工場法改正法案が下院で可決
―中央政府が承認

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2016年10月

インド下院は、8月10日、1948年工場法改正案を可決した。工場法は1987年以来、改正されておらず、現在の労働現場に法律を合わせることを目的としている。経営者側の要望を踏まえて、残業時間の上限規制を緩和する条項が盛り込まれている。野党からはビジネス重視、労組軽視、労働者に負担を強いる法案だとの批判も出ている。

四半期上限50時間が100時間に

現行の1948年工場法の規定では、工場労働者の残業時間の上限を1四半期に50時間と規定している(第64条)。改正法案はこれを100時間に引き上げる。これまで75時間だった例外的な作業をする労働者については(第65条)、115時間になる。また、公共事業に従事する労働者の残業時間上限はこれまでなかったが、125時間とした。

一方、1日当たりの就労時間上限や1日の勤務終了後の休憩時間を義務づけたインターバル規制の内容に変更はない。1日当たりの就労時間の上限は10時間、インターバル規制は12時間であり、例外的な作業をする労働者はそれぞれ残業時間上限12時間、インターバル規制13時間である。なお、1週当たりの残業時間を含む全就労時間の上限は60時間である。

1987年以降改正されないままの工場法

法案の改正趣旨には、工場での緊急を要する生産活動を支障なくすすめるために、現行の残業規制を改正する必要性があるという経営者側からの訴えを踏まえていると記されている。インドの工場法は、1948年に制定されて以来、1970年代までは比較的頻繁に改正されていた。しかし1987年以降は改正されていなかった。その間、インドの社会経済情勢は大きく変化し、新技術の発展に伴って製造現場の労働慣行も大きく変化したため、工場法を早急に改正する必要があった。

バンダル・ダッタレヤ労働雇用大臣は、今回の改正によって企業が事業を運営しやすくなるとともに、雇用機会を創出する効果が期待できると強調している。

モディ政権は2014年5月に発足したが、その直後の8月に工場法改正法案が下院に提出された。議会労働常任委員会での審議を経て、2014年12月に議会での審議が開始された。当初は工場法適用対象となる工場の従業員規模を狭める改正内容が盛り込まれていた(注1)。ただ、その後、議会で審議が繰り返されたものの可決に至らず、残業規制は産業界のニーズに応えるため先行して可決したのである。

左派政党を中心に反対の声

これに対し、左派政党を中心として法案内容と可決方法について反対の声があがった。 改革社会党のプレマチャンドゥラ議員は、議論がつくされていないとした上で、改正法によって雇用創出は実現しないと指摘した。

サンカール・プラサダ・ドゥタ下院議員 (インド共産党マルクス主義派)は、反労働者的で、親使用者的な法案であると非難した。この他、全インド草の根会議派 (All India Trinamool Congress)、ジャナタ・ダル (Janata Dal)、インド連合ムスリム連盟 (IUML)などの政党が法案に反対している。各州にはそれぞれ個別の工場法があるが、改正法案はそれに抵触し、州政府の権限を侵していると複数の国会議員が非難した。

これに対して、ダッタレヤ労相は、中央政府の法案は各州の工場法を踏まえて、追加的な措置であるため、州政府の権限を侵すものではないと反論した。

野党は、労組軽視と批判

野党・インド国民会議のマリカルジュン・カージ党首(元労働雇用大臣)は、ビジネスを重視するあまり、労組を軽視しており、しかも残業時間を増やして労働者に負担をかける法案だとしている。改正内容を残業時間の規制緩和に絞った可決を、拙速であると非難している。

ダッタレヤ労相は、今回改正されるのは残業時間の上限であって、就労時間の上限については従来どおりであるため労働者保護の観点からも問題ないとしている。また、残業時間の上限基準が月当たり48時間、四半期で144時間としているILOの基準からみても、適切であるとしている。

法案は下院での可決を受けて、上院での審議に入っている。

参考資料

(ウェブサイト最終閲覧:2016年10月20日)

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