労働改革関連法案を巡る動き
―19代国会での廃棄と20代国会での見通し
5月19日、19代国会は本会議最終日を迎え、与党セヌリ党が提出していた労働改革関連法案は規定により自動廃棄となった。政府・与党は次期国会で同法案を成立させたい意向であるが、4月13日の総選挙の結果、与党セヌリ党が後退したことによって、同法案の成立の見通しはいちだんと暗くなった。
労働改革関連法案とは、朴槿恵政権が、大企業と中小企業あるいは正規職と非正規職との格差問題、いわゆる労働市場の二重構造を解消するために推進してきた構造改革の一環で、労働基準法、労働者派遣法、雇用保険法、労災保険法の4法(当初は期間制労働者法を含めた5法)の改正を目指したものである。
労働改革関連法案とそれを巡る19代国会での与野党の攻防、そして選挙後の見通しについて整理する。
格差解消を目指す労働改革関連法案
年功性の強い賃金体系と厳格な解雇要件に守られた大企業の正規職と、低賃金や限られた雇用期間という処遇で働く下請け企業の労働者や非正規職、これら二者間の格差問題、いわゆる労働市場の二重構造問題を解消するため、より柔軟な労働市場へと転換を図ろうとする政府と与党セヌリ党は2015年9月、労働関連の5つの法案を国会に提出した。すなわち、労働基準法、労働者派遣法、雇用保険法、労災保険法、期間制労働者法の5法の改正案で、労働改革5法案と呼ばれた。
各々の主な改正ポイントは次のとおりである。▽労働基準法については、職務成果型賃金体系へ誘導していくために、通常賃金と賞与の概念を明確に定義するというもの。▽労働者派遣法は、高齢者、高所得の専門職には派遣許可業務を拡大するというもの。▽雇用保険法は、給付金額と期間の引上げ・延長等と共に、給付要件を一部強化するというもの。▽労災保険法についても一部給付を制限するというもの。▽期間制労働者法は、期間制労働者の使用期間を現行の2年から4年に延長するというもの。
19代国会での廃棄が決定
労働改革5法案に対して、野党及び労働界は労働権が侵害される等の理由で、一斉に批判の声を上げた。これに対し与党セヌリ党は、まず、期間制労働者法については、長期的課題として引下げ、一歩後退させた姿勢を示しつつ、4法案については、一括して処理することを提案した。対して共に民主党等野党側は、与党側の提案には応じず、その後与野党の攻防が続いた。所管の常任委員会である環境労働委員会では、与野党の対立と駆け引きに終始し、まともに議論されることもなかった。
結局、国会の本会議にも上げられないまま、5月19日、本会議は最終日を迎え、規定によって労働改革4法案は自動廃棄されることに決定した。
総選挙の結果、与党セヌリ党が大きく後退
与党セヌリ党は20代国会にも同じ法案を再発議すると見られているが、4月13日の総選挙の結果(表1)、セヌリ党は大きく後退する一方、労働界の全面的な支持を受けて当選した多くの議員によって構成される20代国会においては、労働環境委員会でも労組出身の議員が多く布陣し、活発な活動を展開することが予想され、政府とセヌリ党にとっては、労働改革関連への道のりはいちだんと険しくなったと見られている。
主な政党 | 選挙前議席数 | 選挙後議席数 |
---|---|---|
セヌリ党 | 146 | 122 |
共に民主党 | 102 | 123 |
国民の党 | 20 | 38 |
正義党 | 5 | 6 |
その他・無所属 | 27 | 11 |
合計 | 300 | 300 |
次期国会での成立に向けて、青瓦台コメント
労働改革4法案の自動廃棄が決定した5月19日、青瓦台(大統領官邸)はコメントを発表した。
この度の法案廃棄によって、雇用への希望と新たな跳躍力となるはずの絶好の機会は失われたと、キム雇用福祉主席は心情を明かした。労働改革は、現在と未来の世代に関わる問題であり、決して政争の対象としてはならず、政治的利害関係にからめて取引の手段としてはならない。労働改革には、一部既得権を手放さなければならないという苦痛も伴うものであるが、国家の未来のため、労働改革をこれ以上先延ばししてはならず、全ての国民が力を合わせて成し遂げていかなければならないことを強調し、20代国会での通過を訴えた。
労働分野の各党公約
今回の総選挙における主な政党の労働分野の選挙前公約を取りまとめると、表2のとおりとなる。
セヌリ党 |
等、雇用の量的拡大に重点を置いた政策。 |
---|---|
共に民主党 |
等、労働市場の二重構造問題の解消を全面に出す。 |
国民の党 |
等、大企業と中小企業の格差、非正規職の保護に関する公約が多い。 |
正義党 |
等、青年雇用政策を強く訴える。 |
参考資料
- 中央日報web版、MBCニュースweb版、ハンギョレweb版、連合ニュースweb版、News1 Korea、 雇用労働部ウェブサイト
参考レート
- 100韓国ウォン(KRW)=8.96円(2016年8月23日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
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