にあるといわれる(注4)。
非正規外国人をめぐっては、2005年に開始されたArraigoと呼ばれる制度(注5)を通じて、継続的な正規化の取り組みが行われてきた。過去2年の居住などを前提に、就労や就学、あるいは居住許可保有者との家族関係など、カテゴリに応じた要件を満たせば、1年間の居住許可と、それ以降も要件を満たす限り一定の延長を認めるものだ。2025年9月時点で約37万人が、Arraigoにより国内に居住している(注6)。一方、今回実施が決定した臨時の正規化措置(regularización extraordinaria)は、Arraigo導入以前に不定期に実施が見られた制度だが、2005年の約58万人の正規化(注7)を最後に、長く実施されていなかった。従来は、闇労働による外国人の搾取防止や、税・社会保障への適正な貢献を雇用主に求めることが主眼であったとされるが(注8)、今回の措置を巡っては、経済に不可欠な労働力の活用という側面が強く打ち出されている(注9)。
1年間の居住・就労を許可、以降も4年間の延長が可能
新たに実施される臨時の正規化措置の対象者は、2025年12月末までに少なくとも5カ月間国内に居住していた(または12月末までに難民申請を提出した)者で、犯罪歴がないことなどが要件となる(注10)。申請が認められれば、1年間の居住と国内での就労が可能となる(注11)。この期間を超えて以降は、通常の移民制度における就労等のルートへの転換により、4年間までの滞在延長が認められる(注12)。また既に国内に居住する子供が居る場合、当初から5年間の居住許可を付与するとしている。申請の受け付けは4月上旬から開始され、6月末まで行われる予定だ。政府は、およそ50万人が正規化の対象になると予測している(注13)。
政府の決定に対して、保守系の野党からは、社会的統合の予算や労働市場規制の強化といった準備もなく数十万人の非正規外国人を正規化すれば、結果的に闇経済を利するのみとなり、また公共サービスへの負荷が高まるほか、さらなる非正規外国人流入の誘因となる、といった批判的な意見が聞かれる(注14)。また、上掲のシンクタンクFuncasは、正規化までに長期間の非正規状態での居住を前提とする現在の制度モデルは、近年のような外国人の急増に対応できず、結果として非正規外国人の大幅な増加を招いているとして、戦略の欠如を批判しており、労働力不足や技能需要に対応した外国人受け入れの管理により正規の受け入れプロセスを強化するよう政府に求めている。
欧州委員会も懸念を示している(注15)。近年、域内各国で移民流入に対する市民の懸念が強まっていることなどを受けて、欧州委は域内外の境界管理や不法入国者の送還等の強化に加盟国の協調を促しているところであり、スペイン政府の今回の決定はこれに逆行するためだ。不法移民の正規化は各加盟国の責任下にあるものの、正規化された外国人による域内他国での不法滞在や難民申請などの事態が生じた場合には、居住許可を発行した国への送還が必須であるとして、スペイン政府を牽制している。
政府は、今回の正規化措置は申請期間を限定して実施するものであり、また過去の事例の分析からも、非正規外国人のさらなる流入の誘因になるとの懸念は当たらないとしている(注16)。
注
- Eurostat 'Population on 1 January by age group, sex and country of birth
'より算出。なお、国別にはモロッコ(117万人)、コロンビア(98万人)、ヴェネズエラ(69万人)、ルーマニア(52万人)、エクアドル(47万人)、などが多くを占める。(本文へ) - Funcas 'El número de inmigrantes en situación irregular en España aumenta de 107.000 en 2017 a 840.000 en 2025
'(本文へ) - ほか、アフリカ(5万人)、アジア(1万5千人)、ヨーロッパ(1万4千人)など。(本文へ)
- 例えば、Mixed Migration Centre "The impact of irregularity on migrants’ access to work in Spain
"、Garcia, M.F., Y.Molinero-Gerbeau, Z.Sajirb "'They think you belong to them': migrant workers’ perspectives on labour exploitation in Spain
"、The Guardian 'I was once an undocumented migrant in Spain – this new decree will change lives
'' (5 February 2026)などを参照。(本文へ) - Arraigo(スペイン語で「根付くこと、定着」を意味する)と呼ばれる制度のカテゴリには「社会的」(社会的統合の度合いに依拠)、「雇用」、「家族」、「訓練」、「セカンドチャンス」(居住許可が失効して2年以内)の5種がある(Mirrem (2025) "Handbook on Regularisation Policies – Practices, Debates and Outcomes (PDF:1.67MB)
")。当初は、短期の居住許可を通じて正規の居住・就労等の許可への転換の橋渡しを担う制度として導入されたが、2025年の制度改正により、転換を経ずに滞在の延長が可能となったほか、申請までの居住期間の要件も3年から2年に短縮されるなど、通常の受け入れ制度の一環として位置づけられた。同年の制度改革では、通常の就労許可についても当初の1年の許可と4年間の延長を認める方式への転換が行われている(European Commission 'Spain: New immigration reform to enhance migrant integration
' (21 November 2024))。なお、スペインでは現在、居住許可の有無にかかわらず、住民登録(Padron)により医療・教育などのサービスの提供を受けることが可能(Mirrem (2024) "Spain Country Brief on Irregular Migration Policy Context (PDF:553KB)
")。(本文へ) - うち7割弱(25万人)を「家族」カテゴリ(スペイン国籍者の親、子供、配偶者・パートナーなど)の者が占める(Ministerio de Inclusión, Seguridad Social y Migraciones 'Personas con autorización de residencia por arraigo en vigor según sexo, grupo de edad, principales nacionalidades y tipo de arraigo.
')。(本文へ) - 2005年の実施分を含め、20年間で118万人が正規化の対象となった(Migration Policy Institute 'A Pragmatic Bet: The Evolution of Spain’s Immigration System
' (18 April 2023))。(本文へ) - Eurofound 'Spain: The normalisation of immigrants in 2005
' (11 May 2005)(本文へ) - Info Migrant 'Immigration key to Spain's economic boom
' (20 May 2025)、'Migrant regularization in Spain: Sanchez' decree faces sharp criticism
' (5 February 2026)(本文へ) - Council of Ministers 'The Government of Spain launches an extraordinary regularisation process for foreign nationals already living in Spain
' (27 January 2026) 、Ministerio de Inclusión, Seguridad Social y Migraciones 'El Gobierno sube a audiencia pública el texto de la regularización extraordinaria para integrar a personas extranjeras que ya están en España
' (27/01/2026)(本文へ) - なお、申請が受理(申請から15日以内)されれば、最長で3カ月を要するとされる居住許可の発行を待たずに、就労が認められる。(本文へ)
- 5年以上の居住により、永住権の申請が認められる (Administracion.gob.es 'Permanent residence (more than five years)
')。(本文へ) - Ministerio de Inclusión, Seguridad Social y Migraciones 'El Gobierno sube a audiencia pública el texto de la regularización extraordinaria para integrar a personas extranjeras que ya están en España
' (27/01/2026)のQ&A資料による。(本文へ) - VisaHQ 'Conservative Opposition Slams Mass Regularisation as “Reward for Illegality”
' (27 January 2026)。なお、今回の臨時の正規化措置は、非正規外国人の正規化を求める市民運動により収集された70万人分の署名に基づき、市民発議による立法手続きが開始されたものの、議会での審議が滞ったことを受けて、内閣(閣僚理事会)が緊急措置として実施を採択した(Council of Ministers 'The Government of Spain launches an extraordinary regularisation process for foreign nationals already living in Spain
' (27 January 2026))。(本文へ) - European Commission 'Commission Statement to the European Parliament on Migration and Regularisation
' (10 February 2026) (本文へ) - 上掲注13の文献参照。(本文へ)
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2026年 > 2月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > EUの記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 外国人労働者
- 海外労働情報 > 国別基礎情報 > EU
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > EU・欧州
- 海外労働情報 > 海外リンク:国別にさがす > EU


