造船産業の復活に向けた支援
―「特別雇用支援業種」指定と構造改革の促進

カテゴリー:雇用・失業問題

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2016年10月

韓国経済の発展を支えてきた主要産業のひとつである造船産業が深刻な不況に陥っている。政府は6月30日、造船産業を「特別雇用支援業種」に指定した。これによって、造船企業は雇用維持支援金の給付を受けるなどの支援を得られることとなるが、注目すべき点は、今回の「特別雇用支援業種」の指定から、いわゆるビッグ3と呼ばれる「現代重工業」「大宇造船海洋」「サムスン重工業」の大手3社が外れたことである。そこには、危機に直面した造船産業に対する一時的な救済に留まらず、今後、構造改革を推進し、競争力を復活させていこうという政府の意図が見られる。

今般、「特別雇用支援業種」に指定された造船産業を巡る動きを追ってみる。

「特別雇用支援業種」指定により事業主と労働者を支援

6月30日、政府は産業競争力強化関係長官会議及び雇用政策審議会を開催し、造船産業を「特別雇用支援業種」に指定した。「特別雇用支援業種」とは、産業構造の変化等による事業規模の縮小、転換、廃業等により、雇用情勢が急激に悪化または悪化する憂慮がある業種を支援するための制度として、特別雇用支援業種に指定された業種(注1)に属する事業主と労働者に雇用維持支援金、特別延長給与、転職・再就職等の支援を行うというもので、2015年12月に制定された「特別雇用支援業種の指定基準等に関する告示」により施行された制度である。

貿易の鈍化による物流量の減少、過剰な設備投資、低価格による受注競争、そして2000年以降の中国の造船業による追い上げ――等、造船産業の不況には様々な原因があるとされるが、2015年は大手造船企業も巨額の赤字を計上し、造船産業は韓国経済に大きな打撃を与えた。その結果、本制度の施行後初めて、今回、造船産業が「特別雇用支援業種」に指定された。

政府による支援の内容

今回指定の対象となったのは、約6500社の造船会社とその下請会社及び関連会社等で合計約7800社に上る。指定期間は2016年7月1日から2017年6月30日までの1年間である。特別雇用支援業種の指定により、企業に対する雇用維持支援金による支援水準を引上げる等の支援を実施する。

事業主は、雇用維持のため労働時間短縮による休業を行う場合、労働者に支給する休業手当の4分の3の支援を受けられる(通常の雇用維持支援金は3分の2)。また、支援限度額は1日1人当たり6万ウォンとなる(通常の雇用維持支援金は4万3000ウォン)。その他、4大保険(注2)の保険料の雇用主負担金の納付期限の延長、障害者の義務雇用負担金の納付期限の延長、等の支援を受けられるようになる。

更に、政府は造船会社の集中する4地域(蔚山、巨済、霊岩、鎮海)において、再就職支援のためのサービスを強化する対策も打ち出している。

造船業の復活は今後の構造改革が鍵

造船産業を「特別雇用支援業種」に指定した政府の今回の措置において、特に注目すべき点は、いわゆるビッグ3と言われる「現代重工業」「大宇造船海洋」「サムスン重工業」の造船大手3社が今回の「特別雇用支援業種」の指定から除外されたことである。

イ・ギクォン雇用労働部長官は「大手3社は比較的受注物流量が多く、経営状況にも余力が見える。今後の経営・雇用状況そして自己救済計画の履行状況等を総合的に考慮したうえで、今年下半期に追加指定するか否かを判断する」と述べた。

造船大手3社に対しては、過去の好況期の経営手法から脱しないまま今日に至り、大幅な賃上げを繰り返すなど、本格的な構造改革に踏み込んでこなかったと、厳しい批判が労使双方に向けられている。今回政府が大手3社を指定対象から除外した背景には、まずは、自ら経営改善に向けた努力する企業から支援していこうという政府の意図があるという見方ができる。

しかしながら、こうした状況にありながらも、大手3社の労働組合がストライキに言及したことや、大宇造船において粉飾会計が明るみに出たこと等によって、造船ビッグ3に対する国民の見方はいちだんと厳しくなった。造船産業の競争力の復活は、今後、本格的な構造改革に踏み込めるか否かが鍵となる。

参考

  • 韓国経営者総協会(KEF)ウェブサイト
  • 「中央日報」ウェブ版
  • 「東亜日報」ウェブ版
  • 「雇用労働ブリーフ2016年5月号」(韓国雇用情報院)

関連情報