文在寅大統領が国政運営5カ年計画を発表
―5大国政目標と100大国政課題

カテゴリー:雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2017年11月

国政企画諮問委員会は7月19日、青瓦台(大統領府)において文在寅大統領の任期5年間の国政運営の方針を定めた「国政運営5カ年計画」を発表した。5カ年計画は、政治、経済、社会、地方分権、外交等、広い分野にわたった政策目標となっている。5カ年計画に盛り込まれた雇用、労働政策上の課題について、概要を紹介する。

あらゆる分野の課題を盛り込んだ政策遂行のロードマップ

国政企画諮問委員会とは、文大統領が就任直後に発足させた委員会である。通常の大統領選では新大統領の就任前に大統領引継ぎ委員会が構成されるが、文大統領は朴槿恵前大統領の罷免に伴う選挙で即日就任したため、国政企画諮問委員会が事実上の大統領引継ぎ委員会の役割を果たしてきた。今般、国政企画諮問委員会が発表した「国政運営5カ年計画」は、国民の生活から外交問題に至るまで、文大統領が今後の5年間の任期中に遂行すべきあらゆる分野の課題を盛り込んだロードマップと言える。

具体的な政策目標として、国政企画諮問委員会は、不正腐敗のない社会の実現を目指す「国民が主人となる政府」、社会経済的不平等、格差問題を解決するための戦略を中心とする「みんなが共存する経済」、福祉を安定させ、国家の責任を強化する「国民の暮らしに責任を持つ国家」、地方都市、農村、漁村を活性化させる「均衡発展する地域」、北朝鮮との平和体制の構築を推進する「平和と繁栄の朝鮮半島」―5大国政目標を掲げている。

5大国政目標の中に掲げられた雇用、労働政策の課題

国政企画諮問委員会は、5大国政目標を更に100の国政課題に細分化したうえで、その実現に向けて取り組んでいくとし、「100大国政課題」を提示している。

例えば、5大国政目標の2つめの柱として掲げられた「みんなが共存する経済」の中では、100大国政課題として提示されたもののうち、雇用労働政策に関する次の3つの政策課題が挙がっている。

  • 国民の目線に合わせた良質な雇用の創出
    2022年までに公共部門において81万人の雇用を創出していく。良質な雇用創出のため、公共部門が呼び水の役割を果たしていく。
  • 性別、年齢別雇用支援の強化
    企業に対する新規採用の促進策及び若年層の雇用義務の強化策を講じる。また、出産、育児による女性の経歴断絶の防止のための再就職支援策を強化していく。
  • 失業と退職に備える雇用のセーフティネットの強化
    自営業者、65歳以上の高齢者等に対する雇用保険の加入要件の緩和措置により、失業者、退職者の再就職活動に適した環境を整備していく。

また、5大国政目標の3つめの柱となっている「国民の暮らしに責任を持つ国家」の中に盛り込まれた100大国政課題の中には、次の3つが雇用労働政策上の課題として挙げられた。

  • 労働尊重社会の実現
    雇用形態の多様化等、新たな課題に対処するため、脆弱層労働者の権利を保護していく法律や制度の改正を推進するとともに、労働者の生活を守り、人権侵害行為を根絶する。
  • 差別のない良好な職場づくり
    非正規職削減のためのロードマップの策定を通じ、非正規職問題の総合的な解消を推進する。
  • 休息のある暮らしのための仕事と生活のバランスの実現
    法定労働時間の遵守と週52時間労働の法制化などを通じた労働時間の短縮を実現する。また、育児休業中の給与の増額、育児期における労働時間短縮期間の延長等を通じた育児サポートを拡充する。

実践時期を3つに区分

5大国政目標を推進するにあたり、国政企画諮問委員会は、実践時期を3つに区分した「3段階履行計画」を提示した。これによれば、第1段階となる2017年から2018年までを「革新期」と位置づけ、旧弊の清算や権力機関の改革といった重点課題を実行するとしている。雇用労働分野においては、非正規職から正規職転換へ向けたロードマップの整備をはじめ、雇用創出のためのインフラの構築や雇用のセーフティネットの拡充がこの時期に実施されるとしている。第2段階となる2019年から2020年までは「飛躍期」として、政策の成果を実感できる時期となる。雇用創出、正規職転換、税制・財政改革などに取り組むとしている。第3段階となる2021年から2022年は「安定期」に達し、課題を完遂し、持続可能な政治、経済、社会体制を構築していくとしている。雇用労働分野においては、韓国型の失業扶助の施行や現場の需要に基づいた職業訓練システムなどが確立されるとしている。

報道機関、専門家の見解

以上のように、文政権の国政運営5カ年に掲げた5大国政目標は、非常に幅広い分野にわたっており、いわば文大統領の公約の重点課題をまとめた内容となっている。しかしながら、その履行には400を超える法律の制定や改正が必要であり、また、実現に必要な予算は178兆ウォンに達するという試算もある。文政権は、必要な財源は税収の増と歳出の削減で賄うとしているが、これに対し、韓国の報道機関の中には、増税は不可避という見方を示すものや、財政計画が非現実的であるという専門家の声を報じているものもある。

参考資料

  • 『文在寅政府 国政運営5カ年計画』 2017年7月 国政企画諮問委員会
  • 『連合ニュース(日本語版)』 2017年7月19日
  • 『ハンギョレ(日本語版)』 2017年7月19日

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