新型コロナ感染急拡大に伴う外出禁止、工場停止、現金給付措置
ミャンマーでは、新型コロナウイルス感染が世界的に拡大した第1波の4月から7月までは、市中の感染防止対策や国境の水際対策が功を奏し、感染者は主に帰国者に限られ、市中の新規感染者はゼロの日が続いた。確認された同期間中の1日当たりの新規市中感染者数は多くとも10数名程度であった。ところが、8月下旬からの都市部を中心に感染が急速に拡大したことを受け、9月21日にはヤンゴン管区全域の一部業種を除く全産業を対象とする出勤停止(自宅待機)の命令が出された。出勤停止となった従業員を対象とする現金給付措置が10月5日から講じられているが、雇用主が社会保障基金に対する納付を怠ったために給付が受けられない労働者の問題が生じている。
8月末からの感染急拡大
ミャンマーにおいて新型コロナウイルスの1日の新規感染者数は、8月下旬までは二桁に収まっていたが、8月26日に100人を超え、10月1日には1000人以上を記録し、10月10日には2000人を超えた。8月末までの累計感染者数は887人だったが、10月末には5万2706人になり、2カ月間で60倍を超える勢いで増加している。10月16日にカヤー州において感染者が確認されたことで、全ての州・管区・連邦直轄区域でコロナ感染者が確認された(注1)。
初期段階の感染防止策
感染拡大の防止に関する規制は、早期の段階で実施された。4月の中旬から、外出時のマスク着用義務付け、午後9から午前4時の夜間外出禁止のほか、家族での外食や仕事での集まりを除く集会や会合に人数制限が設けられた(注2)。当初、会合の参加人数制限を5人以上としていたものを、6月には15人以上、7月には30人以上へと緩和、外出禁止の時間も午前0時から4時の4時間に緩和していった。
労働当局は、4月10日から16日までの正月(水祭り)の休日明けに、企業に対して操業停止の通知を発出した。4月30日までの期間に当局による検査で感染予防対策が十分だと確認された工場から操業再開が許されるというものだった(注3)。通知の発出から実施までの期間が短かったため現場は混乱するとともに、工場操業停止期間中に手当の支給がなかったことに対して労働者から不満の声が上がった(注4)。
クラスター発生と職場内の防疫対策、出勤停止命令
こうした感染防止対策を実施したものの、8月下旬以降には急激な感染拡大を引き起こした。最大都市ヤンゴンでの感染拡大は、工場や僧院でのクラスター発生が原因とされ(注5)、労働・入国管理・人口省は、9月15日、工場や商業施設等を対象とする感染拡大防止の通知を発出した(注6)。労働者間で6フィート(約1.8メートル)の距離の保持、特定の職場以外に移動する場合はマスクおよびフェイスシールドの着用、作業場やトイレに入る前や食事の前後には石鹸を使用して20秒以上の手洗い、あるいはアルコール成分60%以上の消毒液での洗浄を義務づけるものである。事業主は従業員の食事時間を分散する措置をとらなければならない。陽性者が出た場合には同じ部署やラインで就労する従業員や同じ寮で生活する者は職場に入ることを制限しなければならない。
9月21日には、保健・スポーツ省からヤンゴン管区全域(離島を除く)を対象とする外出自粛命令が発表された(注7)。労働者に対して9月24日から10月7日の期間、職場出勤を禁じるものである。金融サービスや給油所、食品冷蔵、医薬医療機器製造流通等、一部業種は対象外とされたが、CMP(裁断、縫製・梱包)関連の企業の出勤停止措置が明記された。10月10日には、当局の検査に合格した事業所は12日から順次事業を再開できる通知が出された(注8)。
出勤停止の労働者に対する現金給付
政府の命令により出勤できない労働者に対する救済措置も講じられており、社会保障制度の一環として、給与の40%を現金給付する措置がとられている。決定当初は社会保障加入の労働者に限って給付するものをされたが、その後、未加入者にも一人当たり3万チャット(約2400円)を支給すると決定した(注9)。給付は10月5日から開始し、これまでに3万3802人の労働者が受給した(注10)。
その一方で社会保障制度に加入しているにも関わらず、雇用主が保険料を納付していなかったために、給付が受けられなかった労働者の問題が指摘されている(注11)。従業員規模5人以上の企業は、社会保障制度に加入する義務があり、採用から10日以内に当該従業員を社会保障基金に登録し、保険料を納付しなければならない(注12)。その登録を怠ったり、実際よりも少ない給与額を当局に申告することにより、納付すべき保険料を満額支払っていない企業が確認されている。労働・入国管理・人口省社会保障局長は、そうした企業に対し、社会保障制度で支給されるはずだった給与の40%に相当する額を支払わなければならないと述べた(注13)。これまでのところ47の未納の企業が確認されており、満額納付していない企業が支払うべき現金給付額は2億5000万チャット以上に上るとされている。局長は、現金給付を受けられなかった労働者に対して、直接、社会保障局に訴えるように促している。
注
- First COVID-19 patient in Kayah State discharged from hospital, Myanmar Times, 1 November, 2020.(本文へ)
- Myanmar bans gatherings of five and more as COVID-19 spreads, Myanmar Times, 16 April, 2020.(本文へ)
- “UPDATE: Factories in Myanmar to close for mandatory COVID-19 inspections,” Myanmar Times, 19 April, 2020.(本文へ)
- “DASSK chastises factory owners for staying open despite inspections not to,” Myanmar Times, 22 April, 2020.(本文へ)
- 350 monks in Yangon test positive for Covid-19, Myanmar Times, 25 September, 2020, New COVID-19 cluster reported at Insein after garment factories reopen, Myanmar Times, 25 October, 2020 and Police, factory workers test positive for COVID-19, Myanmar Times, 19 October, 2020.(本文へ)
- Ministry of Labour, Immigration and Population Announcement on COVID-19 Related Guidance for Workplaces and Businesses, Global New Light of Myanmar, 16 September , 2020.(本文へ)
- Myanmar health ministry exempts logistics, airlines and communication business from stay-home order, Myanmar Times, 23 September, 2020.(本文へ)
- Permission for some businesses to reopen in Yangon “appropriate” UMFCII, Myanmar Times, 12 October, 2020.(本文へ)
- Myanmar govt to distribute cash to workers without social security, Myanmar Times, 27 September, 2020.(本文へ)
- Government continues providing social security benefits for insured workers, Global New Light of Myanmar, 9 October, 2020.(本文へ)
- Employers to compensate those who missed out on COVID-19 subsidy, Myanmar Times, 3 December, 2020.(本文へ)
- Lou Tessier, 2015, Social protection within the framework of labour legislation reform in Myanmar, Background research summary (PDF:262KB), International Labour OrganizationおよびSocial Security Rules (PDF:7.24MB), 42条(c)参照。(本文へ)
- 2012年社会保障法69条(b)には、保険料納付を怠った雇用主は、支払われるべき給付を雇用主自身が支払わなければならないと規定している。(本文へ)
(ウェブサイト最終閲覧日:2020年12月7日)
参考レート
- 100ミャンマーチャット(MMK)=7.8066円(2020年12月10日現在 Exchange-Rate.org)
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