OECDにおける地域活性化の議論

カテゴリ−:地域雇用

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  • 国別労働トピック:2022年9月

OECDが提供する地域経済雇用開発(LEED:Local Economic and Employment Development)プログラムは、地域雇用の創出や共生社会の実現、地域経済の発展のための革新的な手法を、加盟国全体で共有することを目的としている。1982年から始まり、2022年で40年目を迎える。これまで地域発展に関わる様々なテーマで、国際フォーラムを開催してきた。

国際的な経済・雇用環境について、国レベルで検討するとともに、各国の経済を支える個別地域について焦点を当て議論する場を設けることで、より実践的な議論ができると期待されている。

2022年には、地域レベルでの人材育成支援をテーマに2つのフォーラムが開催された。2月15日~17日にはスペインのバルセロナで「OECD Local Skills Week」が、6月15日~17日にはアイルランドのコークで「OECD Local Development Forum: Better strategies for stronger communities」が開催された。本稿では、両フォーラムでの議論をまとめたい。

1)地域レベルで人材育成を考える意義

OECD加盟国では、5人に2人の雇用主が人手不足を感じているうえ、労働者の35%が現在担っている業務に必要なスキルを十分に習得できていないと感じている。こうしたミスマッチやスキルギャップは生産性の低下や経済成長の低迷の要因になる恐れがある。これにくわえて近年では、仕事の自動化やデジタライゼーションによって、2つに一つの仕事で、これまでの仕事内容が変容すると試算されている。さらに、いくつかの仕事は、消失する恐れがあることも指摘されている。

こうした背景から、職業訓練による再教育やスキルアップは、これまで以上に重要なテーマとなっている。職業訓練は高いスキルを持つ人ほど多くの訓練機会を得る傾向にあり、低いスキルの人ほど訓練機会に恵まれないという課題がある。より多くの人々が、職業訓練を受けるためには、彼ら・彼女らが暮らす地域社会の中で、訓練機会を提供する必要があるため、地域レベルで職業訓練に取り組むことが求められている。

2)地域レベルの人材育成における重要な視点

地域レベルで人材育成に取り組むうえで、次の3つの視点が鍵となる。

第一に、公平性の視点である。前述したように職業訓練は、スキルの高い人の方が多くの訓練機会に恵まれており、訓練機会はスキルの低い人の3倍近いとされる。すなわち最も再教育が必要な人々に、最も訓練機会が不足している。地域のあらゆる人々が平等に職業訓練にアクセスできるよう環境整備することが肝要となる。

なお、このためには訓練の提供方法を柔軟化する等、訓練の在り方自体を再検討することが求められよう。例として、アイルランドでは高等教育を職業訓練の重要なプロバイダーと位置づけ、地方で働く労働者の再教育を促進するため、高等教育をオンラインで受講可能とする仕組みを整えている。

第二に、循環型社会の視点である。近年、環境にやさしい社会づくりとして、循環型社会の形成が求められている。循環型社会では、「調達・生産・利用・処理」の流れが地域社会の中で形成され、生産・消費・処理・再利用の各段階で、無駄なゴミを出さず、環境を汚染しないように工程を見直し、技術を向上することが求められている。地域レベルの雇用創出と人材育成も、この社会経済の循環の中に位置づけて実施することが重要となろう。

第三に、避難民や移民の社会的統合に関する視点である。現在、欧州各国を中心に、多くの国がシリアやウクライナからの避難者を受け入れている。南米のコロンビアでもベネズエラからの移民が増大しており、世界各国で大規模な人の移動が起きている。6月15日~17日に行われた会議では、ドイツ、スウェーデン、コロンビア、アイルランドの代表者が登壇し、各国の経験を共有した。いずれの国においても、これまで各国の移民流入政策は一時的で短期間のうちに解決すべき社会問題として捉えられてきたが、彼ら・彼女らは移住した国で働き、家族を作り、今後の人生を築いていくことが分かってきた。今後は、彼ら・彼女らを地域社会の重要な構成員と捉え、彼ら・彼女らとどのようにして長期的な関係を築き、地域経済のなかで活躍してもらうかという長期的な視点へと、パラダイムシフトしていく必要があることが強調された。

3)地方政府の役割

地方政府は、地域産業の人材ニーズを把握するとともに、地域特有のスキルニーズに対応した職業訓練機会をデザインし、提供促進を図るという役割を担っている。地域経済の発展には、地方政府と雇用主、訓練プロバイダー、組合等の有機的なかかわりが欠かせない。こうした包括的な取り組みを推進することが、地方政府には求められる。

さらに、地域の経済力を維持・向上させるためには、地域内外の優秀な人材を、当該地域に惹きつけるだけの魅力的な都市計画や健康・生活に関わる政策の立案・実施が重要となる。

4)各国地域の取り組み、事例紹介

最後に、各国地域における興味深い取り組みを、3つ紹介しておきたい。

ベルギーの複数都市に展開するLes petits riensは、古着や中古家具等の回収・販売を生業としている。自社の事業を通してベルギーの貧困を解消し、社会的に弱い立場にある人々が自律的に生きる手助けとなることをミッションとしている。食事や住居、仕事、健康等に関する12もの社会的貢献プロジェクトを実施している。例えば、求職者に対するキャリアコンサルティングを提供したり、独自の訓練センターを設立して、求職者や社会的に立場の弱い人に対して、電気機械に関する職業訓練を提供している。

フィンランドのバンタ―市(Vantaa)では、中小企業の競争力向上と、学歴の低い労働者の再教育を目的として、2019年1月~2022年7月にかけてUrban Growth Vantaaプロジェクトを実施した。同市が中心的な役割を担い、職業訓練に関する専門家から中小企業の経営者に対して、職業訓練の必要性を説明するとともに、各企業のスキルニーズを分析し、訓練の提供方法等について助言を行った。さらに従業員に対しては、グループセッションを通して成人学習の必要性を説明するとともに、個別のキャリアコンサルティングを実施した。最終的には70の中小企業、714名の労働者に支援を行った。

デンマークとドイツの複数の都市に展開するReDi school of Digital Integrationは、2016年に設立された非営利企業であり、無料でデジタル技術プログラム(3~4カ月・週1~2日)を提供している。授業はボランティアの専門技術者が行い、デジタル技術の基礎から応用まで様々なコースを網羅している。またメンターシップやキャリアワークショップ、ジョブマッチング等も行っている。同企業のベルリン支部では、他国からの避難者や移民に同プログラムを提供することで、地域内で不足している技術分野の人員確保を達成するとともに、避難者等の生活の安定を図っている。

上記の例から分かるように、国全体の雇用創出と人材育成の活性化には、地域レベルでの取り組みが欠かせない。

関家ちさと

参考資料

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